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第37話 コカトリス戦。只野の最終判断

 俺たちは第50層から下に降りる階段を探していた。


 試験官代表は『春虫秋草』は50層に生えていると言っていたが、もしかしたら50層以降にも存在するかもしれない。

 その一縷の望みに賭けてみる事にしたのだ。



 僅かな希望に縋るように美波と猫田は皆を先導し、斥候を受け持った。

 50層の魔物は例え1体だけでも4人で協力しないとまず勝ち目はない。

 なのでなるべく接敵を避け、先を進む事にした。


 51層へ降りる階段を見つけ、下のフロアへと向かう。

 51層もなるべく敵にエンカウントしないように細心の注意を払い、フロアをくまなく探索した。

 

 ところがどれだけ探しても『春虫秋草』は見つからなかった。

 52、53、54層と降りていき、各フロアを細かく探しても見当たらない。



 諦めの雰囲気が漂い始めた55層で、今までにない兆候を見つけた。

 猫田がピクンと反応する。


「これは緑の匂いにゃ。土だらけの洞窟にいるから草木の匂いがはっきり分かるにゃ」

「確かにそうだ。これはもしかしたら50層みたいに植物が生えているかもしれないし、目当てのキノコもあるかも知れんぞ」

「先に取り決めておくにゃ。もし『春虫秋草』が一本しかなかったらどうするにゃ?」

「全員分の4本見つかるまで探索するって言ってるだろ」

「不測の事態が起こったらどうするにゃ。誰かが戦闘不能になったら探索は中止になるにゃ」

「そうはならない様に気を付けるつもりだ。とりあえず順番は決めるか。ジャンケンして勝った方から採集してくれ」


 美波と猫田はジャンケンをする。

 勝ったのは猫田だった。

 「やったにゃ」と軽く飛び跳ねる。

 


 探索を続け、55層の草の匂いがする場所へと足を運ぶ。

 徐々に水が流れる音が近づいてきた。

 小さな滝でもあるのか、水が落下する音が聞こえる開けた場所が見えてきた。


 先頭を行く猫田と美波がなにやらギョッとした顔をする。

 二人の視線の先を追ってみると、その表情の理由が判明した。

 


 体長4、5メートルはありそうな巨大な鶏がいた。

 下半身は竜の様なトカゲの様な鱗姿であり、尻尾は蛇で出来ていた。

 その風変わりな鶏型の魔物が、小さな滝に溜まった水を飲んでいたのだ。


 周囲には草が生えていて、50層の『春虫秋草』が生えていたあの場所と似た外観だった。

 だがあの不気味な鶏が邪魔で、『春虫秋草』の採集が出来そうにない。

 メイが震える声で魔物の説明を始めた。



「あ、ああれはコカトリスです! 鶏と蛇、或いは竜が混ざりあった姿をしていると聞いた事があるので間違いありません!」

「奴は強いのか?」

「は、はい。目から熱線を出したり、尻尾の蛇が猛毒を持っていたりと大変危険な魔物です。中型ダンジョンの迷宮主ボスくらいの強さがあると聞いた事があります。リッチよりも更に危険かもしれません」

「ふむ。まいったな。せっかく『春虫秋草』が見つかりそうな場所に来たってのに」



 戸惑う俺とメイとは裏腹に、猫田と美波は殺る気満々だった。

 二人はコカトリス目掛けて突っ走っていった。


「『断空斬』」

「『エアリアル・クロー』だにゃ!」


 唐突な奇襲を受けたコカトリスは、二人の攻撃をもろに食らった。

 怪鳥らしい雄叫びを上げる。

 結構ダメージを与えたらしい。


「あいつら……。勝手に始めやがって!」


 俺も遠方から二人に合図をして『魔弾』を放った。

 コカトリスの土手っ腹に命中する。

 どうやら鶏の部分はあまり固くないらしい。


 これはいけるかもしれない。

 そう思っていると、コカトリスの目が怪しく光り始めた。


 真っ赤な光を蓄え、こちらに向けて熱線を飛ばし始めた。

 猫田と美波は敵の両サイドに避けていたが、俺とメイは奴の視線上にいた。


 真っ直ぐな赤いレーザーが射出されメイを襲う。

 


「危ない! メイ」

「え?」



 メイを突き飛ばし、レーザー攻撃から守ることが出来たが、代わりに俺が攻撃を食らってしまった。

 全身に燃えるような痛みが駆け巡る。

 電流と灼熱を合わせた様な痛みだ。


「ぐううぅっ!!」

「た、只野さん! 大丈夫ですか!?」


 ブスブスと俺の身体から焼け焦げた煙が立ち昇る。

 なんとか意識は保てている。耐久性能を向上させるパッシブスキルと【ブラックビースト・アーマー】のおかげだ。

 意識があやふやで目を閉じるとポックリ逝ってしまいそうだ。


「ぎ、ぎりぎりだな。やばいかも……」

「待ってて下さい! 今『ハイヒール』をかけますので!」


 メイが俺に向かって、掌から温かい波動を送り込む。

 優しい光に包まれて、痛みがみるみる消失していく。


 凄まじい治癒効果だ。

 これが【SR】回復魔法の『ハイヒール』か。

 回復する速度も、効果の範囲も桁違いだ。


 外傷の治癒に加え、意識までハッキリと覚醒していた。

 ものの15秒ほどで、ほぼ全回復していく。



「ありがとう。これならまた戦えそうだ」

「い、いいえ! こちらこそコカトリスの攻撃からかばってもらえて……。只野さんはいつも私の命の恩人です!」

「大げさだな。それより美波と猫田はどうなった?」

「まだ二人で戦っているようです!」


 

 二人は両サイドに立ち、上手く相手の攻撃を躱していた。

 クリアアイテム『春虫秋草』目当てとはいえ、こんな化け物相手によく善戦出来るものだ。


 と、その時コカトリスの蛇型の尾が猫田に迫った。

 軽やかに蛇の牙攻撃を回避した猫田だったが、蛇は牙の先を猫田に向けるとなにやら緑色の液体を噴射した。

 

 不意打ち気味に水鉄砲のように吹き出されたその液体を、猫田はもろに浴びてしまった。

 よろめきながら、地面にバタリと倒れ込む。

 メイがその光景を見て叫んだ。


「不味いです! コカトリスの尾の蛇は猛毒を持っていると言われています! 恐らく今のは毒液だと思います。急いで猫田さんを解毒しないと!」

「分かった! 俺と美波が敵を引きつけるからメイは猫田を治療してくれ!」 

 


 俺は新たな相棒、鬼金棒きかんぼうを取り出すとコカトリス目掛けて駆け出した。

 『疾駆』で何度かフェイントを入れて目を眩ませ、接近すると奴の白い鶏部分の胴体に鬼金棒きかんぼうを叩き込んだ。

 重さ20キロの鉄の塊がめり込む。


 手応え有りだ。

 苦痛の叫び声を上げるコカトリス。

 攻撃対象を猫田から俺にロックオンする。


 メイが治療しやすいように、二人から距離を取った。

 鶏野郎は背を見せ逃げ去る俺を必死に追いかけてくる。

 完全にターゲット集中状態だ。



 二人から数十メートル距離を取ると、戦闘を再開した。

 なるべく時間を稼いで、4人で仕留めるのが理想だが猫田が戦線復帰出来るか分からない。

 ここは二人でなんとか仕留めたいところだ。


 美波が逆サイドから斬撃を何回も放っているが、あまり効き目がない。

 いや、ダメージは通っているがそれ以上に、体力が自然回復していってるらしい。

 10秒間で50ポイントダメージを与えても、70ポイント回復してしまえば意味がない。


 つまりあまり削れていない。

 厄介なパッシブを持ってやがる。

 こういう場合、強烈な一撃をお見舞いしそこから突破口を見出すしかない。



 美波が鶏野郎の爪攻撃を回避している。

 敵の巨体を活かしたスタンプ攻撃を、軽やかに躱し続けている。


 こちらに完全に背を向けている、今がチャンスだ。

 俺は『溜め攻撃』で全身にパワーを充填すると、一気に敵の懐に入り込み『ヘビースイング』をお見舞いした。

 

 完璧な手応えだった。

 下からアッパースイング気味に繰り出した鬼金棒きかんぼうが奴の柔らかい腹にめり込み、骨が何本か砕ける音が聞こえた。


 よろめいて前に突っ伏すコカトリス。

 激しく息を荒げ、尾っぽの蛇もしゅんと縮んだ。


 美波は飛び上がって奴の背に乗ると、鶏野郎の首に向かって大技『打首獄門』を繰り出した。 

 刀から肉眼で観測出来るほどの分厚い刃が現れ、断頭台の刃が落ちる様な重い音を残しコカトリスの首を跳ね飛ばした。


 やがて眩い光を放つと、大量の素材と共にスキルカードを落としてコカトリスは消失した。

 スキルカードは案の定「【SR】パッシブスキル:『体力自然回復(中)』」だった。





 メイと猫田の元に戻ると、メイが治癒魔法『ハイポイズンケア』をかけたおかげで猫田は歩けるまでに回復していた。

 メイがいなかったら俺も猫田も死んでいたかもしれない。

 やはりこの挙動不審な少女は凄まじい力を持っている。


「おい。大丈夫か猫田」

「なんとかにゃ。でもまだ身体がフラフラでだるいにゃ」

「解毒は出来たはずなんだろ?」

「は、はい。一応『ハイポイズンケア』をかけて治療は終わりました。もしかしたら肉体に残ったダメージなどが蓄積されているのかもしれません。そうなるとあとは病院で診てもらうしかなさそうです」

「……そうか」


 一旦猫田を床に寝かせて、コカトリスが去った55層で『春虫秋草』を探し始めた。

 またしても俺が一つ『春虫秋草』を見つけたが、結局この階にあるのはその一つだけだった。


 俺は猫田に向かって約束の『春虫秋草』を渡した。


「ありがとにゃ。美波にゃんにジャンケンで勝っておいて良かったにゃ」

「ああ。それで『春虫秋草』の探索なんだが、……これで打ち切りにしようと思う」


 俺の発言に美波が食い気味に反論する。


「ちょっと待って。まだ私だけ『春虫秋草』がない」

「ああ。分かってる」

「だったら私の分も見つかるまで探索するべき」

「だが、これ以上猫田に負担をかけてしまうと危険な状態に陥ってしまうかもしれない。なにせ地上に帰るまでまた8時間はかかるのだから」


 美波は苦虫を噛み潰した表情に変わった。


「だったら3人は帰っていい。あとは私一人でなんとかする」

「駄目だ。この先に『春虫秋草』がある保証もないし、なによりコカトリスにこれだけ苦戦したわけだから、これ以上のフロアでの探索はいくらお前でも無理だ」

「……なら私だけ諦めろって事?」




 そこで俺は、苦渋の決断をした。

 最早この現状では、これしか選択肢はない。

 覚悟を決めて皆にこう言った。


「俺の『春虫秋草』を美波にやる。不合格者は俺一人で十分だ――」

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