第17話 底辺から天辺へ。夢を語る
本日まで二話投稿とさせて頂きます。
一話目どうぞ!
2体のオウルベアまで2、30メートルはあるだろうか。
向こうはこちらに気付き、のっしのっしと歩みを進めている。
体重の重い力士のように、一歩一歩大地を踏みしめ接近してくる。
俺は『溜め攻撃』を発動し、『魔弾』にエネルギーを充填していく。
この距離なら確実に一発は撃てる。
だが1体を確実に仕留められても、すぐにもう1体に対処しなければならない。
2体目の存在も考慮しながら、まずは右側のオウルベアに向けて『溜め攻撃』からの『魔弾』を発射した。
俺の銃から発せられた通常の3倍の大きさの『魔弾』は、オウルベアの胸部中心にこぶし大の穴を空けた。
右のオウルベアは声も上げずに絶命した。
そのまま地に崩れ落ち魔石と素材を残して、消失していく。
左側のオウルベアは片割れを失い、怒り狂った。
耳を劈く咆哮を上げ、俺に迫ってくる。
凄まじいプレッシャーだ。
『恐怖耐性(小)』のおかげでなんとか震えずにいられている。
敵との距離はすでに10メートル弱。
この距離では『溜め攻撃』のエネルギー充填を完成させる事は出来ない。
不完全な状態で発射しても倒せる保証はないし、距離を詰められているので外したら敵の攻撃を受けてしまう。
そこで俺は思い切って距離を取ることにした。
アクティブスキル:『疾駆』を発動。
敵に背を向け、一気に後方に駆け出す。
『疾駆』の持続時間は1、2秒程度。
それでもオウルベアとは25メートル程の距離を取る事に成功した。
敵に向き直り、ここで改めて俺は『溜め攻撃』を発動する。
その距離20、18、15、13、12、11……10メートルに迫った時、エネルギー充填が完了した。
「この距離なら外さねえ! 終わりだ」
俺はグロック17を両手でしっかりと握り照準を定めてオウルベアに『魔弾』を放った――。
その後、Cランク昇格の条件であるオウルベア二十体討伐を達成し、俺は美波と共に愛車のSUV車でダンジョン管理協会に向かっていた。
揺れる車内の助手席で、美波はボンヤリ流れる車窓の景色を眺めていた。
少しだけ開けた窓ガラスの隙間から、風が流れ彼女の髪をかき上げた。
「それでさ、さっき話そうとした提案なんだけど」
「私もダンジョン探索士の資格を取得しろって話?」
「なんだ。ちゃんと聞いていたんじゃないか」
「うん。でも探索士の資格はしばらく取るつもりは無い。登録料で10万円、探索士資格認定書の発行で10万円。金の無駄。私には必要ない」
「確かに今の美波の強さならわざわざFランク資格なんて必要ないだろう。これからCランクになる俺より余裕で強いんだからな。それでも一度探索士資格を取得すれば、今後ランクを上げていく事によってスキルストックが解放されていき、益々強くなれる。探索だって楽になるし、もっと効率よく金を稼ぐ事も出来るだろ? 資格取得の費用は俺が持つからさ」
「ありがたい話だけどやっぱり悪い。これまで無料でガチャも引かせてもらったし。授業料にしても高過ぎるのは分かってる。これ以上只野の厚意に甘えるのは……申し訳ない」
どうやら俺が思ってた以上に美波はしっかりした性格だったらしい。
このくらいの年代の女の子は奢ってもらうのが当たり前だと思ってそうなんだが意外と気を使う性格みたいだ。
こちらは良かれと思って善意を押し付けてしまっても、却って相手を恐縮させてしまう。
そこで一計を案じることにした。
「うーん。そうだな。それじゃ考え方を変えてみよう。美波に探索士になってもらい、ランクを上げていってもらえば、俺にもメリットがあるって言ったらどうだ?」
「私が高ランクの探索士になるとどんなメリットがあるの?」
「ふふ。その話をするには俺の子供の頃の夢の話をしなければならないな」
「ええー。脱線しまくり」
「まあまあ。この話は密接にリンクしているんだよ。……俺はガキの頃S級探索士になるのが夢だった。『週刊ダンジョン』や『月刊ダンジョン通信』といったダンジョン情報誌を夢中で読み漁っていた。好きな探索士のブロマイドを集め、ポスターを部屋に張り、フィギュアを飾って、将来は彼らのように一流の探索士として自分の名を轟かせる事を夢見ていた。ところがだ、現実はそんなに甘く無かった。探索士になって十年。俺は底辺で蠢く芋虫みたいな人生を送っていた。懸命に働いても月収は10万を超えるのがやっと。たまの安酒で気を紛らす日々」
「苦労話はどうでもいいから本題に入って」
「なんてドライな奴だ。少しくらい俺の身の上話に耳を傾けてくれてもいいじゃないか。おほん。まあ、つまりだな、俺は『スキルガチャダス』に出会ってから人生が一変した。底辺で燻っていた芋虫は今、羽化の時期を迎えたのだ。俺はここから蝶になって羽ばたき子供の頃の夢だった天辺、S級探索士を目指そうと思う。この夢は一人では叶えられない。信頼出来る仲間が必要だ。美波。その大切な仲間に加わってくれないか」
沈黙が訪れる。
あれ? 俺なんか不味い事言ったか。
美波はわずかに視線を車窓に向けた。
伏し目がちの目元に長いまつ毛が揺れた。
「一つ感想言っていい?」
「ん? ああ」
「暑苦しいし薄ら寒いし聞いてて恥ずかしいし、なんか反応に困る」
「辛辣過ぎだろ!」
「でも、只野の真っ直ぐな気持ちは伝わった。私でいいなら仲間に加えて」
「なっ! いいのか?」
「もちろん。断られると思った?」
「正直もっとボロクソに拒絶されて去っていかれると思ったよ」
「もう。私をどんな人だと思ってたの。偏見持ち過ぎ」
「それはお互い様だ」
美波が破顔した。
クールな彼女らしくない笑い方だ。
おかしくなって俺も笑った。
車内に笑い声がこだまする。
車窓からは爽やかな風が吹き込んだ。
二人の門出を風の精霊が祝福しているかのようだった――。
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