第46話 スキルを磨け。スペシャリストを目指せ
アリサは俺たち駆け出しに一番足りてないのは「スキルに対する考え方」だと語った。
「まず大切なのは自分に合った長所を最大限に活かせるスキルを一点強化で習得していく事よ。私はスキルストックの制限50のうち半分以上を風魔法と風を活かした攻守のスキル、風を強化するためのパッシブに費やしているわ。残りはフィジカル強化系や耐性向上の重要なパッシブと治癒魔法くらいね」
「そこまで徹底しているのか。『疾風』に対するこだわりが凄いな」
「上級探索士の世界にはね、こんな格言があるのよ。『ジェネラリストになるな。スペシャリストであれ』ってね。スキルストックに制限がある以上一つの長所を徹底的に強化する事がレベルアップへの近道よ」
Cランクは40まで、Bランクは50までスキルを習得出来るので、最近新たに10スキルストック枠が開放された。
俺はこれまでGPガチャで手に入れた適当にレアリティの高そうなスキルを、何も考えず習得していた。
一つに特化していない今の俺は完全にジェネラリストである。
「でも俺は自分の長所が何か分からないんだよなぁ。どのスキルを活かせばいいんだろうか」
「只野くんの場合、銃での攻撃が得意なんだから銃に関するスキルを身に着けたりパッシブを充実させてみたら? 『命中率上昇』とか『銃装備時攻撃力上昇』、『弾丸系スキル攻撃力上昇』」とか」
「なるほど。でも銃だけだと不安なんだよな。大型の魔物には通用しない事も多いし」
「確かに守備の面も考えると他に何らかのスキルも身に付けた方がいいわね。ただ銃をメインウェポンにしている探索士も多いわ。只野くんの場合戦闘スタイルの確立が急務かもしれないわ。そう考えると師匠を見つけて弟子入りするのも悪くないわね」
「師匠?」
「ええ。探索士訓練所に入所したり、A級以上の探索士に師事して教えを請い鍛えてもらうの。私も『暴風の上妻』先生に指導されて今のスタイルを確立出来たわ」
『暴風の上妻』か。
俺が子供の頃活躍していたA級探索士だ。
確かミニフィギュアを持っていたはずだ。
「師匠に弟子入りか。どうやって師匠を見つけるんだ?」
「探索士の中には街で道場を経営してたり、個人的にトレーニングを付けてくれたりする人もいるので、良さそうな人を探して話を聞いてみるといいわ」
その後も一時間ほど参考になる話を聞かされ、その場は解散となった。
皆アリサのアドバイスを聞き、スキルを一点強化する事、格上の探索士を見つけて師事する事などを決めたようだ。
駅まで萌仁香と猫田とメイを車に乗せ、送っていく。
別れ際、3人とも力強い言葉を残して帰っていった。
「皆お疲れだにゃ~。次回までに雷魔法をもっと鍛えてアリサにゃんに頼らなくても良いくらいに強くなりたいにゃ」
「お見送りありがとうございました! 私ももっと水魔法や治癒魔法を磨いて、た、只野さんのお役に立てるよう頑張ります!」
萌仁香がライバルであり友である美波に熱いメッセージを送る。
「槍の達人の師匠を見つけてもっと強くなってやるじぇ! 美波。お前も師匠を見つけてしっかり鍛えてもらうんだじぇ! そしていつか絶対『所川ダンジョン』にリベンジしてやるじぇ! その時はお前も一緒だじぇ美波?」
「考えておく」
「ノリ悪過ぎるじぇ!? そこは嘘でも「うん分かった。一緒に頑張ろう」って言うシーンだじぇ!」
3人と別れ、美波を自宅まで送っていく。
萌仁香と一緒に電車で帰れと言ったら「片道の電車賃230円がもったいない」と言われた。
こんな金欠状態でこいつはまともな師匠が見つかるのだろうか心配だ。
帰ってから早速、ネットで「B級探索士 X県 訓練所」で検索してみた。
大量の検索結果の中から、上から順番にページを閲覧していった。
最初に開いた『師弟の絆☆探索士訓練所・全国マップ』というサイトには、都道府県別のおすすめの探索士訓練所や個人トレーナーのURLが表示されていた。
自分が住むX県だけでも150件ほどのリンクが記載されている。
俺は新しいタブでリンクを次々と開き、中身を確認していった。
業者に制作をしてもらったきちんとしたWEBサイトもあれば、個人のブログや一昔前の古ぼけたホームページなどもある。
その中からまともそうな何件かをピックアップして、話を聞きに行ってみることにした。
翌日、最初に訪れたのは『駒場道場』というA級探索士が運営する探索士訓練所だ。
道着を着て黒帯を締めているカイゼル髭のおっさんが出迎えてくれた。
道場主を名乗る駒場から話を聞くと、近接戦闘を磨き肉体のみで魔物を圧倒出来るような武道家を育成しているとの事。
肉体の鍛錬には丁度いいかもしれないが、話を聞いてると道場に住み込みで、四六時中「武」を磨くことだけを考えなければならないらしい。
中国の少林寺みたいだ。
これは厳しすぎる。
本業に差し支えるのはさすがに不味い。
俺は丁寧に礼を言って辞去した。
次に訪れたのは『赤井花代の魔術の館』だ。
こちらは元A級探索士だった赤井花代さんが運営し魔術師の育成を行っている訓練所との事。
館を訪れると高齢のおばあさんが出てきて説明を始めた。どうやらこの人が赤井さんらしい。
あらゆる魔法についての知識を身に付けたり、自分が得意としている属性を強化する手段を教えてくれるらしい。
魔法も磨いていきたいと思っていたので、ここは良いかもしれない。
入会の意思を固めつつあったが、金の話になって一気に現実に引き戻された。
「入会金が120万円。授業料は1回2時間で3万円ね。最初に自分に合った属性の魔法を強化するスキルカードを一式で購入してもらうんで、それが【N】50万円からで……」
予想外の高額な費用に戸惑いを感じる。
授業料の相場が分からないが、さすがにここは高過ぎる気がした。
俺は検討する旨を伝えて、館を辞去した。
その後も何件か、探索士育成の触れ込みの道場や館を尋ねてみたが、結果は芳しくなかった。
中には明らかにボッタクリだったり、怪しいツボや絵画を買わせようとしたり、入会特典として【N】のゴミスキルカードをプレゼントするといった、無知な探索士をカモにしたキャンペーンを打ち出しているところもあった。
俺はどっと疲れてしまい、公園のベンチに座り込んだ。
「探索士訓練所なんてほとんど詐欺ばっかりじゃねえか! まったく。食い詰めた冴えない探索士どもが、初心者の探索士たちから小金を毟り取る場所ってか。これじゃ若者の夢を餌に搾取する悪どい学校と一緒じゃないか」
探索士訓練所の講師のほとんどが一線から退いた元探索士だ。
現役の場から遠ざかってるためか話を聞いていると、うそ寒い理想論ばかり語っていて信用出来なかった。
昔は昇格の審査が甘かったためわりと簡単にA級探索士になれたらしい。
そのため、ロートルのA級探索士たちは実力不足の者も多いという話も聞く。
今日一日でその噂が本当だったと確信してしまった。
缶コーヒーを飲みながら消沈していると、スマホにアリサからメッセージが届いた。
<師匠探しは進んでいるかしら?>
<全然ダメだ。今日見学に行ったところはどれも胡散臭いところばかりだ>
そうリアルタイムで返信した。
すると、アリサからもすぐに返事がきた。
<それは残念。怪しい訓練所も多いから気を付けないとね。それでね。実は只野くんにピッタリの師匠がいるの。『二丁拳銃のジョー』ってご存知かしら?>
<もちろん知ってるよ。ジョーは子供の頃の俺の一番のスターだったし。おもちゃメーカーから発売されたジョーモデルの銃を買ってよく遊んでいたよ>
<その『二丁拳銃のジョー』の娘と私は親交があってね。彼女もA級探索士の凄腕のガンマンなの。彼女に只野くんの指導をお願いしたら快く引き受けてくれたわ。どうかしら? 只野くん。『二丁拳銃のジョー』の娘に指導してもらうってのは?>
憧れのスターだった『二丁拳銃のジョー』に娘がいたとは知らなかった。
おまけにその娘はA級探索士で凄腕のガンマンか。
それなら俺のスタイルにも合致する。
予期せぬ提案だが今日一日探索士訓練所を回って、碌でもない現実を見せつけられてしまった。
『二丁拳銃のジョー』の娘に指導してもらえるのは良い機会かもしれない。
俺はアリサに詳しい話を聞かせて欲しいと返信した――。
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