ペンペンの世界旅行
ペンペンは南極に暮らすペンギンです。
しかもまだパパやママのようなツルツルの白黒じゃなくて、ふわふわした灰色毛皮のあかちゃんペンギンなのですが、とっても負けず嫌いの男の子でした。
「ボク、もうあかちゃんじゃないよ! なんだってできるんだから!」
というのが口癖で、近所の少し大きなおにいちゃんやおねえちゃんのマネをしてはパパやママをハラハラさせていました。
そうして、今日もまた。
近所のおにいちゃんが、氷の山を登っていました。
氷の山をひゅんっと滑り降りて、ばしゃんと海に飛び込む遊びをしているのです。
「ボクもやりたい!」
「ムリだよ。ペンペンはまだちいさいあかちゃんだもの」
「ボク、もうあかちゃんじゃないもん! なんでもできるんだから!」
ペンペンはいつものように大きな声でそういうと、氷の山を登り始めました。
ツルツルの氷の山を登るのはしっかり足に力を入れておかないといけなくて、ペンペンが思っていたよりずっと大変でした。
でも、ムリだと言われたくないペンペンは、一生懸命氷の山を登りました。
「やめなよ。ペンペンにはムリだって!」
「できるもん!!」
ツルツルと足が滑って、こわくて、足が動かなくなってしまいました。でも。
「ほぉらムリだ。氷山すべり台はとっても勇気がいるんだ! そんな灰色毛皮のあかちゃんにはできないんだよ」
「ムリじゃないもん!」
ペンペンは強がりを言って氷の山を登りました。
お兄ちゃんも登れない、一番てっぺんまで登りました。
えっへん、と胸を張ったペンペンは、でもツルッと足を滑らせてしまいました。氷山すべり台を一気にツルツルッと滑り落ちていきます。
「うわあぁぁぁっ!?」
ぐねぐね曲がったスロープもツルツルと滑って降りて、雪のこぶだってつるんくるんと越えて、最後にぽぉーんと空中に放り出されました。
「うわぁああっ!」
ペンペンはぎゅうぅっと強く目をつむりました。
でも。
ひゅううぅぅんうん、とずいぶん長いこと飛んだけれどいつまでたっても海に落ちません。
ペンペンがそぉっと目を開けると、風と一緒にぎゅんぎゅん景色が流れていきました。
高い鉄塔が見えました。
キラキラ光る人間の街も。
「うわぁっ……!」
ペンペンは流れる景色を見逃さないように、首が痛くなるほどきょろきょろと見回しました。そのたびにぐるんぐるんと体が揺れて、ぐねぐねしたモグラの巣穴みたいにあっちに行ったり、こっちに行ったり。
どこまでも続く長い壁がありました。
険しい山と谷には霧がかかっていました。
五重になった塔。石で出来たお寺。ゾウに乗った人もいるし、ヘビに笛を聞かせる人もいました。
ずいぶんと飛び回ったペンペンは、少しずつ慣れてきました。
ちゃんとすべり台をすべる時のようにおしりを空気の斜面にしっかりつけて、それから行きたい方向に少し体を傾けたら上手に曲がることだってできました。
ラクダがゆっくり歩く砂漠。砂漠の中にある大きな大きなピラミッド。その隣にあるスフィンクス。
キリンやシマウマが草を食べているサバンナ。
暑い岩場で暮らすペンギンもいたし、凍っていない海もありました。
それから、それから……。
いろんな景色をたくさんたくさん見てペンペンがすっかり疲れてしまった頃。
少しずつですが、空気の上をツルツル滑る速さがゆっくりになってきて、勢いをつけて高さを戻すのも難しくなってきました。
「もう帰らなくっちゃ」
すぅいと南極に向きを変えたペンペンをキラキラ照らすのは金色の夕日。
そして夕日に照らされるペンペンはパパやママと同じ、ツルツルテカテカした白黒模様になっていました。
空をすべっている間に、ふわふわした灰色の毛が飛んでいってしまったのかもしれません。
冷たくなってきた空気をすぅっと大きく吸ったペンペンは、でも温かな気持ちでしっかりと胸を張り、心配でおろおろしているパパとママのもとへ帰って行きました。