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第60話 初めての弟子はギャルJK

 この日、俺は市民センターの一室にいた。

 隣の部屋では高齢者たちが押し花や着付け教室を行っている。


 なぜこの様な、若者には縁のない場所を訪れているかと言うと、Aランク昇格のための<指導実績>を積むためにに講義を行う事になったのだ。

 もっとも初めての講義で、実績もない俺が教えられるのはFランクになりたての初心者探索士だけだったらしい。

 


 狭い会議室の様な一室。テーブルがコの字形に置かれている。

 俺はホワイトボードの前に立ち、オホンと咳払いをした。


 今日集まったのは3人。

 皆駆け出しという事もあり若い。10代~20代といったところか。

 覇気の無い暗そうな眼鏡の男と、何もしてないのに汗まみれの肥満男性、美波と同じ年くらいのギャルっぽい女の子だ。

 明るい髪色にふんわりとした毛先。白いニットのカーディガンで胸元にはハートのアクセサリーが目立つ。


 俺は前日youtuveで確認してきた初心者用の講座を参考にし、レクチャーを開始することにした。


「それではダンジョン探索講座を開始します。今回皆さんへの指導を行うB級探索士の只野と申します。よろしく」

「……」

「……よろ……」

「よろしくお願いしまーす」


 男二人がボソボソと返事を返す中、ギャルっぽい女の子だけ大声で返事してくれた。

 見た目に反して中身はいい子なのかも。

 3人とも俺がBランクのプロ探索士だと聞いて、ちょっと目の輝きが増したようだ。



「まずは探索士試験合格おめでとうございます。これから皆さんは自由にダンジョンを探索する事が出来るわけですが、いくつか守って頂きたい注意事項があります。これは自分の経験談も踏まえた上でお伝えしていきたいと思います」


 まさかこいつらは俺が去年までEランク探索士だったとは思わないだろうな。

 長い間雑魚専だったので駆け出しの彼らには良いアドバイスが送れそうだ。


「まずもっとも大切なのが「無理はしない」という事です。ダンジョンには何度でも再挑戦が可能です。命を大切に行動することを第一に心がけましょう。また金銭的な条件も各自異なるでしょうから、初めから良い装備でスキルも沢山持っている状態でスタートする事は難しいでしょう。防具と回復用ポーションだけは最優先で用意しましょう。種類はなんでもいいので頭部を守るヘルメットに、プロテクターか厚手の生地の服を着るようにしましょう」


 そこでギャルっぽい少女が挙手をした。


「えーと、はいじゃあ、そこの女性の方」

「質問でーす! 探索に必要なスキルカードとかポーションってどこでどうやって買うんですか?」

「各専門店でF級探索士ライセンスを提示してください。探索士ナンバーを登録すればインターネットでも買えますよ」

「へー。知らなかったなー」

「話を戻しますね。次に探索の仕方です。ダンジョン内は光を放つ苔の影響でどこも昼間の様な明るさを保っています。整備されたダンジョンでは電気が通っていたり時計があったり水飲み場があったりします。とはいえ万が一に備えて、懐中電灯や飲み水保存食は用意しておきましょう」


 そこで眼鏡の暗そうな男が小さく手を上げた。


「荷物とかかなり増えそうなんですが重くないですか? 魔物倒したら素材とか拾えたりするんですよね?」

「探索士協会に申請すれば『収納』の効果を持つ布袋を貰えますよ。ただし、魔石や素材、ポーションといったダンジョン産アイテムだけしか収納出来ない仕様です。自分の荷物は自分で持つしかないですね」

「はあ。それ知らなかった……」

「次に、魔物の倒し方です。初めは第一層に出てくるゴブリン、コボルトを倒せるようになりましょう。スライムは踏んづけるだけで倒せますが、ゴブリンやコボルトは人間の子供くらいの大きさなので中々倒すのに勇気がいります。初めは退路をキチンと確保した上で一匹ずつ相手にしましょう。複数匹を相手にすると攻撃を食らう可能性が高まります。回復手段の少ない初心者は小さな傷も命取りになるので、ノーダメージで倒せる確証を持って挑戦しましょう。敵に囲まれにくいので、挑戦するなら初心者用の狭い小型ダンジョンがおすすめです。次回の講義では『豊島町ダンジョン』に行って実際の探索を行ってみましょう」

「はーい! 初めてのダンジョン楽しみだな~」


 こうして初回の講義は滞りなく終わった。

 明るいギャル少女だけがノリノリだったのが気になる。






 次回講義の日。

 そこにいたのは少女一人だけだった。

 どうやら男二人は俺の講義を受けるつもりはないらしい。

 強制ではないので仕方ないが、なんだか寂しい。


「只野センセー。こんにちわー」

「ああ。来てくれたのは君だけか。えーと名前は」

犬井茉莉奈いぬいまりなだよー。ピチピチのFJKなんでよろしくね」

「ジョンエフケネディ?」

「違うよー! FJKは高校一年生って意味だよ。センセーうける!」


 そう言って彼女は腹を抱えた。

 先生と呼ばれると女子校の教師になった気分だ。

 ていうか1日で一気に距離詰めてきたな。

 これが現代っ子の距離感なのか。


「えーとそれじゃ犬井さん」

「茉莉奈で良いよー。気軽にそう呼んでね。センセーと私の仲でしょ?」

「会って2回目でどんな仲だよ。あー分かったよ茉莉奈。とりあえず言った通り装備は固めてきてくれたな」

「はいよー」


 茉莉奈はスケボー用のヘルメットに白いスノーボードウェアでやって来た。

 とりあえず肌が露出してないので、ゴブリンの棍棒やコボルトの爪が刺さる事はないだろう。

 武器としてアイスホッケーのスティックを持参していた。


「長物はスティックで十分だが、とどめを刺すのには不安が残るな。手こずったらこれを使ってくれ」

「これってバール?」

「ああ。敵が中々死なない時はそれを脳天に突き刺せばすぐ終わるぞ。初めは勇気がいるがすぐ慣れる。そういえば茉莉奈はスキルは何か持ってるのか?」

「お年玉で買った『恐怖耐性(微小)』と『耐久上昇(微小)』の二つだよー」

「おお。良いパッシブを持ってるじゃないか。それなら取り乱す事もないだろう。ものは試しだ。それじゃ出発しよう」

「うわ~! めっちゃドキドキしてきたんだけど~」



 茉莉奈を連れて懐かしの『豊島町ダンジョン』に潜行する。

 ここは何千回も訪れているので庭と言っても過言ではない。


 ちなみに『スキルガチャダス』をドロップした虹色のスライムの様な魔物は『ミラクルムーバー』と呼ばれる超極希少な魔物だった。

 天文学的な確率で現れ、その者がもっとも欲しがるスキルカードをドロップするらしい。

 『ミラクルムーバー』はUMAの様な噂話と受け止められているが、実際に遭遇した俺は真実であると知っている。



 茉莉奈はダンジョン内部を恐る恐る歩いている。

 大分へっぴり腰だ。

 まあ初心者はこれくらい慎重な方が良い。


 茉莉奈はスライムを何匹か踏み潰して、初めての魔石に目を輝かせていると、前方の隘路からゴブリンが一体現れた。


 厄介な事に出刃包丁の様な武器を持っている。

 これは撤退して、体勢を整えた方が良いかと考えていると、茉莉奈がスティックを持って突撃した。

 狭い道なので、スティックを槍の様に前に突き出す。

 ゴブリンの土手っ腹にスティックが当たり、ゴフッと息を詰まらせ転倒する。


 腹を抑えて苦しむゴブリンを、振りかぶったスティックの一撃で仕留める。

 淡い光を残し、ゴブリンは魔石だけを残して消えていった。


「やるじゃないか茉莉奈。思い切りのいい素晴らしい攻撃だったぞ」

「私もびっくりー。なんか身体が勝手に動いたかもー。もしかして探索士の才能ありって感じ?」

「調子に乗るな。ゴブリン一匹倒しただけだろ。本当だったら索敵をキチンと行って、不意打ちを食らわせるのがベストなんだ。昔俺が編み出したノーダメージで敵を倒せるやり方を教えてやるよ」

「本当にー? 教えて教えて!」


 茉莉奈は運動神経も良く、勘もいい子だった。

 俺の得意戦法だった、物陰から小石を投げて向こうに注意を払っているゴブリンを後ろから襲う『ステルス・キル』を伝授すると、早くも習得した。 


 その後も様々な場面を想定した戦い方を教えていった。

 複数匹を相手にするなら、一本道に誘い込んで一匹ずつ仕留めるとか、長物のリーチを活かして遠間から攻撃するといったことだ。


 調子に乗らない様に、下の階層に下りてオークとホブゴブリンの姿を見せると「あんな化け物絶対無理無理!」とビビリまくっていた。

 エナジーガンで簡単に仕留めると「センセーまじ半端ないわー」と目をキラキラさせて俺を見た。 女の子に褒められるとやはりちょっと誇らしい。 


 Eランク昇格には探索士協会が定めた、ゴブリン討伐300体以上或いはコボルト討伐150体以上の討伐が必要だと告げると茉莉奈は「まじ? つらたん」とつぶやいた。 




 その後、連絡先を交換して別れた。

 自宅に着いてスマホを確認すると「今日はめっちゃ参考になったよー! あざまる水産。また教えてくれると3150に助かる!」というメッセージが届いていた。


 意味不明の言葉に軽く頭を抱える。

 俺の初めての弟子はバリバリのギャルだった。

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