第21話 防具完成! 【ブラックビースト・アーマー】と【にゃんにゃん♥パーカー】
カウンターへと向かうと、モヒカンは奥の作業場から完成した防具を二つ持ってきた。
一つは黒光りする、ゴテゴテしたボディアーマーだ。
胸、肩、背中に素材を活かしたパネルが装着されている。
「まずはあんちゃんの防具から紹介といこう! 衝撃保護に機動性を兼ね備えた【ブラックビースト・アーマー】だ。『合成獣の皮膚』『黒魔豹の毛皮』『闇山羊の角』『巨大甲虫の殻』をふんだんに使用した逸品だ! 中々の自信作だぜ」
「おお! って俺が持ってきた素材は『合成獣の皮膚』だけじゃないか。他の素材はどうしたんだ?」
「あとは店の残り物を使ったサービスさ。なぁに金は心配いらん。あんちゃんが持ってきた素材を買い取らせてもらう。それだけで十分だ」
「お、おい、良いのかよ? 『黒魔豹の毛皮』とか『闇山羊の角』って結構貴重な素材ばかり使ったんじゃないのか? 金なら払うぞ」
「いいんだよ! これくらいの事させてくれ。あんちゃんは今後も良い客になってくれそうだし、先行投資ってやつさ」
【ブラックビースト・アーマー】に使用されている素材はどれも見たことがないものばかりだ。
恐らく俺たちがまだ到達した事がない階層にて待つ、新たな魔物たちの素材なんだろう。
「ありがとよ。モヒカン。大切にするぜ」
「ふっ。防具を大切にしてたらあんちゃんの身が持たないぜ?」
「違えねえな。ハッハッハ!」
「ハッハッハッハッハッ!」
俺とモヒカンがハードボイルドな笑いを交わしていると、美波が死んだ魚の目でこちらを見てきた。
「モヒカン。私の防具も説明して」
「おおっと。すまねえ。こちらが嬢ちゃんのために用意した敏捷性と筋力上昇が望める【にゃんにゃん♥パーカー】だ! 見た目もグンバツに可愛いぜ」
モヒカンが広げた薄ピンク色の衣服を見て、俺は呆気に取られた。
なんだこの猫耳がついたもふもふなパーカーは。
ニーソックスとか履いてる女の子が好んで着てそうだ。
これはクールな美波が着るイメージじゃない。
こんな服勝手に作られてさぞかしお怒りだろう。
作ってくれたモヒカンには悪いが、美波がブチ切れないうちに引っ込めてもらおうか。
そう思って横顔をちらりと見ると、この女はとんでもない言葉を発した。
「めちゃんこ可愛い」
「嘘だろ、おい」
美波は猫にマタタビを与えた様なトロンとした目つきで、モヒカンの作った『にゃんにゃん♥パーカー』を眺めていた。
モヒカンは我が意を得たりと言った表情で、説明を始めた。
「ふふーん。だろだろ? この【にゃんにゃん♥パーカー】は『梟熊の毛皮』に『高速兎の毛皮』で全体をデザインし、中には『鳥人の羽毛』を入れてあるから敏捷もグッと上がるぜ。フード部分に『猫魔人の耳』も付けて攻撃力もアップだ!」
「グッジョブ。モヒカン。最高だよ」
「いい仕事が分かるってのはいい女の条件だぜ。ありがとよ嬢ちゃん」
モヒカンとサムズアップを交わすと、美波は早速【にゃんにゃん♥パーカー】を着てフードを被り始めた。
フードの匂いを嗅ぎながら、顔を隠しめちゃめちゃ小さい声で「にゃん♥」と言った。
美波よ。今のは聞かなかった事にしてやるぜ。
こうして俺たちは防具の新調に成功した。
二人共、性能、意匠共に不満なしの完璧な買い物だった。
ちなみに性能の方は下記の通り。
【ブラックビースト・アーマー】 『耐久上昇(微小)』、『敏捷上昇(微小)』、『闇魔法耐性(微小)』
【にゃんにゃん♥パーカー】 『筋力上昇(微小)』、『敏捷上昇(微小)』、『斬撃系スキル攻撃力上昇(微小)』
身体能力向上系のパッシブスキルが付与されているのは驚きだ。
モヒカンに値段をつけるとしたらいくらか聞いたら俺のアーマーが50万円で、美波のパーカーが70万円だそうだ。
本当モヒカンの厚意に感謝だ。
今後は『ワイルド鍛冶屋本舗』をご贔屓にさせてもらう。
帰りの車内でも美波は【にゃんにゃん♥パーカー】を着ていた。
よっぽど気に入ったのか、ご機嫌な鼻歌まで歌ってやがる。
完全にキャラ崩壊を起こしている。ここはお前の家じゃないぞ。
俺と美波を載せたSUV車は夕暮れの国道2☓8号線を走った。
西陽が眩しくサンバイザーを下ろした。
隣で歌われる緊張感の無い「にゃんにゃん」交じりの鼻歌に集中力が削がれる。
俺は普段聞かないカーラジオをONにした。
「帰りにラーメンでも食べていくか」
「何系?」
「家系」
「オッケイ」
「つまらん返しをするな。……そう言えばアメリカの家系ラーメンの店の名前知ってるか」
「アイドンノウ」
「E・A・K (イーエーケー)だそうだ」
「つまらんホラを吹くな」
「悲しいが実話なんだ。そしてニューヨーカーに大好評だ」
「嘘みたいな本当の話か」
「ああ」
せっかくY県まで遠出したので喰べログで評価の高い店に入った。
俺は海苔増しラーメンを、美波はトッピング全部乗せの特製ラーメンを注文した。
150センチ足らずの小柄で細身だが美波は健啖家だった。
花も恥らうお年頃のはずなのに、豆板醤とにんにくをご飯に乗せ、スープに浸した海苔でご飯を巻いてパクつく。
その食べ方どこで知ったんだ……。
おかわり無料なので、業務用炊飯器に自分で米をよそいに行く。
呑気にラーメンをすする俺たちに、まさかこの後、とんでもない試練が待ち構えているとは知る由もなかった。
そう。それは俺の新たな商売の根底を覆す様な出来事だった――。
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