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第33話 過去最大の戦い。

 『黒剣の後藤田』がスイッチを押すと、円形の扉がゆっくりと開いていった。

 地響きと共に巨大な扉が開いていく。

 

 徐々に扉の中の全貌が見え始める。

 第一印象としては「とにかく広い」だ。


 サッカー場3面くらい入りそうな広さで、天井も高く、まるで人工的に作られた地下都市のようだ。

 中に魔物がいると言われたが、周囲を見渡したところ何もいない。

 俺たち5人とA級探索士3人が入り、扉を閉めると、向こう側の扉が開いた。

 

 ああ。どうやら奥から魔物が現れるらしい。


 なにやら巨大な物体がノソリノソリと歩いてくる。

 遠くからでもシルエットで判別出来るがかなりの大きさだ。

 

 あんな巨大な物体が歩き回る姿は見たことがない。

 パッと見、アフリカゾウよりも数回りは大きいと思われる。



 先頭のムッツが驚きの声を上げる。


「大きいわねえ。あれって恐竜かしら?」


 土門雄浩が冷静に答える。


「む。恐竜型の魔物ということだろう。全長10メートルはある」



 『炎獄のハチロー』が暑苦しく説明した。


「奴の名はイグアノドラゴンだ! 大型ダンジョンの下層に出現するから皆は戦った事はないと思うぜ。体当たりやしっぽ攻撃を食らったら致命傷になるから気を付けてくれよな!」


 ハチローは後藤田に「余計な事を喋るな」と耳をつねられ押し黙った。



 イグアノドラゴンか。

 間違いなく過去最強の敵だ。

  

 けれども皆で協力すればきっと倒せるはず。

 そう信じて戦うしかない。

 

 俺たちは、始まりのゴングと共に駆け出す格闘家のように、敵に向かって走りだした。

 歩みの遅い敵より早く、中央の開戦予定地にたどり着いた。


 イグアノドラゴンまでの距離はおよそ50メートル。

 俺たちは先制攻撃として魔法攻撃を繰り出す事にした。

 その距離が20メートルほどになり、射程圏内に入った瞬間、全員で魔法を放つ。


「ジェネサンダー!」

「ジェネフレイムよ!」

「ハイグラウンド」

「ハイサンダーにゃ!」

「ハ、ハイウォーターです!」


 【R】と【SR】の魔法攻撃5連撃を一身に受けてイグアノドラゴンは苦痛の叫び声を上げた。

 いいぞ! 効いている。魔法攻撃は有効らしい。


 怒った敵は歩みを早めてこちらへと向かってくる。

 ムッツと土門は一歩前に出る。


「ここで迎え撃つわよ! 美夜ちゃんとメイちゃんは後衛に下がってちょうだい!」

「「了解!」」

「只野ちゃんは後衛の二人を守りながら、隙を見て加勢してちょうだい!」

「分かった!」


 ムッツと土門が迫りくる恐竜型モンスターに果敢に挑む。

 二人共近接戦闘タイプだ。


 ムッツは黒い鉄と革製の手袋に、革靴を装備している。

 拳と蹴りで戦うキックボクサータイプらしい。


 土門雄浩は白い手甲のみ。

 体術が得意と語っていたが、この巨大な怪物に通用するのだろうか。



 さっそくムッツが攻撃スキルを放つ。

 空高く舞い上がると、空中から飛び膝蹴りを繰り出した。


「喰らいなさい! 『流星脚』!!」


 イグアノドラゴンの横っ腹に革靴がめり込む。

 衝撃波が巨体をわずかに揺らした。

 だが、ダメージを負った様子はない。


「手応えなしだわ! これは効いてないみたいね。土門ちゃん! やっちゃって」

「御意。『豪栄掌』」


 土門は掌に真っ白な球体のエネルギーを集めると、相撲の張り手の要領でイグアノドラゴンの胴体にぶち込んだ。

 周囲に眩い白光が拡散する。

 しかし、この技でも敵の反応はケロッとしたものだ。


「む。効果なし。胴体は頑丈なようだ」


 ダメージを与える事には失敗したが苛立たせることには成功したらしい。

 イグアノドラゴンはその場で、巨体を縮こまた。

 なにやら技を放つ前兆に見えた。


「ムッツ! 土門! 攻撃が来るぞ!!」

「分かってるわ!」

「承知」


 イグアノドラゴンはその場で駒のように一回転すると、尻尾ローリング攻撃を周囲に繰り出した。

 攻撃のモーションを察し、大至急離脱した二人はすんでのところで回避した。


 20メートルは離れている中衛の俺の位置にも遅れて突風がやってくる。

 直撃を受けたら、よほど上手く防御しないと致命傷になりそうだ。


 大技の後だからか、敵に隙が出来た。

 後衛の美夜とメイがその機を逃さず魔法攻撃を放つ。


「ハイウォーターです!」

「ハイサンダーにゃ!」

 

 メイの巨大な球体状の水魔法ハイウォーターがイグアノドラゴンの頭上目掛けて降り注ぐ。

 水の重みと、衝撃で大きなダメージを与えた。

 

 びしょびしょに濡れた状態で、更に美夜がハイサンダーを叩き込む。

 雷魔法特化のパッシブマシマシを自慢するだけある。

 巨木もへし折ってしまいそうな、稲光がイグアノドラゴンに叩きつけられた。


「ギョワーーーッ!!!」


 ここにきて一番の叫び声。

 濡れた身体に雷を浴びたデカブツは苦痛の叫びを上げ続ける。

 ブスブスと黒煙を上げ、イグアノドラゴンがほんの少し怯んだように見えた。



「今よ! 只野ちゃん! その金棒でカチ込んでちょうだい!」


 俺は一気に距離を詰め、右肩に背負った金棒を振り上げた。

 デカブツの左前足に辿り着くと、大きくテイクバックの姿勢に入り、『ヘビースイング』をぶちかました。


 メキャっと何か固い物がへし折れる音が聞こえた。

 どうやらイグアノドラゴンの前足の骨を折る事に成功したらしい。


「まだよ! このまま畳み掛けるわ! 土門ちゃん。反対側の前足もへし折っておやり!」

「御意」



 土門は素早く反対側に回り込むと、デカブツの右前足目掛けて突撃した。

 右手にはドリル状に回転する土魔法が装着されている。

 どうやら土魔法と、打撃系スキルの合せ技らしい。


「せいっ! 『土旋撃』!」


 イグアノドラゴンの右前足に土魔法を帯びた回旋攻撃が放たれる。

 膝付近に着弾し、夥しい出血と共にポッカリと大穴を穿った。



「ギョエーーーッ!!!」


 両の前足に重傷を負ったデカブツは前方につんのめって、無様な姿勢を晒した。

 シャチホコの様に下半身が浮き上がる。



 この機を逃すわけにはいかない! 

 俺はここぞとばかりに声を張り上げた。


「皆! 総攻撃だ! 奴には魔法が有効だ! 全員でもう一丁ぶち込むぞ!」


 接近し過ぎていた俺と土門は安全圏まで離脱し、仲間たちと足並みを合わせ一斉に魔法を放った。


「くたばりなさい! ジェネフレイム!」

「ハ、ハイウォーター!」

「にゃははー! ハイサンダーにゃー!」

「ジェネサンダー!」

「ハイグラウンドッ」


 

 魔法5連撃を受け、イグアノドラゴンは悲痛の叫びを上げ、蹲った。

 周囲に土煙や、黒煙が舞い上がり、デカブツの姿を隠す。


 これは勝ったかもしれない!

 猫田が喜びの声を上げる。


「やったにゃー! これは決まったんじゃないかにゃ」

「少なくとも手応えは有ったわね。くたばっていてくれると嬉しいんだけど」




 一瞬弛緩した空気が漂う。

 すると煙の中から何かが()()()()()気配を感じた。


 土門が素早く危機を察した。


「皆の者下がれ! 敵は存命だ」


 土門の忠告も虚しく、イグアノドラゴンは()()()()を始めた。

 まさか後ろ足二本で歩けるとは。

 これでは前足を怪我させた意味がない。


 イグアノドラゴンは後衛の美夜とメイを睨み付け、そちらに向かって歩き出した。

 必死に敵の前に立ち塞がった土門が、巨大な足で蹴り飛ばされる。


「ぐう!」


 風に巻き上げられるビニール袋の様に、土門の身体は吹っ飛んでいった。

 そのまま十数メートル飛ばされて、地面に叩きつけられる。


「土門!!」 


 攻守の要の土門を失った。

 イグアノドラゴンは後衛二人に向かって歩みを続けている。

 

 後衛二人を早く逃さなければならないし、すぐにメイを引き連れて土門の治療をしなければ奴の命も危ない。

 今、俺達は絶体絶命の危機を迎えていた――。

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