第100話 大団円
最終話です!
長い間お付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございましたm(_ _)m
5年後のエピローグとなっております。本編お楽しみ下さいませ。
攪王との最終決戦から5年の歳月が流れていた。
『レイジ・リベリオン』の解体に伴い、世界にはまた平和が訪れていた。
崩壊された都市郡は復興が進み、人々は従来の穏やかで健康的な生活を謳歌していた。
5年もの月日が流れたため、只野の仲間たちの環境も大きく変化していた。
彼らの現在を紹介していこう。
頂上決戦を生き残ったレイラと風祭は探索士協会の再建に尽力した。
『レイジ・リベリオン』によって多くの上級探索士を殺害されたため、実質世界最強のこの二人が後進の指導、育成に努めた。
現在『技能達人』レイラ・アンダルシアが世界探索士協会の理事長を務めている。
レイラは風祭を理事長に推薦したが風祭は「『孤高』の俺が組織の長なんて務まらねえよ。困った事があったらまたいつでも呼んでくれ。じゃあなレイラ、また会おうぜ」と言って辞退した。
風祭大吾は現在もソロにて世界中のダンジョンを駆け巡っている。
只野を最初にパーティーに誘った『疾風のアリサ』は約3年間日本国内で活動し、S級探索士としての評価を確立。
現在は日本を飛び立ちアメリカを拠点に活動している。
親友のステフことステファニー・タケイシと共に新進気鋭のパーティーとして業界紙に取り上げられる活躍を見せている。
相変わらずお金には厳しく、アメリカのチップ文化に大いに不満を漏らしているようだ。
只野に淡い恋心を抱いていた黒崎メイは、只野が美波に自分の気持ちを告げると、身を引く事を決心した。
只野の会社の社長秘書を辞め、探索士の仕事も辞めた。
現在ではその美貌から芸能界にスカウトされ、モデルや女優として活動している。
相変わらずあがり症の為、演技ではセリフ噛み噛みでNGだらけである。
それでも新たな生きがいを見つけたメイの表情はとても輝いていた。
萌仁香は美波に次いで史上二番目の速さでS級探索士に昇格した。
美波は攪王の娘である事が世間に知れ渡ると、世界中から謂われのない中傷を受けた。その事に最も憤慨していたのは萌仁香であった。
彼女曰く「あいつの悪口を言っていいのはライバルであるボクだけだじぇ」との事。
最近グルメに凝り始め、ウエスト周りが大分怪しくなってきたのが悩みのタネである。
プロ試験の同期であった猫田はジャーナリストになる夢を叶え、世界中を飛び回って取材に明け暮れる日々を送っている。
同じく同期のムッツは派手なセンスを遺憾なく発揮しファッションブランドを立ち上げ、特定の界隈では非常に人気を博している。
モヒカンは『ワイルド鍛冶屋本舗』の二号店を出店し、佐治は会社で係長補佐へと昇進した。
土門雄浩、堺茜は只野の【UR】カードの力もありS級探索士へと昇格した。
『氷結の森迫』は虚実交えた実体験を語る炎上系youtuverとして活動している――。
世界に平和が訪れたと言っても、それはあくまで元から平和な地域だけの話。
利権を巡って争いを続けていたアフリカの紛争地域では平和など遠い異国の話であった。
井戸もないこの村では住民が重い貧困に喘いでいた。
子供の大半が5歳まで育たずに死亡していく。
僅かな農地を耕して、懸命に日々を超えていた。
そんな僻村に、突如隣国の兵士が現れる。
彼らは瞬く間に蹂躙され、殺害されていった。
そうここは地獄であった。
誰からも注目もされず、気にも止められる事もないまま絶たれていく命。
隣国の兵士たちは笑いながら機関銃を放ち、錆びたマチェットで子供の首を叩き切った。
皆、殺人の愉悦に取り憑かれた狂人だった。
兵士が去り、物陰に隠れていたため唯一生存した少女は村の仲間たちの死を、家族の死を嘆いた。
神などいない。英雄などいない。救世主などいない。
この世に希望など存在しない。
世界に絶望し切った少女の元に、白いローブを着た男が現れた。
男が地面にしゃがみ込み、脳髄と眼球が飛び出した父に手を当てると、見る見る間に傷がふさがり傷の無いきれいな顔へと戻った。
それどころか、父はゆっくりと目を開け、身体をむくりと起こし始めた。
少女は目の前の奇跡の様な光景に驚きつつも、キョトンとする父の胸の中に飛び込んだ。
その白衣の男は次々と村人たちを蘇生させていった。
母が、姉が、弟たちが生き返る度に少女は喜びの涙を流した。
数十分もしないうちに殺された村人全員が生き返った。
フードを深く被った男は表情が見えない。
自分たちの様に黒い肌をしてないから違う人種なのだろうか。
村長が土下座をしながら感謝の意を伝えるが、男は淡々とした表情で話を聞き去っていった。
少女は感謝の気持ちを伝えようと去りゆく男に話しかけた。
「ありがとう! おじさんは神様みたいな人なんだね」
「そんなんじゃない。俺はただの悪人だ」
「悪人なわけないじゃない! おじさんは皆を助けてくれたんだから、誰よりも優しい素敵な人だよ」
「俺は過去に取り返しのつかない事をしてしまった悪い奴なんだ。君たちを殺した隣国の兵士よりもずっとずっと悪い奴だった。……だからせめてもの罪滅ぼしに生涯かけて困っている人を助けたい、そう思ってるだけなんだ」
「そうなんだ。それじゃおじさん。世界中の困ってる人を助けてあげてよ! きっとそれはおじさんにしか出来ない事だから」
「――ああ。ありがとう……。ありがとう……」
フードの下の男の顔は柔和で優しいものだった。
男が空を見上げると、幻のように女性の顔が浮かんで見えた。
それは遠い昔に亡くなった最愛の妻の笑顔のようだった――。
スイス連邦のトッゲンブルグ地方にあるローゼンヴェークの花畑はまるで天空の庭だった。
小高い丘には辺り一面に緑が茂り、白いアネモネの花が小さく咲いていた。
風景画の様に美しい景色を只野と美波は眺めていた。
見渡す限り、人は誰もいない。
世界で二人ぼっちになった気分だ。
美波は5年経っても相変わらず小さな身体で、小ぶりな胸も変わらなかった。
だが23歳になり年相応の美しさを身に付け始めていた。
只野は35歳になっていた。外見はあまり変わっていないが、すぐ腰が痛くなったり酒に弱くなったりと内面では老いが始まる年になっていた。
「この世界にこんな綺麗な場所があるだなんて知らなかったよ。やっぱり来て良かったな」
「うん。おばあさんになって死ぬ時にこの景色を思い出しそう」
「ははは。今際の時にこんな光景思い出せたら最高だな。俺は死にかけた時過去の記憶がフラッシュバックしたけどさ」
「一人は一度死んで走馬灯を経験しているもんね」
「その一人って呼び方、中々慣れないな」
「仕方ないだろ。私の名字も只野になったんだから」
只野と美波の左手の薬指には指輪が輝いていた。
「さあて。俺のS級昇格祝いに『マッターホルン山麓ダンジョン』にでも潜行するか」
「血生臭い新婚旅行になりそうだな。しかしS級昇格に随分時間かかったね」
「ガチャ屋の仕事もあったし、事後処理もあって大変だったんだよ。まあ何より俺は凡人だ。どこにでもいるただの人なんだよ。S級に上がれただけでも奇跡みたいなものさ」
「でも、まあ夢が叶って良かったじゃん」
美波の肩まで伸びた髪を、爽やかな風が揺らした。
15歳の少女の顔は既に無く、ナチュラルなメイクを施した大人の顔がそこにあった。
「そうだな……。すべては君がいてくれたからだよ美波」
「うん。知ってる」
「それじゃ言わなくても俺の気持ちはすべて理解してるよな」
「ううん。分からない。言葉にして伝えて」
「愛してるよ。美波。一生俺と一緒に生きてくれ」
「私も愛してる。ずっと一緒にいてね一人」
只野と美波は口づけを交わした。
ローゼンヴェークの花畑には他に誰もいない。
この瞬間、世界は二人だけのものだった――。
全5層からなる小さなダンジョンに、中年の男がいた。
栄養価の偏った食事で腹が出て、肌は脂ぎり、髪はパサパサだった。
鉄球を溶接して作った自作のモーニングスターでゴブリンを狩るのが日課だ。
男はうだつの上がらない底辺探索士だった。
この商売を20年続けてきたが、自分の才能の無さは嫌というほど感じていた。
甲斐性もなくルックスも悪い。40過ぎのこの歳まで浮いた話など一度もなかった。
更に生活は悪化の一途を辿り、70歳を超えた母は介護が必要になり始めていた。
「はあ。ここらでもう潮時か。今まで頑張ってきたけど限界かな。母ちゃんの医療費も稼がないといけないし、転職するしかないか……」
男はハローワークに相談に行った際の、職員の見下した顔を思い出した。
腹が立ったが仕方ない。職歴もなく、探索士としての実績も残せなかった自分が悪いのだ。
深く溜め息をついた男の前に、一匹のスライムが現れた。
これまで何万回と見てきたそれとは異なり、虹色の様な玉虫色のような妖しい光を放っていた。
男は自身のやるせなさをぶつけるように、その生物を踏み潰した。
魔物は光を放って消失し大きな魔石と共に、キラキラと輝くプリズムのスキルカードが現れた。
そこに書かれていたのは……。
~END~
これにて本作は完結です!
ここまで長期の連載になるとは自分でも思っていませんでした。
根性無しの自分が全100話も書ききる事が出来たのはすべて読んで頂いた読者様のおかげです。
最後に、ブクマや評価をして下さった読者の皆様に多大なる感謝の気持ちを込めて、お別れの挨拶とさせて頂きます。
皆様に幸せが訪れる事を祈ってます。
それでは!