第32話 いよいよ最終3rdステージ『ボスバトル』へ
俺たち5人は、会場に隣接された宿舎『エクスプローラーヴィレッジ』にて、お互いのスキルシートの確認などを行った。
チームで戦う以上それぞれの特徴を知っておかなければならない。
戦闘スタイルやスキルなどを加味して、暫定的なフォーメーションが決まった。
前衛はムッツと土門雄浩が担当し、後衛に猫田美夜と黒崎メイが担当。俺は遊撃隊として前衛と後衛のサポートを行う事になった。
明日のシミュレートを綿密に行い、動きの確認、スキルを繰り出すタイミングなども話し合い、不安を少しずつ解消していった。
翌日『屋内トレーニングセンターCENTRAL』にて最終3rdステージ『ボスバトル』がとり行われる事になった。
大型の戦闘訓練場にて一組ずつ戦闘テストが行われるらしく、俺たちは4番目の順番になった。
試験官代表から、緊急時に備えてサポートをしてくれるA級探索士の紹介が行われた。
3人の男女が登壇する。
まず一人目は背中に大きな黒い剣を背負った中年男性だ。
彼の二つ名は『黒剣の後藤田』。
俺が子供の頃から活躍している有名な探索士だ。
確かトレーディングカードを持っていた。
二人目はロングヘアーに気怠そうな雰囲気の女性だ。
彼女は確か『水龍の夏木』。俺と同年代だったはず。
大規模な水魔法の使い手で、ダンジョンのフロア一面を水浸しにした逸話はあまりにも有名だ。
三人目は燃えるような真っ赤な頭髪の男。
こいつは一番の有名人で名は『炎獄のハチロー』。
熱血キャラが受けてTVタレントとしても人気だ。
探索士としても実力は相当のものと聞く。
まずはリーダー格の『黒剣の後藤田』が挨拶を行う。
「はじめまして。後藤田です。プロ探索士試験合格に向けて、ある意味この3rdステージが一番の難関かもしれません。もしもの場合には我々3人が救助に向かいますが、その時点で試験は失格となってしまいます。我々が手を借さず自分たちの力だけで魔物を討伐出来る事を願います」
続いてアンニュイな感じの『水龍の夏木』がかったるそうに話す。
「えーと。後藤田さんも話したけどー。私たちが手を出した瞬間にー。えー。アウトなんで。自分たちだけでぇ、クリアして欲しいです。そんなとこかな。頑張ってね」
最後に『炎獄のハチロー』が唾を飛ばしながら熱い檄を飛ばす。
「バーニング!! 皆さんおはようございます! お茶の間の熱血漢ハチローでございます! ここまで残った皆さんを素直に褒めてあげたい! よくやった! おめでとう。二次試験はあとはこの『ボスバトル』のみだ! 攻略のコツは簡単に諦めないこと! 不屈の闘志が大切だ! もっともヤバくなったら我々が全力でヘルプに駆付けるから安心して戦ってくれ! 全員合格してくれることを祈っている! 頑張れー!!」
両手でビクトリーサインを作って、俺たちにエールを送る。
暑苦しいが悪い男では無さそうだ。
最後に試験官代表が3rdステージ開始の挨拶をして、いよいよ二次試験のファイナルが幕を開けた。
ここを突破出来てもこの後、後日に最終三次試験もあると思うと気が重い。
相当な難関になるのは間違いないだろう。
とは言え、まずは『ボスバトル』のクリアだ。
俺たち5人は、待合のホールにて綿密にコミュニケーションを取り合った。
約一時間半後、4番目の俺たちの班に呼び出しのアナウンスがかかった。
ムッツが男らしい声で、気の抜ける女言葉を叫ぶ。
「いくわよ! あんたたち!」
極度にテンパっている黒崎メイだけが「ひゃ、ひゃい!」と返事を返した。
こんなにガチガチに緊張してて大丈夫だろうか。
メイは貴重な白魔道士キャラなので、彼女には最後まで生き残って回復を受け持ってもらわなければならない。
遊撃の俺がキチンとフォローしてあげないと。
係員の案内で『屋内トレーニングセンターCENTRAL』の巨大な地下施設へと移動した。
まるでトンネルの入口のようだ。
中央を丸いシェルターの様な扉で塞いでいる。
扉の前には、3人のA級探索士。
頼もしい姿だが、彼らの手を借りたら失格だ。
試験官代表の厳しい表情が、試験の過酷さを物語っているようだ。
代表が直々に概要を説明をしてくれる。
「準備が出来次第、扉を開きます。中に入ると最初は巨大な倉庫になっていて、あらゆる武器、防具、魔道具が使用出来ます。自由にお使いください。更にもう一度扉を開くと、中に魔物がいますので5人で協力して討伐をお願い致します。もし一人でも死者が出た場合、その時点で強制的にA級探索士が介入しますので事実上の失格となります。そうならないよう命は大切に戦ってください。それでは検討を祈ります」
代表が合図を送ると高さ2、30メートルはありそうな巨大な円形の扉が開いていく。
俺たち5人と、A級探索士3人だけを中に入れ、扉は地響きと共に閉まっていく。
中は学校の校庭くらいの広さがあり、前後を巨大な扉で挟まれた緩衝地帯だった。
早速、倉庫の中から自分たちにあった装備を身に付けていく。
俺はいつものボディーアーマーと拳銃、猟銃、金棒を背負って準備を終えた。
魔道具は回復用ポーション、魔力ポーション、万能治療ポーションが一人一本ずつ置いてあった。
それぞれバッグに一本ずつ入れて持っていく。
全員が準備を終えると、いよいよボスが待つ扉の前にやってきた。
ムッツや土門、猫田はいい感じにリラックスしつつも気合の入った表情をしていた。
ところが黒崎メイは顔面蒼白で、大量の汗を流していた。
小声で「帰りたい帰りたい」とつぶやいている。
こんな精神状態ではまともに戦えっこない。
「おい。大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい。で、でゃだいじょびゅ……でしゅ」
「大丈夫って言えてないじゃんか。全然大丈夫じゃないだろ」
「は、はひっ。す、すみません」
終いにはガタガタと震えだした。
これはさすがに不味い。
回復担当の彼女にはシャンとしてもらわないと。
俺は彼女の手をぎゅっと掴むと、励ましの言葉をかけてやることにした。
「安心しろ。君は俺が守る。君は皆を回復する大切な役目を担っているんだ。だから俺たちが力尽きても、最後まで君だけは守り抜く」
「あ……。ありがとう、ございます」
「自信を持ってくれ。君はここまで残った素晴らしい探索士なんだ。皆で生き残って試験を突破しよう」
「……はい」
黒崎メイの表情に血色が戻り、震えが止まった。
まだ、瞳はキョロキョロと揺れているが、意を決した表情でこちらを見返した。
「頑張ります! 私皆さんの傷を癒やしますから! か、回復は任せてください」
その力強い言葉に皆、勇気づけられたようだ。
結束が固まるのを感じる。
ムッツがなぜか俺に冷やかしの言葉を放つ。
「やるじゃない。ガチャ屋は意外と女たらしなのね」
「ん? どういう事だ?」
言葉の意味が分からずポカンとする。
メイは言葉をどう解釈したのか顔を真っ赤にした。
「と、ともかく! 行きましょう皆さん」
元気を取り戻した彼女に先導され、ボスのいる扉の前に集う。
『黒剣の後藤田』が「覚悟は出来たようだな」と皆に確認し、扉を開くスイッチを押した――。
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