第61話 1万回記念アップデート! 【SR】以上確定ガチャチケット
二つ目のガチャ『【R】10』により、俺の店には客が集まり始めていた。
ありがたい事に売上は普段の数倍になった。
必然的にガチャが回される回数も増え、通算1万回が目前へと迫っていた。
2日後、遂に記念すべきその日が訪れた。
白金の甲冑に身を包んだ客が10連ガチャを回した時だった。
突然、目の前の『初号機』の筐体が眩い光を放った。
甲冑の男は反射的に仰け反る。
後列の客からはざわめきが起こった。
美波が棒立ちのまま眩しそうに目を細める。
「これアプデ来たんじゃね」
「だな。今引いたのでちょうど1万回だ。頼むぞ~。神アプデであってくれ!」
『初号機』から放たれる光が収まると、例の機械的な女性の声でアナウンスが流れた。
≪1万回の御利用誠にありがとうございました。『スキルガチャダス』の仕様はアップデート致しましてver1.0.4に変更致します。新たに100回毎に提供される『【SR】以上確定ガチャチケット』を追加させて頂きます。ご理解とご了承を何卒よろしくお願い致します≫
『【SR】以上確定ガチャチケット』だと?
チケットなどというこれまでに無かった用語に戸惑う。
どういう仕組なのかアナウンスに質問してみる。
「その『【SR】以上確定ガチャチケット』ってのは、ガチャを100回引く毎に貰えるのか?」
《はい。その様になっております。チケットは100回毎に1枚排出されます≫
「そのチケットはどうやって使うんだ?」
《一万円札の差し込み口に挿入して頂ければ御利用可能となっております》
なるほど。一万円札と同じ大きさなのか。
しかし100回毎にSR以上確定のチケットを配るなんて太っ腹だな。
ソシャゲ運営ならその英断が絶賛されるだろう。
アナウンスの発言を聞いていた客たちから歓声が上がる。
「おい聞いたか? 100回毎に【SR】チケットが貰えるってよ!」
「それじゃタイミング合わせれば100連ガチャで【SR】確定じゃねえか!」
「1人100回までの回数制限はあるけどな。【SR】がおよそ100分の1だから運が良ければ2枚はゲット出来るかもな」
「なんだよ。もっと早く導入してくれよ~。俺もう50回くらい引いちゃったよ」
「私は夢の【SSR】や【UR】を狙ってくわよー」
「こうしてみると回数制限が鬱陶しいな。中級の探索士なら100万円くらい軽く用意出来るだろうし、もっとガチャを回したい者も多いだろうよ」
「今後のアップデートとやらに期待ですね」
このバージョンアップにより、客が注ぎ込む金額が更に増え始めた。
俺の店の前には開店以来これまでで一番の行列が出来ていた。
美波に他のショップに迷惑がかからないよう、客の整列と誘導を頼む。
「只野こんなに客入ってるんだから大入り袋求む」
「ああもちろんだ! 今日は大盤振る舞いだ。寿司も奢ってやる!」
「回らない店でよろ」
この日の「スキルガチャ屋只野」はショッピングセンター内で一番の活気があった。
忙しさにてんてこ舞いで目が回る。
客の来ない辛さを知ってる分それも嬉しい悩みではある。
『氷結の森迫』のせいで客が来ない時期は廃業も覚悟したが、この調子なら今後もやっていけそうだ――。
以前に挑戦したキラーアント狩りのミッションでスタミナ切れの恐ろしさを痛感した。
そこで俺は予てから考えていた魔力とスタミナ強化のアクセサリーを制作する事にした。
モヒカンに依頼してみると「細かい細工は得意じゃねえな。本職の人間を紹介してやるからそいつに頼んだらどうだ? ちょっと変わってるが名人で腕は確かだ」と言われた。
他にあてもないのでその人物の店を尋ねる事にした。
Y県の海沿いに小さなアクセサリーショップがあった。
白い板張りの店舗がどことなくサーフショップを想起させる。
ここが紹介された千代さんの店か。
看板にはローマ字で「CHIYO’S SHOP」と書かれていた。
早速入店してみると、中は薄暗かった。客は誰もいない。それにやたらと埃っぽい。
店内には宝石店の様にガラスのショーケースが置かれ、指輪やネックレス等が売られていた。
値札が付いてなかったり、数字がかすれて読めなかったりで、あまり商売っ気のない店なのかもしれない。
「ごめんください! モヒカンに紹介された只野です。千代さんはいらっしゃいますか?」
俺の呼びかけにも無反応だ。この店本当に営業中なのか?
呼びかけが届いたのか、遅れて老婆がやってきた。
顔中しわだらけで80、90歳以上といわれても違和感のない雰囲気だった。
「はいよ。どこのどなたさんですか」
「客です。只野と申します。あなたが千代さんですか?」
「ええっ!? なんだって? すまんが耳が遠いのでゆっくり大声で話してくれんかね」
「只野です!! あなたが、千代さんですか!!」
「はい。私が千代ですよ。一体何の用できたんだい」
「魔力とスタミナを、強化する、アクセサリーを、作ってください!!」
「あー。はいはい。分かりましたよ」
今のちょっとしたやり取りでドッと疲れてしまった。
これは介護職の人は大変だろう。
千代婆さんは何やら紙にメモを取り始めた。
達筆な字で素材の名前を記入している。
「ここに書かれた素材を集めて持ってきてね」
「これが、アクセサリーを作るのに、必要な素材なんですね!!」
「はいはい。そういう事ですよ」
メモに書かれた6つの素材は『赤蝮の抜け殻』『巨大鼈の甲羅』『霊魔術師の宝石』『妖精の魔力結晶』『パーフェクトチタン』『インフィニティパワーストーン』だった。
『赤蝮の抜け殻』『巨大鼈の甲羅』『霊魔術師の宝石』『妖精の魔力結晶』の四つはたしか入手した事があるので、ドロップする魔物を狩れば容易に手に入るだろう。
問題は残り二つの『パーフェクトチタン』と『インフィニティパワーストーン』だ。こんな名前聞いた事もない。
千代婆さんに訊ねてみる。
「チタンや、パワーストーンは、どこで手に入るんですか!!」
「晩御飯はさっき食べましたよ」
「晩御飯!? いえそうじゃなくて、石やチタンは、どこで入手出来るんですか!!」
「お風呂の準備が出来たのかい? 私は最後でいいよ」
ダメだこりゃ。
耳が遠いのと、少し痴呆も始まっているのかもしれない。
こんな状態でアクセサリーなんて作れるんだろうか。
まったくモヒカンもとんでもない店を紹介してくれたもんだ。
ちょっと変わってるじゃなくて、ちょってぼけているの間違いだ。
今も客の俺がいるのに眠そうに目を閉じ、口をむにゃむにゃしている。
呆れ返っていると婆さんは突如刮目し、正気に戻ったのか俺の質問に答えてくれた。
「パーフェクトチタンは『葛西原ダンジョン』の52層の鉱石場で採掘出来るさね。インフィニティパワーストーンは『鷺沼ダンジョン』の46層を歩いていると偶に落ちてるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
それだけ答えると、また婆さんはむにゃむにゃし始めた。
こうなるともう何を質問してもちゃんとした回答は返ってこないだろう。
謎のスイッチがあるらしい。
所在地は聞き出せた。あとは採集するだけだ。
しかしこの婆さんは、俺が素材を集めてきてもちゃんとアクセサリーを作ってくれるのかだろうか心配だ。
俺は四つの素材を早々に集め、残りの二つの鉱石を求めた。まずはパーフェクトチタンを採集するため『葛西原ダンジョン』を目指した。
52層の鉱石場で採掘出来るとの事だったので、一人で挑むには厳しい深さだ。
そこで美波とメイに手伝ってもらう事にした。
あれからメイの英霊アツモリは更に成長し180センチくらいの大きさになっていた。
黒い甲冑と相まって、非常に厳つく不気味な風貌だ。
持ち主のメイは「アッちゃん」と呼んで可愛がっているが。
アツモリは美波と競い合うように、前衛で奮闘した。
頑丈さを活かしタンクとして敵のヘイトを集めてくれる。
そのおかげで非常に探索が楽になった。
美波はアツモリをじろじろと眺める。
「おい只野。こんな便利なスキルカードがあるならなぜ私にくれんのだ」
「英霊なんて貴重なカードお前にやる理由がないわ。メイは誕生日だったからプレゼントしただけだよ。後衛のメイにとってはピッタリだと思ってな」
すると美波はただでさえ悪い目付きなのに、ジト目で睨んでくる。
「ふうん? 本当にそれだけかな。下衆な下心でもあったんじゃないか。卑猥な見返りを求めていたんだろう? この破廉恥アラサーが」
「そんな疚しい気持ちはないっての! メイに失礼だろ。謝れこのこけしがっ」
「誰が謝るか。私がこけしならお前はもやしだ。貧弱な薄情者め」
今日の美波はなぜかやたらと突っかかる。
遅れてきた反抗期か?
メイは慌てて「ち、ちょっとお二人さん。仲良くしましょうよ~」と仲裁に入る。
アツモリも「御座る!」と同意した。
もしかしてこいつ、メイにだけ立派なプレゼントを贈ったものだから嫉妬してるのか?
これは美波の誕生日にもちゃんとしたプレゼントを贈らないといけなくなったな。
52層に辿り着き、鉱石場を探す。
よく見るとこの層の壁は、キラキラと宝石が散りばめられたかの様で美しかった。
探索を続けると、鉱石場と思しき場所を発見する。
その中で珍しいメタリックシルバーの鉄鉱石があった。
図鑑で見た『パーフェクトチタン』の特徴と一致していた。
用意したピッケルで採集し、これで残るは『インフィニティパワーストーン』だけだ。
「簡単に手に入って良かったですね」
「ああ。二人が協力してくれたおかげだよ。この調子でパワーストーンも手に入れたいな」
ところが『インフィニティパワーストーン』を手に入れるのに想像を絶する苦労が待ち受けているとは、このときの俺は想像だにしなかった。
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