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第40話 売上激減。嫌がらせの犯人判明! 新たな商機

 『南新橋ダンジョン』の客足はパッタリと途絶えてしまっていた。

 開店前から何十人も行列を作っていた頃が懐かしい。


 たまに客がやってきても数回試しに回す程度。

 10連ガチャを回す客もめっきり減った。


 隣で美波が暇そうに雲を見上げていた。


「なんでこんなに客が減ってしまったんだろう」

「エゴサしてみりゃ分かる。うちの店大炎上してたぞ」  

「やっぱりそうか。はぁ。見たくないな」


 俺はスマホを取り出し、仕方なく『スキルガチャ屋只野』で検索する。

 前々から悪い噂が流れ始めていたのは知っていた。

 事実無根のとんでもないツイートが次から次へと表示されていく。



「スキルガチャ屋只野が警察から営業停止処分を食らってたw」

「闇営業! スキルガチャ屋只野は止めておけ」

「スキルガチャ屋利用する奴同罪だから捕まるぞ」

「スキルガチャ屋の収益は暴力団の財源になってるってマジ?」

「スキルガチャでボロ儲けしたらしいからな。妬んだ奴がサツにチクったんか?」

「さすがに犯罪の片棒は担げないわ。スキルガチャ屋みたいに逮捕されたくねえし」

「友達から聞いた話だとスキルガチャ屋が無許可営業と脱税のコンボで懲役5年食らったらしい」



 皆あることないこと好き放題言いやがって!

 俺は逮捕なんかされてないわ。

 国民の義務だ、ちゃんと納税するっての。


「完全に只野は犯罪者扱いされてるな」

「くっそ~。なんでこんな事になってしまったんだ。客が来ないのも風評被害が原因か」



「それだけじゃないぜ兄ちゃん」



 声の方向に目を向けると、店の前にポケットに両手を突っ込んだ猫背の男が立っていた。

 生え際が後退していて額から頭頂部にかけて禿げ上がっている。

 どことなくアリクイを思わせる相貌だ。


「兄ちゃんの店に人が来ないのは悪評のせいだけじゃないぜ」

「どういうことだ?」

「スキルガチャ屋の噂は聞いているぜ。この三ヶ月ほどで探索士相手のビジネス界隈では知らない者はいないほど、兄ちゃんの噂は広まってるんだ」

「それと俺の店に人が来ない理由に関連性はあるのか」


 そこでアリクイ親父はぺろりと長い舌を伸ばした。


「簡単な話さ。兄ちゃんのスキルガチャはレアリティ【N】ばかり出るんだろ? カードショップのような専門店に行けば【N】のスキルカードなんて一万円以下で買える物も多いだろ? 皆その事実に気付き始めたのさ」

「うっ」

「お気付きの通り、この中規模の『南新橋ダンジョン』を狩場にする探索士たちは、兄ちゃんの【N】ばっかのスキルガチャを求める素人みたいな客はもう少ないと思うぜ」

「確かにそうかも知れない……」

「まあ営業努力次第で稼ぎも増やせるだろうよ。頑張ってな」




 アリクイ親父はくるっと背を向け去っていった。

 正直あの親父の発言は正論だと思ってしまった。


 確かに一回一万円で【N】ばかり出るガチャは引かなくなるよな。

 【R】の出る確率は10%程だが、10連ガチャでも【R】が出る保証はない。


 初めは皆、熱気に煽られる様に何十回もガチャを引いてくれていたが、熱病フィーバーが冷めると途端に冷静になってしまったらしい。

 熱心な固定ファンも一人100回の回数制限を迎えると去っていってしまうし、新規の客を開拓し続けなければならない。

 その新規層も約5000回のガチャ営業で【N】ばかり出る事が分かり、頭打ちになってしまった。




 悄然とする俺の元に、一人の男がやってきた。

 両脇に水商売風の格好の、派手な女を引き連れている。


 そいつが誰なのかひと目で分かった。

 なにせそいつの格好は、()()()()()()だったからだ。

 男は粘っこい視線を送りながら、ニヤリとこちらを見て笑った――。


 キラキラのラメが散りばめられたスパンコールのスーツを着た男が近付いてきた。

 完全に勝利を確信したドヤ顔が鼻につく。


 男は両脇に、胸元が大きく開いた格好の女性二人を侍らせている。

 この女どもも、人を小馬鹿にしたようなニマニマとした笑みを浮かべていて腹が立つ。



「災難だったな。せっかくビッグマネーを稼げていたのに食い扶持を失ってしまって。情報化社会インフォメーションソサエティーのこのご時世でバッドな噂が流れると歯止めが効かないものだな」

「デマや悪評を流したのはお前の仕業か。『氷結の森迫』」

「HAHAHA。僕はただネガティブな意見をピックアップして拡散してやっただけさ。遅かれ早かれ君のビジネスは手詰まりを迎えていただろう。違うかい?」

「ぐっ」


 アリクイ親父の意見を聞いた後だけに反論し辛い。

 確かにここ最近は手詰まり感を感じていた。


「HAHAHAHAHA! やり方がトゥーバッドだったね。僕ならもっとメディアに出てガチャの有効性、クリーンさをアピールし知名度をアップする努力をしていたね。そうすればポピュラーなショップになれたのにさ! 只野! 君はもっと頭を使うべきだった! HAHAHAHAHA!」

「キャハハハ! あの男ダッサ!」



 『氷結の森迫』につられて二人の取り巻きの女も追従笑いを上げる。

 美波は俺以上に腹が立っていたらしい。

 刀の鯉口を切った。


「あいつらの生意気な舌もいでいい?」

「もいじゃ駄目だ。我慢しろ」


 戦闘態勢に入った美波を見て、更に『氷結の森迫』は煽りを加速させる。


「オイオイ! 君はそんな幼気いたいけな中学生を仲間にしているのか! モテない君の事だ。欲情してこれ以上クライムを重ねないでくれよ。HAHAHAHAHA!」

「キャハハハ! あの女小っちゃ!」


 美波は相変わらず鉄面皮だが、中学生扱いされた事に内心ではマグマが煮えたぎっているらしい。

 

「あいつらの生意気な乳もいでいい?」

「もいじゃ駄目だ。もういい。帰るぞ」



 ここにいても意味がない。

 ただただ腹が立つだけだ。


 俺は踵を返して自分の車に向かった。

 去っていく俺たちに向かって高笑いを浮かべながら『氷結の森迫』は捨て台詞を吐いた。


「言っただろ? この氷結の貴公子を虚仮にしてただで済むと思うな、絶対に報いは受けさせてやるってね。残念だったな。これで君は元の冴えない探索士に逆戻りだ! 精々ハッスルしたまえ! HAHAHAHAHA!」

 

 『南新橋ダンジョン』の駐車場に奴の笑い声がこだました。

 それは貴公子が上げる笑い声と呼ぶには、大分下品なものだった。







 帰りの車内は不穏な空気が漂っていた。

 俺も美波も怒りで押し黙っていた。


 いつも無表情の美波は珍しくムッとした表情で「あのクソ森が。絶対ざまあ食らわせてやる」とつぶやいた。


 俺はと言うと少しずつ気持ちの整理が付き始めていて、今後の方策を考え始めていた。

 営業方法に関する様々な代替案が浮かんでは消えていった。


 手詰まりを感じながらハンドルを握っていると、スマホに着信が入った。

 赤信号で停車してから、画面を確認する。


 そこには『疾風のアリサ』と表示されていた。

 俺は路肩に車を停めて電話をかけ直した。



「もしもし。アリサか」

「災難だったわね。まさか『氷結の森迫』があんな執念深くて恥知らずな男だとは知らなかったわ」


 アリサはまるで事の顛末を知ってるかのようだった。 


「なんで知ってるんだ? あんたもあの現場にいたのか」

「ふふ『新四天王』の情報網を侮らないで。客足が遠のいた事に関しては本当に残念だと思うわ。でも遅かれ早かれいずれこういう事態は訪れたと思うの」

「まあな。実際【N】ばかり出るし、【R】や【SR】は低確率だ。カードショップとしてもギャンブルとしても飽きられたのかも知れないな」

「私個人としてはあなたのガチャのおかげで下級探索士が恩恵を受けているから、もっとあなたの能力を広めるべきだと思ってるけどね」



 アリサはそう励ましてくれた。

 正直俺も本音ではそう思っている。

 

 『スキルガチャダス』に出会うまで10年間、俺はろくなスキルを所有していなかった。

 有用なスキルや魔法を使えるようになることに、どれだけ憧れ続けていただろう。

 

 スキルを所有出来る機会を与えてくれる『スキルガチャダス』は俺の願望が生み出したものなのかも知れない。


 持たざる者の気持ちは俺は誰よりも知っているつもりだ。

 独占するより共有出来るこの誰でも引けるガチャ能力は、底辺でもがいていた俺の世の中への反抗の証なのかもしれない。

 


「それでね。只野くん。実はある提案があって貴方に電話したの。「スキルガチャ屋只野」を正規のお店として出店してみない?」

「出店するって言ったって無理に決まってるだろ。俺の『スキルガチャダス』は固有のスキルだぞ。ダンジョン以外での公共の場でのスキルの使用は禁止されているだろ? どこに出店するってんだ?」

「簡単な話よ。外でスキルを使用する許可を取ってしまえばいいのよ。特例があるのはご存知?」

「特例?」

「そう。例えば『魔法のサーカス』や『魔法のミュージカル』って観たことない?」

「『魔法のサーカス』は子供の頃観た事があるよ。海外で流行っていて輸入されて普及していったんだよな。確か、特別な場所で特別な許可を得た者だけが魔法をショーのためだけに使用出来るんだっけ。海外での人気を受けて時間経ってから法改正されたけど、日本政府はかなり重い腰を上げたよな。……あっ」

「気付いたかしら? つまりね、()()()()()でならスキルを使用した商売は可能なのよ」



 俺はアリサの言葉で、一気に血色を取り戻した。

 高揚感に身体が沸き立つ。



「ここら辺でスキルが使用可能な商業施設があるのか!?」

「あるわ。我がX県が誇る世にも珍しい遊園地と大型ダンジョンが共存した施設……」

「ま、まさか」

「そう。『所川ハイランドパークダンジョン』よ」

「所川、ハイランドパーク、ダンジョン……」


 その名前を聞き耳元に当てたスマホを持ったまま、思わず固まってしまう。

 こめかみから一筋の汗が流れ落ちた。

 


 美波が一言「名前長っ」とぼやいた――。

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