第41話 『所川ハイランドパークダンジョン』に出店
アリサからの提案を承諾し、俺は『所川ハイランドパークダンジョン』にガチャ屋を出店する事に決めた。
『所川ハイランドパークダンジョン』は、所川ハイランドパークと所川ダンジョンが合わさった国内唯一の遊園地とダンジョンを含む巨大レジャー施設だ。
所川ダンジョンは地下全81層で構成されている。
内部は巨大な洞窟となっており、各階層によって構造は大きく変わり、湖があったり、鍾乳洞があったり、溶岩地帯があったりと様々だ。
深層では世界遺産もかくやと言わんばかりの絶景が拝めるとの噂だ。
希少なドロップアイテムを求めて、腕に自信のある者、一攫千金を夢見る者たちが集まる、プロ探索士御用達の全国的な人気、知名度を誇る大型ダンジョンだ。
自宅から車で約一時間。
『南新橋ダンジョン』よりちょっと遠いが、仕方ない。
売上激減の俺に取ってこの話が今のところ唯一の光明である。
やがて所川ハイランドパークの全貌が見えてくるとその広さに改めて驚く。
その敷地面積は70万平方メートルに及び、東京デ○ズニーランドに匹敵する。
人気スポットという事もあり子供の頃は家族とよく訪れた。
マスコットキャラクターの『コロガワくん』は相変わらずキモくてデカイ原色の鳥のままだ。
錯乱した探索士が魔物と間違って殴りかかりそうな不気味さだ。
安全を考慮して一応遊園地側のハイランドパークと、所川ダンジョンとでは分かれているが、一部のスペースでお互いの行き来が可能な場所がある。
子供の頃、遊園地を利用しそのまま所川ダンジョン入口の出店スペースでお土産を買った事がある。
鎧を着込んだ騎士や猟銃を背負ったおっかない顔のおじさんたちが沢山いた事を思い出した。
子供から見れば、今の俺もそんなおっかないおじさんの一人に見えるのかもしれない。
申請や手続きなどのため、所川ハイランドパーク側にある事務所に足を運んだ。
約束の場所に向かうと、事務所前にはなぜか『疾風のアリサ』がいた。
ダークブラウンのセミロングヘアで毛先がウェーブしている。
パッチリとした瞳にはお洒落のためか翡翠色のカラコンを入れていた。
今日はボディラインがくっきりと表されているタイトな黒のスーツスタイルだった。
「あれ? どうしてここにアリサがいるんだ」
「只野くん一人じゃ心配だから来ちゃったわ」
「なんだよ。ここに来るんだったら事前に教えてくれれば良かったのに」
「まあいいじゃない。それより事務所に向かいましょう。ついてきて、案内するわ」
アリサの背中を追って事務所内に入る。
受付に訪問の理由を説明しに行こうと思ったら、アリサは構わずグイグイ進んでエレベーターに向かった。
勝手に進んでもいいのか?
受付嬢も特に咎める気がないらしいので彼女に続く。
3階の応接室の前に着くと、アリサは「只野様をお連れしました」と言って重い扉を開いた。
中には立派な応接用のソファとテーブルが置かれていた。
初老の男が笑みを浮かべている。
「遠路わざわざお運びいただき誠にありがとうございました。所川ハイランドパーク社長の牧野康夫と申します」
「あ、これはどうも。只野一人と申します。あいにく名刺を切らしておりまして」
もちろん切らしてるなんて大嘘だ。名刺なんて作った事がない。
しかし、社長自ら出迎えてくれるとはな。
俺ってそんな大物から求められてるのか?
それとなんだろう。この違和感。
どことなく社長とアリサに似たようなものを感じる。
そう言えば確かアリサの名前って……。
「あれ、牧野?」
「どうやら気がついたようね。そう。この人は私の父親よ」
「嘘だろ? 『疾風のアリサ』は所川ハイランドパークの社長令嬢だったのか。しかしよく出来た話だな。二人で結託して俺を嵌めようなんて考えてないよな」
「そんなわけないでしょ。まあまあ落ち着いて。これは只野くんにも悪い話じゃないから。お父さん。説明してあげて」
そう言うと、牧野社長はテーブルに書類を並べ契約についての説明を始めた。
「もしうちに只野くんがガチャ屋を出店してくれるなら、大々的に宣伝させてもらいますよ。所川ダンジョンの入口前に出店スペース『所川迷宮ショッピングセンター』がある。大きさは四階建ての複合商業施設となっている。ここは『スキル使用特別許可区域』に指定されていて、このセンター内ではスキルを使用したあらゆる商売が可能だ。もちろん君の能力『スキルガチャダス』も使用出来る。ここの一区画を君に任せたい。もちろんこちらとしても商売なので君からはテナント料として売上の20%を家賃として頂くつもりだ。どうだい。お互い悪い話ではないと思うんだ。考えてみてくれないか」
家賃は売上の20%か。
今までは全部自分の懐に入ってきたが、ちゃんとしたお店を出すならこれくらいのテナント料を取られるのは仕方ない。
なにより悪評が立って客が離れた俺に取っては、有名な『所川迷宮ショッピングセンター』に出店出来るのは魅力的な提案だ。
宣伝もしてくれるらしいしここは話に乗ることにしよう。
「考えるまでもありませんよ。こんな良い話は他にありません。お願いするのはこちらの方です。是非俺のスキルガチャ屋を出店させてください。よろしくお願いします」
「おお。それはありがたい。ならば早速契約の詳細をすり合わせていこう」
俺は様々な契約書を文面を確認しながら、サインしていった。
税理士を紹介してもらい、これまでのガチャ屋で得た収益から計算すると税率は45%、住民税も足して55%の税金を徴収される事が分かった。
金持ちはこんなに納税しているのかと驚かされる。
来年持ってかれる税金も考慮して貯金を残しておかなくてはならない。
その後2時間ほど牧野親子から店舗運営の心得、商売の基礎を教わり、アリサと事務所を後にした。
帰りにアリサの勧める店で食事をする事になった。
堅苦しい店は苦手なので、ドレスコードの無いカジュアルなイタリアンレストランに案内してもらった。
給仕から普段は飲まない赤ワインが注がれる。
一口飲んで「おいしいですね」以外の感想が全く思い浮かない。
アリサは何やら「芳醇」だの「ビロードのよう」だの「厚みがある」だのそれっぽいコメントで味を表現していた。
味を表現する語彙が貧困な自分が恥ずかしい。
「なんだか場違いなお店に来てしまったようだな」
「固くならなくても大丈夫よ。Tシャツで来てる人もいるでしょ?」
「ラフな格好をしてる人は皆IT系の社長に見えてしまう」
「ふふ。なんとなく言いたい事は分かるわ。ところで只野くんプロ探索士試験合格おめでとう」
「ああ。ありがとう」
これでアリサと同じB級探索士になったというわけか。
もっとも同じB級でも天と地の差があったりする。
B級になりたての俺と、A級への昇格が近い実力者とでは実力差が絶望的に離れてる。
「今後は探索士としての活動はどう考えているの? 私たちの仲間になるって話はまだ返事が保留中なんだけど」
「ああー。……なんか断りにくいな。今回の事態も元はと言えば『氷結の森迫』の勧誘を断った事が原因だからさ」
クソ森め。
あの青ずくめを思い出したら腹が立ってくる。
「森迫は只野くんにフラレて逆恨みしたってわけね。私はそこまで執着したりしないわよ?」
「そう言ってくれると助かる。あれから考えたんだが、今回の昇格試験で新たに仲良くなった仲間たちと共に、自分でパーティーを結成して探索をしていこうと思っている」
「誰かの軍門に下るってのは嫌って事?」
「まあそうだな。例え小さくても一国一城の主でいたいんだよ」
「そっか。私もフラレちゃったのね」
「あ、いや! アリサのパーティーには入れないけど、今後の探索で共闘するっていうか、同盟みたいな関係ってのはどうだ?」
「そう。まあそのへんで手を打とうかしらね。只野くんの今後の飛躍に期待してるわ」
なぜか誘う側だったアリサの方が立場が上になっている。
マウンティングの上手い女だ。
それでもアリサのおかげでこうして新たな商機を頂けた。
「アリサには色々と動いてもらったのに勧誘を断って悪いな。新しいビジネスチャンスを得られたのもアリサのおかげだよ。本当にありがとう」
「気にしないで。只野くんを紹介した私にも売上金から1%支払われる事になっているから」
「んなっ!? マジかよ。お前意外としたたかだな!」
「ふふふ。私も上を目指しているからね。もっともっと沢山お金が必要なのよ」
コース料理を堪能し、店を後にする。
支払いはきっちり折半だった。
『疾風のアリサ』。彼女は社長令嬢のくせにどケチだった――。
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