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第52話 温泉へ行こう② 楽しい温泉回。幻の秘湯を求め第31層へ

 女湯はほとんど貸し切り状態だった。

 探索士の比率が男性の方が多い事もあり、女性の入浴者は少なかった。


 内部は意外と広く、浴槽は岩盤を削って掘った無骨な岩風呂だ。

 30人くらいまとめて入れそうな広さだった。



 メイは長い髪をアップにまとめ、簡易的な流し場でかけ湯をして湯に浸かった。


 足先から徐々に身体を沈めていく。

 やや熱めの温度が心地良い。

 ふくらはぎ、太もも、腰と鳥肌が立っていく。

 肩まで浸かると体中に波紋のように温かさが広がる。


「はわぁ~っ」


 思わず気の抜けた声が出る。

 温泉は久し振りだ。

 学業や探索士での仕事といった、日頃の疲れが開放されていくようだ。


「湯加減はどうだにゃ?」


 いつの間にか隣に猫田がいた。

 毛先のはねたいつもの猫っ毛ではなく、濡れてぺったりとした髪型になっている。  


「とても素晴らしいです。まるで極楽ですね」

「本当だにゃ。都内から遠路はるばる来て良かったにゃ」

「はい。でもまさかダンジョンの中にこんな素敵な温泉があるだなんて知りませんでした。この温泉に入れるのは探索士だけなんですよね」

「そうだにゃ。今ほど探索士になって良かった日はないにゃ」

「ふふ。おおげさですね」


 メイと猫田がのんびり湯に浸かっている少し離れた場所で、アリサとステフが楽しそうに歓談していた。


「どうかしらステフ。初めての温泉は?」

「オー! 最高デース! 体中がポカポカしマース」

「ここは泉質が良いのね。湯上がり後もしばらく魔法瓶の様にポカポカしているはずよ」

「それは素晴らしいデース。あとお肌がスベスベしてる様な気もしマース」

「本当ね。軽やかでサラサラだわ。無色透明だし単純温泉なのかしら」

「温泉も色々種類があるんデスねー」

「とても奥が深い世界なのよ。今度はステフの住むZ県の温泉に行ってみましょうか」

「オー! それはグッドアイディアデスねー! 行きましょうアリサ」


 ステフとアリサが大人らしい会話を楽しんでる中、美波と萌仁香の高校生コンビは相変わらず騒々しい。


「いや~極楽だじぇ。それにしても意外と熱いじぇな」

「42、3度はあるな」

「うちのお風呂は結構ぬるめだから熱く感じるじぇ。そうだ、良いこと思いついたじぇ! どっちが長く湯船に浸かってられるか我慢比べしようじぇ」

「アホか。くだらん」

「おーっと? 負けるのが怖いんだじぇか? ちっぱい中学生の美波は直ぐギブアップしそうだじぇ」

「ふん。お前みたいな畜生青狸体型の女に負けるか」

「言ったな貴様! だったら勝負だじぇ」

「望むところだ」




 

 女湯と男湯を仕切るのは高さ3メートルほどの衝立だけだった。

 そのため女性陣の会話は隣の男湯にだだ漏れだった。


「美波と萌仁香め。相変わらずアホな争いを繰り広げてやがるな」


 男湯は女湯と異なり満員御礼だった。

 広い湯船には所狭しと20人以上の男たちが浸かっていた。


 スケープゴートが沢山いるおかげでムッツの魔の手から逃れる事が出来た。

 ムッツは「眼福眼福♪」と言いながら漢祭りを愉しんでいた。


 

 温泉をたっぷり堪能し、休憩場に向かう。

 風呂上がりはコーヒー牛乳だ。懐かしい瓶に入ったタイプなのが嬉しい。

 ベタに腰に手を当てて飲み干す。


「くぅっ~~!! 最高だぜ!」


 休憩場で涼んでいると、女性陣も遅れてやってくる。

 化粧は落としたのか皆すっぴんに近い。

 それでも十分綺麗なのは顔面偏差値が高い証拠だ。


 美波と萌仁香がゆでダコの様に真っ赤になって出て来た。二人共フラフラだ。


「ど、どっちが勝ったんだじぇ」

「知らん。多分私だ」

「う、嘘をつくなだじぇ! ボクの方が長く浸かってたはずだじぇ」

「途中から意識があやふやで覚えてないわ」

「じ、実はボクもだじぇ。とりあえずドローだじぇな」


 アホなのかこいつらは。意識が飛びそうになるまで張り合うなっての。

 倒れられても困るのでスポーツドリンクを買って二人に渡す。


「ここはコーヒー牛乳だろ」

「いやフルーツ牛乳だじぇ」

「相変わらずズレたセンスしてるな。街の銭湯に行ってみろ。圧倒的シェアを誇っているのはコーヒー牛乳だ」

「なにおう! フルーツ牛乳こそ至高だじぇ。酸味と甘みが調和した格別の一杯だじぇ。シェア率だなんてどうでもいいじぇ。異論は全く受け付けてないじぇ」


 まったくこいつらは口を開けば喧嘩ばかりだ。

 



 それぞれが湯上がりの火照った身体を冷やしていると、なにやら場に似つかわしくない老人を見つけた。

 ここにいる探索士のほとんどが若者から中年である。

 70歳くらいに見えるどこか仙人めいた老人が話しかけてきた。


「お前さんたち強そうじゃのう。もしかしてプロの探索士か」

「ああ、よく分かったな。ほとんど全員B級以上の探索士だよ」

「ほう。それだけの人数なら『幻の秘湯』にも行けるかも知れんな」

「幻の秘湯?」

「実はこの鬼怒川温泉ダンジョンは他のフロアにも源泉が湧き出ておっての。特に第31層の泉質は極めて効能も高く、周囲の素晴らしい景色とあいまって『幻の秘湯』と呼ばれておるんじゃ」

「おかしいな。そんな場所があるなんて全然知らなかったぜ。でもどうして皆その『幻の秘湯』に行かないんだ?」

「第31層まで潜れる実力を持ってる探索士など限られておる。ましてや野湯のため、入浴中は見張りが必要じゃ。つまり実力者が複数人いて初めて挑戦出来る場所なんじゃ」


 その話を聞いて女性陣が色めき立った。


「やったるわ」

「面白そうだじぇ。行ってみようじぇ」

「私も幻のシークレット温泉に入ってみたいデース!」

「ふふ。まあこのメンバーなら31層くらい余裕ね」

「どんな場所か楽しみだにゃ」

「野湯って誰かに見られたりしませんか? 恥ずかしいです……」


 男より女の方が風呂好きだとは言うが、『幻の秘湯』という言葉に女性陣の温泉欲に火が着いたらしい。

 勝手に盛り上がる女たちとは裏腹に、佐治とモヒカンの下級探索士コンビは顔が青ざめていた。

 二人共31層なんて潜った事ないだろうな。 





 早速、第4層から第31層を目指す。

 道中様々な魔物に襲われた。

 岩系の魔物が多く、爆弾岩やゴーレム、ストーンスネークなどが襲って来た。


 幻の秘湯という人参に釣られた女たちは圧倒的な強さで、魔物を瞬殺していった。

 時間短縮のため駆け足で次々とエリアを駆けていく。


 そのハイペースに佐治とモヒカンが息を荒げた。

 二人共『体力自然回復』と『スタミナ自然回復』のパッシブは持ってないらしい。


 その時、物陰からイワトカゲが現れて佐治に向かって襲いかかった。


「うわー! お助けー!」


 俺はエナジーガンの3%ショットをイワトカゲに撃ち込む。

 イワトカゲの眉間に当たり、エネルギー弾はそのまま貫通していった。

 小さな光を残し、魔物は消滅する。


「た、助かったぜ只野! お前あんな化け物を一瞬で倒すなんて強くなったな~」

「そうか? イワトカゲなんてかなりの雑魚だぞ。まあ佐治は昔のゴブリン狩り専門の俺しか知らないもんな」

「イワトカゲが雑魚かよ。以前の只野の実力なら万に一つも勝ち目が無かった筈だぜ。まあずっとE級だったのが今はB級だもんな」

「それより佐治とモヒカンは実力不足でこのままだと危険だな。ちょっと待ってろ。来い! カーバルくん!」


 俺がカーバルくんの名を呼ぶと中型犬くらいの大きさのモフモフの生き物が現れた。

 カーバルくんは翡翠色の憐光を放ち、浮かび上がる。


「な、なんだこの生き物は?」

「カーバルくん。俺の召喚獣だ」

「召喚獣だと!? そんな億単位のスキルカード持ってたのかよ」

「まあな。カーバルくん。佐治とモヒカンを守ってやってくれ」

「きゅっきゅう~!」


 カーバルくんは佐治とモヒカンの前にフヨフヨと浮かんだ。

 これで魔物に襲われても強力な防御魔法をかけてくれるので大丈夫のはずだ。


 佐治とモヒカンは驚きの表情でカーバルくんと俺を見つめていた。


「只野よ。改めてお前は遠くに行ってしまったんだな」

「あんちゃん、すげえよ! ただガチャを売ってる商売人じゃなかったんだな」


 二人の褒め言葉が照れくさい。

 俺より格上のアリサやステフもいるし。


 それでもここまで積み重ねてきたものが無駄じゃなかったのは嬉しいところだ。





 約3時間をかけて『幻の秘湯』がある第31層に辿り着いた。

 ここはかなり外観が変わっていて、日本画に出てきそうな竹林だった。幻想的な雰囲気に息を呑む。

 落ち葉が茂った柔らかい土の上を歩く。

 

 5分ほど散策すると、なにやらポコポコと泡が沸き立つ様な音が聞こえてきた。

 音のする方に向かう。


 すると、そこには岩を積み上げられて作られた、小さな浴槽があった。

 黄金色の温泉からは大小様々な泡が沸き立っている。

 まるでジェットバスのようだ。


「見つけたぞ。ここが『幻の秘湯』か。魔物もいそうだし入るのは大変そうだ――」 

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