第35話 最終三次試験開始。試験内容は?
二次試験合格から一週間。
俺は岐阜県に来ていた。
『飛騨高山ダンジョン』が最終三次試験の舞台だ。
二次試験を突破出来たのは5組だけだった。
合計25人が三次試験に進む事が出来た。
美波と萌仁香も無事『ボスバトル』を攻略出来たらしい。
『秋田の希望』畠山栄作など実力者も残っている。
現在合格者25名がダンジョン前の入口に集まっている。
試験官代表が相変わらず厳しそうな顔つきで説明を始めた。
「これから最終三次試験の概要について説明したいと思います。目の前に見える『飛騨高山ダンジョン』に潜行して頂き、地下50層に生えている『春虫秋草』という茸を採集して戻ってきた者を合格とします。『春虫秋草』は数に限りがある為、50層まで到達するスピードも問われます。道中、他の受験者を妨害したり、傷付ける様な行いをした者は失格となりますのでお気を付け下さい」
そう言って代表は実際の『春虫秋草』を手にとって、全員に見せる。
芋虫からキノコが生えたグロテスクな物体だった。
これが『春虫秋草』か。高級な薬品に使われると聞いたことがある。
数に限りがあるとの事だが、一体どれくらいの本数が残っているのだろうか。
最終試験はやはり探索士らしくダンジョンでの探索が行われるらしい。
ダンジョン50層なんて一度も潜った事がない深さだ。
正直かなり不安だ。
「単独で挑むもパーティーを組むのも自由です。ただしアイテムを巡って争いなどはしないようお願いします。クリアアイテムの強奪などが確認された場合も失格となります。一時間後にスタートしますので、開始の合図が出されたら各自一斉に潜行を始めて下さい」
他の受験者と敵対してはならないが、協力するのは問題ないらしい。
俺は第4班の仲間たちに声をかける事にした。
ところがムッツ、土門にはあっさり振られてしまった。
「只野ちゃんがデートに誘ってくれてとても嬉しいんだけど、ごめんなさいね。今回は私一人で挑むわ。『春虫秋草』が何本生えてるか分からない以上、スピード勝負になる可能性があるじゃない? まったく罪作りなキノコよね」
「我、単独行を好む、故に此度も一人で探索す。只野殿の健闘を祈る」
一方、メイと猫田は誘いに応じてくれた。
「あ、ありがとうございます! 只野さんに誘って貰えてすごく嬉しいです! また一緒に頑張りましょうね!」
「にゃははー。私もソロで挑もうかにゃって思ってたけど、さすがに50層を一人で攻略はキツ過ぎるにゃ。パーティーで挑んだ方が効率的だにゃ。私もお供するにゃ」
メイと猫田を引き連れ、美波の元に向かうとなぜかチクリと嫌味を言われた。
「いつからハーレムパーティーの勇者様になった」
「仕方ないだろ。男共には振られちまったんだ」
「男に嫌われ女に好かれる。どんなラノベ主人公だ」
「やかましいぞ。んで美波、お前はどうする。俺達と一緒に行くか? それともソロで挑むか?」
「他のパーティーに誘われてるって選択肢もあるだろ」
「そうなのか?」
「残念だが私にその選択肢はなかった」
「だったら言うな。前衛がいないからお前も来い」
「しゃあねえな」
美波はかったるそうに【にゃんにゃん♥パーカー】のフードを被って隊に加わった。
猫田とメイに紹介する。
猫田と美波は初対面ではないが、メイとは面識がない。
メイは得体の知れない生物と接するかのようにビクついていた。
単純に人見知りなだけなのだろうけど。
美波はメイの挙動不審さを見て「変わった子だな」と感想を漏らした。
いやお前が変わった子とか言うなよ。
今回は今までの試験と違い、持ち込みは自由だったため、俺は以前モヒカンに作ってもらった【ブラックビースト・アーマー】を着込んでいた。
更に新たな武器として【鬼金棒】を制作してもらった。
総重量20キロに及ぶ、金砕棒だ。
禍々しい黒いトゲトゲの鋲が打ち付けられている。
鬼が使ってるイメージだが、日本でも合戦で使用されていたらしい。
かなりの重さだが、慣れれば高威力の『ヘビースイング』を放てるようになるだろう。
その他にも拳銃、猟銃、リュックには各種ポーション、食料などを詰め込んできた。
一、二泊くらいなら野営も可能だ。
一時間後、開始の号令が出されると、25人の男女が一斉に入口へと駆け出した。
土煙が舞い上がる。
俺たち4人も後に続いた。
『飛騨高山ダンジョン』はレンガで出来た人工建造物っぽい造りで、入ってすぐは『南新橋ダンジョン』に似ている雰囲気だった。
もっとも中層、下層になるとダンジョンの雰囲気は一変するものだ。
内部は一体どんな構造になっているのだろうか。
低層に現れるスライム、ゴブリン、コボルド、インプ、スケルトンといった雑魚は皆ガン無視していった。
中距離走のランナーのように、重い荷物を背負ってひたすら駆け抜けていく。
俺は『体力自然回復(小)』と『スタミナ自然回復(小)』のパッシブがあるからこのペースならずっと走っていられるが、他の3人は違う。
案の定、メイが荒い息を吐きながらスピードダウンした。
「メイ。大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい。で、でゃいじょうびゅです」
「大丈夫って言えてない時点で大丈夫じゃないな。少しペースを落とそう」
「しゅ、しゅみましぇん……」
どの道こんなペースで走ったところで50層までスタミナが持つわけがない。
時には休憩を交えながら目的地を目指すしかないな。
10層を越えると、魔物のサイズも大きくなってくる。
オーク、キマイラ、オウルベア、ホブゴブリンなど、以前の俺なら強敵だった魔物だ。
今はフィジカル系を強化するパッシブも充実しているので、遅れを取る事はない。
プロを目指す探索士4人にかかればイージーな魔物だ。
20層に辿り着く。
ここまで約2時間。悪くないペースだ。
途中で何人かの受験者を追い越した。
ソロで挑んだために苦戦している者、仲間が怪我を負って治療している者もいた。
俺たちは損耗ゼロでここまで来られた。
段々敵の顔ぶれも変わってきたのが気がかりではある。
アンデッド系が多くゾンビ、マミー、グールにホーント、ゴースト等の死霊系も増え始めた。
半分を超えた30層に辿り着いた時、先頭を走る美波の足が止まった。
後方の俺たちに手で待ての合図を送る。
猫田が忍び足で近づき、美波の視線の先を追うと、ぎょっとした顔で固まった。
小声で俺に見たものを伝える。
「不味いにゃ。あれリッチだにゃ。中層の迷宮主くらいの強さはあるにゃ」
「戦闘を避ける事は出来ないか?」
「どうやら下への階段はあのリッチのいるフロアを通る必要があるにゃ」
「戦うしかないか……」
最終試験も一筋縄ではいかないらしい。
初のアンデッド系の強敵を前に、俺達は戦う覚悟を決めた――。
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