第58話 ダンジョンの中で魚釣り。川の『ヌシ』を釣れ!
今日もまた<奉仕実績>をこなそうと思い、探索士協会を訪れていた。
指定のフロアに向かい壁に貼られたミッションを確認する。
依頼書には様々な要望が書き込まれていた。
その中で一つ、気になる文章を見つける。
<『糸魚ダンジョン』第27層の川でヌシを釣り上げたい。どなたか協力してくだされ>
ダンジョンの中に川があるのか?
ヌシを釣りたいって事は釣りが出来るって事だよな。
まるで想像が出来ない。一体どんな場所なんだろう。
興味を引かれてスマホで検索してみた。
ヒット数の多さから『糸魚ダンジョン』は有名なスポットであるらしい。
一番上の検索結果から紹介記事を読んでみる。
『『糸魚ダンジョン』は各層に川が流れていて、水棲の魔物が多く出没するダンジョンです。魚型の魔物を釣り上げる事も出来るので、釣り好きの探索士からは聖地として愛されている場所でもあります。一度『魔物釣り』にハマってしまうと他の釣りが出来なくなってしまうほどの魅力を秘めています。あなたも一度聖地を訪れてみるのはいかがでしょうか?』
まさか魔物を釣る事が出来るだなんて思いもしなかった。
ダンジョン内で川や湖などはたまに見かけるが、魔物が襲ってくるわけだし悠長に釣りなんてしている余裕もない。
しかしこの「ヌシを釣りたい」というミッションは面白そうだ。引き受けてみよう。
俺は釣りに関しては全くの素人なので問題ないか気になるところだ。
そこで職員に頼んで依頼主と連絡を取ってみると、第27層にソロで潜れる実力があれば問題ないとの事。
今回のミッションは『川のヌシ釣り』に決定だ。
『糸魚ダンジョン』に現れた依頼主は小柄な老人だった。
背中に大きなリュックを背負っており、そこから釣り竿が飛び出している。
釣り竿が通常の10倍くらいの太さなのが気になった。細めの丸太くらいの口径がある。
爺さんは俺の視線に気付いたのか、挨拶もそこそこに釣り竿の自慢を始めた。
「お前さんこの竿に目を留めるとはお目が高いのう。これはロッドの芯に『プラチナミスリル』を使用して剛性を獲得、穂先部分にしなりの良い『バネ男のスプリング』を使用したその名も【オメガ・カーボンロッド】じゃ!」
「は、はあ」
「なんじゃ、この竿の凄さが分からんのか。まあ良い。ワシは川野三吉。釣り仲間からは『釣りキチじいさん』と呼ばれておる。よろしくのう」
「B級探索士の只野です。よろしく。今回の依頼は第27層の川でヌシを釣り上げたいとの事だが、俺は具体的に何を手伝えば良いんだ?」
「まず、敵が襲ってこないように護衛を頼みたい。次にヌシがかかった場合、ワシの身体が持ってかれないように支えて欲しい」
「身体を持ってかれるってどういう意味だ?」
「言葉通りの意味じゃ。ヌシは恐らく5、600キロ位の重さがあってのう。過去に挑戦した時は竿ごと川に引きずり込まれたんじゃ」
「5、600キロ!? それもう魚じゃないでしょ!」
「あの手応えは間違いなく魚じゃ。まあ正しく言えば魚型の魔物じゃな」
これが魔物釣りという世界か。
確かにこれだけ刺激的だと普通の釣りでは満足出来なくなるだろうな。
「今日は何本か竿を持ってきた。余裕があればお前さんも魔物釣りに挑んでみるとよい」
「楽しそうだけど、怖そうでもあるな」
「なあに。ヌシが特別なだけで他の魔物は数十キロ程度だから安心せい」
「それでも十分重い気がするんだが……。まあ物は試し。やってみようかな」
「その意気じゃ。お前さんも絶対釣りの虜になるぞい。さあレッツフィッシング!」
そういうと釣りキチじいさんは、子供が5人くらい入りそうなリュックを担いで『糸魚ダンジョン』へと向かっていった。
こんなにノリノリでダンジョンに入っていく人は初めて見た。
俺たちは第27層目指して潜行を開始した。
このダンジョンはどこの階層にも川が流れているのが特徴だった。
階層によって釣れる魚は変わっていき、やはり下に潜れば潜るほど強い魚になっていくそうだ。
小柄な爺さんがそんな深さまで潜れるのか心配になったが、釣りキチじいさんは戦闘面では中々の強さを誇った。
襲ってくる魔物を【オメガ・カーボンロッド】を鞭のように振るって攻撃した。釣り竿だけではなく武器としても使えるらしい。
「爺さんやるじゃないか。結構強いんだな」
「魔物を釣るために身体能力上昇系のパッシブで強化したからのう。まあワシの場合戦闘用のスキルは少なく『水棲系エンカウント率アップ』とか『魚系魔物攻撃力アップ』、『気配遮断』等の釣りのためのスキルばかりなんじゃが」
俺の『スキルガチャダス』は戦闘用の実用的なスキルカードしか排出されないが、世の中には実に様々なスキルカードが存在する。
カードショップに行くと、一体何に使うのか目的が不明なカードがあるのだが、どうやらこの爺さんの様なマニアや愛好家が買っていくらしい。
知らない世界を覗いて一つまた勉強になった。
3時間ほどかけて目的の第27層へと辿り着く。
そこに幅100メートルくらいありそうな大きな川があった。
河川敷を歩き、目当てのスポットに向かう。
見晴らしが良いので魔物が襲ってきても直ぐに気が付きそうだ。
爺さんから予備の竿を渡された。
こちらも通常の釣り竿の5倍くらいの太さがあった。糸も中太麺くらいの太さである。
雑魚でも数十キロだというから『魔物釣り』はスケールがでかい。
魚型の魔物の素材で作ったルアーを付けて、キャスティングした。
その後爺さんに言われた通り竿をしならせたり、糸を巻いたりしてルアーを泳がせ、生きている魚である様な動きを心掛けた。
数分後、俺の竿に当たりが来た。
凄まじい重さだ。体ごと川に持ってかれそうになる。
まるで大型犬を散歩していてて、リードを引っ張られているかのようだ。
「おわっ! かかった! これどうするんだ!?」
「ラインがたるまないようにしっかりリールを巻くんじゃ」
「分かった!」
言われた通りリールを巻いていくと、今度は魚が猛烈に抵抗した。
「重くてリールが巻けないぞ!?」
「今は魚を自由に泳がせるんじゃ。無理に巻くとラインが切れてしまうぞい」
ラインに注意しながら魚を上手く泳がせる。
少し抵抗が弱まったのでリールを巻いていく。
これを繰り返し、徐々に魚が岸に近づいてきてるのが分かった。
「よし! もう釣れそうだぞ」
「バラさないように気を付けるんじゃ。水面に出た時が一番針が外れやすいからのう」
「OK! きたきた~。フィッシュー!!」
俺は謎の掛け声を発しながら魚を釣り上げた。
そこには2メートルくらいの大きさの、長い角を持った青いカジキがかかっていた。
パッと見て魚にしか見えないが、こいつも魔物らしい。
まあ川なのにカジキが釣れるわけがない。
「こんなでかいの釣り上げたの初めてだぜ! いつも魚を釣り上げたらどうしてるんだ?」
「まず記念撮影をする。パシャリ」
「それからそれから?」
「銛で一突きじゃ。グサリ」
「ええっ!?」
そう言って釣りキチじいさんは俺の釣り上げたカジキの眉間辺りに銛を突き刺した。
ビクン! と体を震わせてカジキは大人しくなった。
すると絶命したのか光を放って消滅してしまった。
そこには魔石とカジキの角だけが残っていた。
「殺しちゃうのかよ?」
「まあ魔物だし食うわけにもいかんしのう。魔石と素材を回収して釣りスキルを強化していくのが大切じゃ。釣ったら仕留めるのがワシのルールじゃな」
「それじゃヌシを釣り上げても殺すのか?」
「まあな。リリースはせん。とは言っても今のカジキの10倍の重さの化け物じゃ。気を抜いたらワシらが殺されるぞい」
どんな化け物に挑んでるんだよこの爺さんは。
釣りキチどころかマジキチだ。
これはとんでもないミッションを受注してしまったかもしれない――。
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