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第44話 難関『所川ダンジョン』に初挑戦。

 スキルガチャ屋只野の売上は好調だった。

 やはりTV、youtuveでの宣伝が功を奏したらしい。


 おかげさまで『【R】10』は一瞬で売り切れ、リピーターが付いてくれる様になった。

 相変わらず『初号機』の方はノーマルばかり出るので、目当てのレアカードが出なかった客は文句を言いながら帰っていった。


 【SR】や【SSR】を引いた客には許可をもらい、ポラロイドカメラで記念写真を取って壁に貼ったり、ネットで公開した。

 情報を開示する事で「このガチャ屋ではちゃんと【SR】以上も出るんだよ」という事を訴えた。

 これは高額当選が出た宝くじ売り場が張り紙やのぼりを出して主張するようなものだ。

 透明性を内外にアピールする事が大切である。

 『南新橋ダンジョン』の時のようにちょっとした悪評で客が去らないよう営業努力していかなければならない。







 新店舗開店ホームパーティーから一週間が経過していた。

 俺たちは『所川ダンジョン』前入口に集結していた。


 入口の広さだけでも学校の校舎がまるごと入るほど大きかった。

 全国区の大型ダンジョンのため、入口前は数百人の探索士たちが集まり賑やかだった。



 『所川ダンジョン』初挑戦のため、仲間たちが集まってくれていた。

 メイと猫田、美波に萌仁香、そしてアリサ、俺の6人だ。


 萌仁香とアリサと組むのは初めてだ。

 萌仁香は槍使いらしく動きやすそうな革鎧と、銀の胸当てをしていた。前線で戦う事が得意だとの事。

 アリサは魔術師が着るようなローブを着ている事から分かるように、後衛で魔法攻撃を得意としているらしい。

 

  

 前衛は美波と萌仁香、俺で務めるしかなかった。得意ではないがやるしかないだろう。

 前衛が本職のムッツは仕事で休みだった。探索士以外で一体なんの仕事をしているのか気になるところだ。意外ときちんとした勤め人だったりするのかもしれない。


 緑のローブに身を纏ったアリサが皆に声をかける。


「それでは潜行を開始しましょうか。私以外初めて挑戦するそうだから皆十分気を付けてね。全員B級探索士という事だし心配はしていないけど中層からはかなり難易度が上がるから無理は絶対しないようにね」

「ああ。分かった。初回だしほどほどにしておこう。それじゃ皆、向かおうか」




 巨大なダンジョン入口へと向かい、俺たち6人は歩き出した。 

 内部は等間隔に松明が設置されていたり、光る苔が生えているため明るかった。


 低層は下級探索士たちの狩場だった。

 ゴブリンやスライム、ホーント、ワーム、コボルトといった魔法も使えない雑魚のたまり場だ。


 下級探索士は皆、金がなく装備がお粗末である。

 Tシャツ短パンでフルフェイスのヘルメットを被っている奴や、鎖帷子くさりかたびらを着てゴルフのアイアンを武器にしている奴など様々だ。 


 半年ほど前まで、俺もこんな貧相な装備でソロで挑んでいたと思うと面映ゆい。

 今はプロ探索士として大切な仲間たちに囲まれている。

 本当に人生を変えてくれた『スキルガチャダス』に感謝だ。




 雑魚を無視して5層、10層、20層と駆け降りていく。

 ここら辺から敵は大型化しはじめ、強烈な物理攻撃や厄介な魔法やスキルを使い始める。 


 徐々に難易度が上がり始める『所川ダンジョン』に萌仁香が驚きの声を上げる。


「まだ22層なのにキラースコーピオンが現れたじぇ! ボクの行きつけの『生田西ダンジョン』では30層半ばくらいから出る強敵だじぇ!?」


 萌仁香の疑問にアリサが答える。


「ここは国内でも屈指の多種多様な魔物が生息しているダンジョンよ。階層が低いからまだ安心だと油断した探索士たちが命を落とす事でも有名だわ。『所川ダンジョン』は死者数の多さでは国内トップクラスなのよ」


 日本の谷川岳がエベレストよりも遭難死者数が多い理由に、誰でも気軽に登山に挑めるからだという話を聞いた事がある。

 人気スポットとは言えダンジョン探索が危険な事には変わらない。十分に用心しないと。




 更に30層まで降りると、地形が急に変貌した。

 これまでの土塊だらけの洞窟から、急に溶岩地帯へと変化したのだ。

 茹だるような暑さに猫田がため息をつく。


「暑いにゃ~。この階は40度はありそうだにゃ。汗でベトベトだにゃ」

「さっきまで涼しい洞窟エリアだっただけにこの温度差はキツイな」

「そう言えば最近都内では『スキル犯罪者』が急増してて問題になってるにゃ。X県は大丈夫かにゃ?」

「ああ。全国ニュースで見たよ。町中でスキルを使う犯罪が増えてるんだってな。うちの県は今のところ大丈夫だよ」


 ダンジョン以外で魔法やスキルを使用する事は法で固く禁じられている。

 スキルを使用して悪事を働く事を『スキル犯罪』と呼び、罪を犯した者は厳罰に処される。

 ところが最近、巷ではその『スキル犯罪者』が急増しているという。

 一体何が起こっているのだろうか。





 息を荒げながら下への階段を探していると、前方の溶岩湖の中から巨大な爬虫類の顔が現れた。

 美波が抜刀し、臨戦態勢を整える。

 爬虫類は顔から首、胴体を徐々に出していった。全長20メートルほどありそうだ

 長い蛇のような形をしており、東洋の竜のようなイメージだ。


 アリサが鋭い声を発する。


「皆、マグマドラゴンよ。溶岩に落とされないようにね。噛みつきとブレス攻撃に気を付けて」


 俺たちはなるべく溶岩から離れ、敵から距離を取る。

 萌仁香が遠間から槍の刺突攻撃を放った。


「スパイラル・スピアだじぇ!」


 巨大な針状のつむじ風がマグマドラゴンを襲う。

 ところが、硬い鱗に阻まれまるでダメージを与えられなかった。


 マグマドラゴンはこちらに向かって炎のブレス攻撃を仕掛けてきた。

 メイが水の球体のバリアを作って俺たちをブレスから守る。


「ウォータードーム! ……くっ。耐えきれないかもしれません!」


 メイ一人ではマグマドラゴンの攻撃を防げないらしい。

 メイ以外、誰も防御魔法は持ってなかった。 

 やれやれと、肩をすくめアリサが手を貸してくれる。

 

「ウインドウォール!」


 水の球体の前に巨大な緑色の壁が立ち塞がる。

 風を凝縮して分厚い壁を築いているらしい。

 かなり強固な壁らしくブレス攻撃を寄せ付けなかった。



 マグマドラゴンは諦めたらしく、溶岩から飛び出して全身を使った体当たり攻撃を仕掛けてきた。

 俺の【SR】パッシブスキル『警戒』が発動し、脳に警告を発する。


「やばい! 皆逃げろ!」

 

 頭上からマグマドラゴンの蛇状の身体が飛んでくる。

 まるで巨大な鞭が振るわれているようだ。

 地形が軽く削られていく。


 こうなると前衛も後衛も関係ない。

 皆ひたすら回避に徹する事しか出来なかった。

 大怪獣の攻撃から逃げ惑う市民のようだ。

 

 アリサは風魔法を駆使し、エスパー少女の様に空中に浮かんで、安全圏からこちらの様子を観察していた。

 俺たちの情けない姿に嘆息する。


「ふう。仕方ないわね。本当はあまり手は貸したくなかったんだけど」


 アリサは上級風魔法【SSR】『マイティウインド』を発動させる。


 するとマグマドラゴンの巨体が軽々と宙に舞い上がった。

 仰向けになり、まな板の鯉の様に手足をばたつかせるマグマドラゴンの姿に驚嘆する一同。

 

 アリサが『大切断』とつぶやくと、空中に回転する巨大な丸い刃が現れた。

 その丸い刃はピザでも切るかのように簡単にマグマドラゴンを切断してしまった。


 あっという間に、大怪獣はドロップアイテムを残して消失した。



 俺たちは『所川ダンジョン』の厳しさと、新四天王『疾風のアリサ』との実力差を思い知らされ、呆然としてしまった――。

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