第51話 温泉へ行こう① ダンジョン内に温泉が。エクストリーム入浴!
鬼怒川温泉ダンジョン。
栃木県日光市の鬼怒川上流域に存在する中規模ダンジョンで、内部には自然に湧き出る源泉がある。
地元自治体の協力により整備が進み、15年程前に誰でも入浴可能な温泉が誕生した。
ダンジョン内に存在する為、探索士しか入る事の出来ない幻の秘湯と言われている。
探索士たちの間でも話の種にと、ここを訪れる者も多い。
かく言う俺たちも半分ネタとして、この『鬼怒川温泉ダンジョン』を訪れることにした。
面子は美波、萌仁香、アリサ、メイ、猫田、ステフの女性陣6人、ムッツ、モヒカン、佐治、俺の野郎4人で合計10人だ。
東京からメイ、猫田、ムッツ、隣県からステフとモヒカンが合流した。
駅前で集合し、レンタカー屋で10人乗りの日産キャラバンを借りて出発した。
10人も乗ると車はかなり重い。
満杯の室内はマイクロバスの様である。
それでも女性陣はテンション高く楽しそうにお喋りに興じていた。
中でも瞳をキラキラ輝かせているのは俺の銃の師匠ステファニー・タケイシだ。
「ワタシ温泉に行くの初めてデース! 日本に行ったらずっと温泉に行ってみたいと思ってましター! 楽しみでワクワクが止まりまセーン!」
ステフと親交があり、俺に彼女を紹介してくれたアリサが答える。
「でもまさか最初の温泉がダンジョン内にある場所だなんてね。ステフはとんだ温泉初体験になってしまいそうだわ」
後ろで美波と伸びるグミを食べていた萌仁香が質問する。
「ダンジョンの中に温泉があるってどういう事なんだじぇ? 魔物に襲われたりしないのか謎だじぇ」
「温泉があるのは第4層なので魔物も弱いし、見張りがいるので問題ないわ。また温泉が湧き出ている場所は、三方を壁で区切られているので、正面の入口だけ守れば魔物は入ってこないのよ。ちなみに男湯と女湯に分かれているわ」
なるほど。それじゃ入口に番頭がいる普通の銭湯の様な構造なのか。
男湯と女湯に分かれていると聞き、モヒカンが落胆した。
「なんだよ。混浴じゃねえのか。それを楽しみにしてたってのによう。ガハハハ」
その発言に女性陣から総スカンを食らう。
「キモ」
「発言も髪型もありえないじぇ」
「冗談のつもりなんだろうけど冗談に聞こえないにゃ」
「今の発言はアメリカだとハラスメントデース」
「嫌なものね。誰も幸せにしないジョークってのは」
「さ、さすがにそれは軽蔑します……」
モヒカンは悲しそうな顔で「すいやせんした……」とつぶやいた。
途中サービスエリア等で休憩を挟み、約2、3時間の小旅行の末、目的地へと辿り着く。
龍王峡という少し北側の場所に鬼怒川温泉ダンジョンがあった。
土日なので駐車場は車が沢山停車していた。
県外ナンバーだらけなのがいかにここが全国区の知名度を誇る場所であるかの証明になっていた。
車から下り、皆大きく伸びをする。
早速ダンジョン入口へと進もうかというところで、ムッツが佐治とモヒカンを指差し俺に尋ねる。
「そう言えばこの二人は探索士資格を持っているのかしら? 元探索士とは聞いているけど、資格が失効していたらダンジョンには入れないわよ」
「大丈夫だ。二人共資格は更新していたようなので、まだライセンスは生きている」
「そう。それなら良かったわ。一緒に男湯で楽しみましょうね♥」
佐治とモヒカンが肉食獣に遭遇したかの様に青い顔になった。
一体何を楽しむと言うのだろうか……。
早速温泉のあるダンジョン第4層へと向かう。
B級探索士7名、A級探索士1名のパーティーなので雑魚の魔物など寄せ付けなかった。
というより、魔物自体が現れない。
「なんだかこのダンジョン魔物の数が異様に少なくないか?」
俺の疑問にメイが答える。
「そ、それは多分私がアクティブスキル『エンカウント率減少』を発動させているからだと思います。なるべく戦闘を回避したいいつもの癖で発動していました。ごめんなさい!」
「いや謝ることないよ。雑魚を倒しても得られる物も少ないし、寧ろありがたいよ。『エンカウント率減少』って便利なスキルだな」
「は、はい! 私は戦うのが苦手なので重宝しています。もっとも自分より格下の魔物にしか効かない仕様ですので、下層の強敵相手では効果を発揮しません」
「なるほどな。下層でも使えたらダンジョン踏破が楽になりそうなのにな」
「うふふ。そうですね」
俺とメイが楽しそうに語らっているのを見て萌仁香が美波に耳打ちした。
「あの二人いつも楽しそうだじぇな。これはお似合いカップル誕生かもしれないじぇ。ぐふふふ」
「……」
パチーーン!!
「痛ーー!? 今なんでボクのおっぱいをビンタしたんだじぇ!?」
「……これから女湯でそのデカ乳を自慢されると思うと腹が立った」
「なぜ今!? それならせめて女湯でビンタしろだじぇ! まあ嫉妬する気持ちも分かるじぇ。なにせこの中ではボクが一番の豊満なバストを有しているからなー」
「お前、あのグランドキャニオンの様な双丘を見て同じこと言えるのか」
美波がステフを指差す。
ステフの胸部は、萌仁香の自慢のお胸より更に一回り、二回り大きかった。
「あれは反則だじぇ! アメリカ人はノーカウントだじぇ!」
「でもハーフだから半分日本の血が流れてるらしいぞ」
「そうなんだじぇか? さすがおっぱい王国アメリカだじぇ。ボイン因子半端ないじぇ」
二人が下らない事を話していると、第4層へと辿り着いた。
途中で何人かとすれ違ったが湯上がりの者や、風呂桶を片手に帰っていく者など観光客だらけだ。明らかにいつものダンジョンとは違う光景だった。
内部は黒い岩肌が目立つ地形だった。
途中「温泉はこちらです」と書かれた看板をいくつも見かけ、矢印の方へと向かっていく。
段々開けた空間になっていき人の気配を感じ始める。
遠くに「ゆ」と書かれた暖簾があった。
どうやらあそこが温泉の入口らしい。
入口の前にはマシンガンを持った屈強そうな男が二人立っていた。
どうやら雇われた守衛らしい。
魔物が来てもこの低層なら守衛二人が追っ払ってくれそうだ。
暖簾をくぐると内部は休憩場となっていて、湯上がりの探索士たちが涼んでいた。
皆コーヒー牛乳やビールを飲んで寛いでいた。
「ダンジョンの中で酒なんて飲んでいいのか? 帰りに魔物に襲われたら大変じゃないか」
俺の疑問にアリサが答える。
「飲酒は推奨されていないけど、禁止もされていないわ。低層だからって油断していると帰り道でオークにでも遭遇して大怪我しそうね。只野くんはノンアルで我慢してちょうだい」
15メートルほど先に「男」と「女」と書かれた暖簾があった。
「それじゃ温泉を楽しみましょうか。上がったらこの休憩場で待ち合わせしましょう」
ステフが「イヤッフー!!」とテンション高めで女湯の暖簾を潜った。
萌仁香が「一番乗りはボクだじぇ」とステフを追いかけていった。
マナー知らずな奴だ。浴場では走るなよ。
と、背後におぞましい気配を感じ振り返る。
「楽しい時間になりそうね」とムッツが舌なめずりをしていた。
誰だよこいつを呼んだ奴は。
今ほど女湯に行きたいと心から願った瞬間は無い。
きっとこの世の楽園と化しているであろう女湯を想像して儚んだ。
女湯の内部は簡易的な脱衣所があり、三段ボックスの中に網カゴが置かれていた。
美波はブラウスとスカートを脱いで網カゴの中に入れた。
黒いブラジャーとショーツの下着姿になる。
「おいおい美波。高校生なのに黒の下着なんてセクシーだじぇな」
「黒が一番汚れが目立たんからな」
「そんな理由で下着を選ぶなだじぇ! ところでどうだじぇ? 僕のキュートな下着も見て欲しいじぇ」
萌仁香はピンクでふりふりのレースの着いた下着で統一していた。
身体をくねらせボディーラインを強調するポーズを取る。
「お前……意外と寸胴だな」
「腹回りは見なくてもいいんだじぇ!」
「これからはドラム缶と間違えないよう気を付けるよ」
「失礼な! お前なんてツルペタじゃないか。凹凸がなさ過ぎるじぇ」
「余分な肉が付いてないだけだ。自分がボンレスハムだからってスレンダーな私を僻むな」
「そんな中学生ボディー全然羨ましくないじぇ! 摩擦係数ゼロだじぇ」
姦しい二人のやり取りにメイは着替えるに着替えられなかった。
メイもあまり胸部には自信がなかったのである。
そんなメイの心情も知らず、ステフとアリサはさっさと服を脱ぎ捨て浴場へと向かった。
アリサは着痩せするタイプらしい。
引き締まった均整の取れた身体に、張りのある胸部が際立つ。
その身体に見惚れていると、猫田に声をかけられた。
「メイにゃん。何をしてるにゃ?」
「ひゃっ!? な、なんでもないです!」
「まさか裸を見られるのが恥ずかしいのかにゃ?」
「そ、そんな事はないですよ。ただちょっと意識してしまいまして」
「意識? 何をだにゃ?」
「あ、いえ! 本当なんでもないんです」
そう言ってメイも服を脱ぎ、純白の下着一枚となった。
ぐるりと周囲を見渡す。
メイは他の女性陣のライバルたちと自分の身体を見比べて少しだけ自信をなくした。
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