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第36話 リッチ戦。クリアアイテム『春虫秋草』の行方

 リッチは、骸骨がローブっぽい黒い装束を着ている姿をしていた。

 粗野なスケルトンっぽいが、よく観察すると知的な科学者といった雰囲気がある。

 善悪の観念を失ったマッドサイエンティストといった風貌だ。



 大きさは人並みだがかなり強そうだ。

 黒い禍々しいオーラが放たれている。


 手を誤ったら全滅しかねない。

 一度4人で集まり、作戦を立てる。

 

「リッチって何が弱点か知ってる奴いるか?」

「確か水魔法が弱点だったにゃ。他の魔法は耐性があってあまり効かないはずにゃ」

「それならメイの水魔法を中心に攻めよう。頼むぞメイ」

「ひゃ、ひゃい! わ、わわ分かりました」


 美波も珍しく有益な情報を口に出す。 


「確かアンデッドは聖水とか回復用ポーションが弱点だった」

「そうだにゃ。奴にポーションをかけてやれば動きが大人しくなるかもにゃ。そこに水魔法をお見舞いする作戦が良さそうだにゃ」

「決まりだな。それじゃ俺たち3人がリッチに襲いかかり隙を見て、ポーションをぶっかけ動きを止める。チャンスと見たら水魔法で攻撃しよう」

「りょ、了解です!」



 作戦会議が終わり、俺達は顔を見合わせリッチの元に駆け出した。

 俺と、美波と猫田の3人で距離を取って撹乱し、誰かがポーションをぶっかける作戦だ。


 まず美波が飛び出し、背中に背負った日本刀を抜刀してリッチに斬りかかる。

 ところが、斬撃は空を切る。

 どうやら透明化して剣攻撃を回避したらしい。

 美波は直様、後方にバックステップし距離を取る。



 今度は猫田が武道家が装備してそうな鉤爪で攻撃に出る。

 『エアリアル・クローにゃ』と叫ぶと、空中に飛び上がり爪とぎの様に宙を切り裂いた。

 すると、片手から四本ずつ鋭利な疾風が現れた。

 空気を切り裂く鋭い斬撃がリッチを襲う。

 リッチは円盤型のバリアを作って『エアリアル・クロー』を防いだ。



 物理も駄目で、魔法との合わせ技も駄目か。

 俺は二人が稼いだ時間を利用し、猟銃からの『魔弾』+『溜め攻撃』を放った。

 この攻撃はあの2ndステージの王冠ペンギンのバリアも貫通した。

 ところが、この強烈な一撃もリッチの円盤型バリアに受け止められてしまった。



 エネルギー弾も通用せずか。

 通常ならこれで八方塞がりだ。

 

 だが、俺の最低限の役割は終わった。

 重い『魔弾』の一撃を受けてリッチはわずかによろめいていた。

 その隙を突いて美波が一気にリッチへ詰め寄り、回復用ポーションを頭からぶっかけた。


 ここにきてリッチは初めて苦しそうなうめき声を上げる。

 硫酸を顔に浴びた科学者の様に、顔を抑えだす。



「今だ! メイ放て!」

「ハ、ハイウォーターです!」


 

 リッチの真上に巨大な水球が浮かび上がる。

 フヨフヨと波打つそれは、やがてリッチめがけて落下し、水柱となって降り注ぐ。


 リッチの苦しそうな叫び声が聞こえる。

 水柱の中もがき苦しむ骸骨は、やがて動きを止め、地面へと崩れ落ちた。

 

 メイが魔法を止める。

 リッチは眩い光を放ってアイテムを残し消失していった。

 スキルカードと紫色の魔石、高級そうな魔法の指輪を落としていった。



「どうやら仕留められたようだな」

「ドロップアイテムはきっちり四等分だにゃ」


 こんな時でも現金な猫田に美波が突っ込む。

 

「がめつい猫田」

「労働に対して正当な対価を要求することは当然の権利にゃ」

「猫田と只野は大した事してない件」

「チームプレイというものは目に見えない部分で貢献する役割もあるにゃ」


 俺とメイは、強敵を倒せた事でホッとしているってのにこいつらは。

 肝が太いというか即物的というか。

 

「よくやったなメイ。さあ急いで50層を目指すぞ! ムッツの言った通り『春虫秋草』は早い者勝ちになるかもしれない」

「は、はい! そうですよね。先を急ぎましょう!」



 ドロップアイテムを巡って口論を始める美波と猫田を置いて、俺達は下層へと向かった。

 まさかこの時の火種が後にとんでもない事態を巻き起こすとも知らずに。








 敵との戦闘をなるべく回避して、順調に潜行を続けた。

 スタートから約8時間ほどで目的の50層へと辿り着いた。


 こんな深層まで潜ったのは初めてだ。

 まともに魔物と戦っていたら辿り着けなかっただろう。

 4人のパーティーでお互いをカバーし合ったからこそここまで来れたのかも知れない。



 俺たちは目的の『春虫秋草』を探した。

 フロアを探し回る事15分。


 岩がむき出しな洞窟エリアにて、なにやら草が生い茂った一画を見つけた。

 湧き水が溜まり、そこから様々な植物が繁茂している。


 周囲を探ってみると、そこに目当ての『春虫秋草』を発見した。



「あったぞ! どうやらここに『春虫秋草』が生えているらしい。皆探ってくれ!」



 俺の言葉に皆勢い付き、草むらを手でかき分け探し始めた。

 ところが、いくら探しても『春虫秋草』は俺が見つけた一つしか見つからなかった。


 皆に焦りの表情が生まれる。

 探し始めて更に10分。

 周囲の草むらはすべて探し終えたと思った時に、事件が起こった。



「「あった!!」」



 二人同時に声が上がった。

 美波と猫田の手が伸びる。


 そして二人同時に手が止まった。

 目の前の『春虫秋草』は十数センチの距離にある。


 二人は顔を見合わせた。

 その隙に猫田がちゃっかり手を伸ばした。

 美波が猫田の手首をがっちり掴む。


 猫田の指は『春虫秋草』の寸前で止められた。

 凄まじい力で猫田の手首を締め上げている。


「……痛いんだけど離してくれないかにゃ」

「先に見つけたのは私。人の物を勝手に盗るな」

「おかしいにゃ。先に声を上げたのは私のはずだにゃ」

「見つけたのも声を上げたのも手を出したのも私が先だ」



 二人はそこでジリジリと睨み合う。

 不穏な空気が漂い始める。


 これは仲裁に入った方がいいなと思っていると、猫田が空いた左手で『春虫秋草』を掴みにいった。


 『春虫秋草』を守るように美波は猫田の左手を掴んだ。

 そのまま立ち上がり、ぎりぎりとプロレスの手四つの状態でお互いの手を掴み合う。


 両者負けず嫌いのため引くという選択肢はないらしい。

 ここに来てキャットファイトなど見せられるのはたまったもんじゃない。



「いい加減にしろ!! 喧嘩なんかしてる場合かっ!」



 俺の一喝もクリアアイテムに目が眩んだ二人の耳には右から左だった。


「只野は既に『春虫秋草』を確保してるからそんな事が言える」

「そうだにゃ。喧嘩を止めて欲しいなら只野にゃんの『春虫秋草』を寄越すにゃ」


 こういう時だけは息ピッタリかよ。

 呆れて頭を抱える。

 

 殺伐とした雰囲気にオロオロするメイに向かって、俺はある指令を出した。


「メイ。その『春虫秋草』はお前が取れ」

「へ?」

「所有権を宙ぶらりんにしたままだと争いの種になる。一時的にメイが預かっててくれ」

「で、でででも良いんですか!?」

「かまわん。引っこ抜け」


 俺の指示にキョドキョドしながらも、メイはあっさり『春虫秋草』を引っこ抜いた。

 美波と猫田の怒りの叫びがこだまする。


「な、なにするにゃ、メイにゃん!! 火事場泥棒みたいな真似して! こっちに渡すんだにゃ!」

「おい黒髪ロング陰キャ。泥棒猫呼ばわりされたくなければすぐ返せ」

「ひ、ひいいいいいい~」


 鬼の形相で詰め寄る二人に、恐れをなし、メイは俺の後ろに隠れた。

 俺は二人にはっきりと現実を突きつけてやった。


「試験官に最初の説明で言われただろう。クリアアイテムの強奪などが確認された場合も失格となりますってな」


 二人は「ぐっ」と息を詰まらせた。

 自分たちが目の前の『春虫秋草』を手に入れられない事に気がついたらしい。




 やがて猫田が、フッと肩の力を抜くと、地面にペタリと座り込んだ。


「なんてことだにゃ。ここまで来てクリアアイテムが無いだなんて……。悪い夢だにゃ」


 美波も突っ立ったまま、大きく歯噛みした。

 落ち込む二人に声をかける。


「まだ諦めるのは早いぞ。可能性が潰えたわけではない」

「そんな事言ったってどこにあるにゃ? この50階層はくまなく探したにゃ……。――あっ」

 


 猫田も気付いたらしい。

 もっともその想像は仮説のレベルで確証はない。

 猫田も顎に手を当て「本当にあるのかにゃ?」とつぶやいた。


 俺は皆に向けて力強く宣言した。



「いいか。クリアする時は4人全員でだ。『春虫秋草』は必ず4人分見つける。二つある『春虫秋草』は俺とメイが預かっておく。残りの二つは必ず見つけ出すからこんなところで争わずに皆で協力するんだ――」

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