第34話 イグアノドラゴン戦決着。
イグアノドラゴンの歩みは止まらない。
美夜とメイの後衛二人は蛇に睨まれた蛙の様に立ち竦んでいた。
このままでは二人がやられてしまう。
希少な【SR】回復魔法『ハイヒール』を持つメイを活かせば、この窮地も脱せられるかもしれない。
「ムッツ! 二人を連れて土門の元へ向かってくれ! あの恐竜は俺が引きつける」
「なに言ってるのよあんた!? どうやってあの恐竜を抑えるわけ?」
「説明は後だ。ともかく今はメイを失うわけにはいかない! 土門を回復させてこの場を立て直してくれ!」
「……分かったわ。只野ちゃん。あんた漢ね」
俺はデカブツの顔面目掛けて『乱れ撃ち』を放った。
もちろん威力の低い銃攻撃でダメージなんか与えられるわけがない。
注意を引きつける事が出来れば成功だ。
目論見通り、俺の放った弾丸がデカブツの目の辺りに着弾する。
イグアノドラゴンは歩みを止め、怒り心頭といった表情でこちらを睨み付けた。
「こっちだトカゲ野郎! 二足歩行になってから随分ヨチヨチ歩きになったんじゃないか? おら! かかってきやがれってんだ!」
俺は罵倒しながらトカゲ野郎の顔面目掛けて発砲を続けた。
何十、何百と『乱れ撃ち』をお見舞いし続けると、メイと猫田に向かっていた歩みを止めこちらを振り返った。
どうやら俺を敵として認識してくれたらしい。
イグアノドラゴンは耳を劈く雄叫びを上げると、こちらに向かって走り始めた。
「うげ! 走れるのかよお前!」
ブチギレた恐竜が巨体を揺らし後方から追ってくる。
なんとも恐ろしい光景だ。
はじめ人間ゴンの気持ちが分かった。
歩幅が広いためあっという間に距離を詰められる。
敵の踏みつけ攻撃が背後に迫った瞬間、全身に警告が走った。
どうやら新たに習得した【SR】パッシブスキル:『警戒』が発動したらしい。
慌てて『疾駆』を発動して前方に駆け出し距離を稼ぐ。
バックアタックを防いでくれる便利なスキルだとは知っていたが、これは今の状況ではうってつけの能力だ。
なにせ命がけの鬼ごっこだ。
判断を誤れば即ぺちゃんこだ。
敵の気配が後ろに迫り、踏みつけ攻撃が繰り出されそうな瞬間に『警戒』が発動する。
『疾駆』で一気に前方へと走り抜け、攻撃を躱す回避コンビネーションが機能していた。
どれくらい逃げ続けただろう。
『体力自然回復(小)』と『スタミナ自然回復(小)』のパッシブの恩恵で、なんとか息を切らさず走り続けられている。
遠くでムッツの声が聞こえた。
「土門ちゃんの回復は終わったわ! もう少しだけ引き付けてちょうだい! 奴もバテバテよ!」
気が付かなかったが、確かにトカゲ野郎は息を荒げて、歩みも遅くなっていた。
どうやらあの巨体で走り続けられる様な体力は無かったらしい。
俺は時折『乱れ撃ち』を放って適度にアイツを怒らせながら、リアル鬼ごっこを続けた。
やがて敵は、ハーハーと呼吸を整えるため、その場に止まってしまった。
好機と見て猫田美夜の叫びが木霊する。
「今にゃ! 全員で接近して魔法を食らわせてやるんだにゃ!」
美夜、メイ、ムッツ、回復した土門が駆け寄ってくる。
俺も巻き添えを食らわないように適度に距離を取り、合図と共に魔法を放った。
「ハイグラウンドッ」
「ジェネフレイムよ!」
「ハイウォーターですっ!」
「くたばるにゃ! ハイサンダー!」
「ジェネサンダー!」
疲労困憊の中、一斉攻撃を浴び、イグアノドラゴンは全身を激しく震わせた。
確実にダメージは蓄積されていっている。
電撃はかなり効いてるらしい。
黒焦げのトカゲの丸焼きみたいな姿になっているが、それでも致命傷とまではいかなかった。
咆哮を上げ、俺以外の4人を見据えている。
「ギョワオーーーン!!!」
イグアノドラゴンは直立し、後ろに仰け反るような姿勢を取った。
明らかになんらかの攻撃を放つ前の予備動作に見える。
「皆攻撃が来るぞ! 備えてくれ!」
天を見上げる様な姿勢のトカゲ野郎の口の中が真っ赤に光る。
こ、これはもしやドラゴン系モンスターにありがちなブレス攻撃ってやつじゃないか!?
「ま、まずい! みんなーーー!!」
俺の悲痛な叫びも届かず、イグアノドラゴンは美夜、メイ、ムッツ、土門のいた場所目掛けて口から火炎放射を放った。
4人のいた場所に爆炎が巻き上がる。
爆炎に続き、周囲が火柱で真っ赤に燃え上がった。
まるで戦争映画で爆撃を受け、都市が燃え盛るシーンのようだ。
「そ、そんな。嘘だろ……」
あまりの無情過ぎる光景に、言葉が出ない。
4人の尊い人命がこんな簡単に散ってしまっていいものなのか。
煙が収まると、そこに現れたのは4つの死体……では無かった。
そこには土の壁に守られた4人の姿がいた。
土壁の後ろには、水のドームが出来上がっていて、中にいる4人は無事だった。
土門とメイの魔法が敵のブレス攻撃を防ぎ切ったらしい。
「みんな! 無事かっ!!」
「ええ! 皆無事よ。危うく丸焦げになるとこだったわ!」
「皆無傷だ。我の土壁と黒崎殿の水壁で耐えきる事が出来た」
「た、たたた助かりました。土門さんの土壁がなければ私の水じゃ蒸発して終わりでした!」
「にゃははー。完全に死んだと思ったにゃ。一瞬三途の川を渡りかけたにゃ」
4人から返事が返ってくる。どうやら皆無事らしい。
今のブレス攻撃で全てを出し切ったのか、イグアノドラゴンは叱責され項垂れる犬の様な姿勢になっていた。
どうやらこの攻防で雌雄は決したらしい。
俺たちはもう一度魔法で一斉攻撃を繰り出すと、トカゲ野郎はプスプスと口から煙を吐いて、動かなくなった。
やがて目映い光を放つと、イグアノドラゴンは素材とドロップアイテムを大量に残して消失していった。
イグアノドラゴンの死亡を確認して『黒剣の後藤田』が右手を高らかに上げた。
「イグアノドラゴンの討伐を確認。第4班の3rdステージ合格を言い渡す!」
その雄々しい声を聞いて、俺はヘタリと地面にしゃがみこんだ。
ここに来て疲れが一気に出たようだ。
「ご、ご苦労さまです!」
黒崎メイが俺に回復魔法をかけてくれる。
ダメージはさほど受けてないが疲労困憊だった。
「皆で合格出来て良かったな」
「は、はい! あの、その……ありがとうございました!」
「ありがとう?」
「はい! 試験が始まる前震える私を只野さんが勇気付けてくれたから、なんとか立ち向かう事が出来ました。土門さんが吹き飛ばされた時、自分が囮になって敵を引き付けてくれたのも只野さんでした。もし土門さんを回復する事が出来なければ、私たちはブレス攻撃を防げずに皆死んでたかもしれません。3rdステージを突破出来たのも只野さんのおかげです!」
メイは涙ぐんだ目で、力強く俺の両手を握りしめてくれた。
その子供のような真っ直ぐな瞳に思わず笑みが浮かぶ。
「合格出来たのは皆の力があってこそだ。メイがいなかったら土門が回復出来なかったんだから、もっと胸を張っていいと思うぜ。帰ったら皆で祝勝会でもしよう」
「はい! お祝いしましょう! 楽しみましょう!」
俺とメイの元に皆が駆け寄ってくる。
暫定的なパーティーとはいえ、仲間と戦うのも悪くはないものだ。
10年間ずっとソロで戦い、最近は美波と二人でダンジョンに挑んでいるが、今後は仲間と共にパーティーを結成するのも考えてみよう。
今とは違う新しい世界が見られるかも知れない――。
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