3話 私とあなたは同じ境遇なのだから
決闘とは一対一で正々堂々と戦うことだ。俺は決闘といったシステムがあることに嬉しく思った。もちろん答えは。
「もちろんだ、決闘受けるぜ」
「わかりました、では行きましょう、皆さんも見たい人がいればついてきてください」
「ヒロ、私たちどうする?」
「見に行くしかないよな」
「だね、でも、この決闘、タクミくんの勝ち目ないような気がするんだけど......」
「そうだな、おそらく負けるけど、実際太刀野さんが言ってたことは一理あってるわけだし、今回やられて本人も気づくんじゃないかな?」
「だといいけど......」
列の一番後ろに三人で並ぶ、もちろんこんな騒ぎ周りの生徒が見逃すわけがない、有名人がいるかのような列になっていた。
「決闘のルールなんだが、どんな感じなんだ?」
「殴り合いでもいいし、殺し合いでもいい、お前はどっちがいい?」
俺は少し悩む、が結論は出ている。
「殺し合いだ」
少し躊躇っていたのを取られ、再び煽られる。
「あら、少し弱気が出ちゃいましたが、大丈夫ですか?」
「うるせえ、とりあえず早く決闘の場所まで連れて行け」
はいはいとドンドン進んでいく、玄関前を通り過ぎると、廊下の突き当たりに、その辺の扉と雰囲気が違う鉄格子のドアがある。
「ここか?」
「ええ、入りましょう、ちなみに決闘場は地下になっています」
扉を開ける前に一度振り返り、ギャラリーに観戦場所を伝えるように後ろに流してもらう。
「観戦場所はこの扉を通ると、二つまた扉があるので、木製の方に入ってください、このことを後ろに流してください!」
その間に矢千葉が鍵を開けて扉を開けて、先に進んでいた、俺もアホどもを置いていき、矢千葉の後を追う。
彼女の前を通ると、彼女は少し余裕そうに見えた。
中に入ると、フィールドを囲んでいる線にスタート位置が書かれている線が書かれている。そして真ん中には武器が置かれている。触ろうとすると、矢千葉に止められる。
「まだ触るな、集まってからだ」
ドンドン観客席に人が集まってきた、ヒロ達の姿も確認できると、鉄の扉がとうとう開いた。
「遅いぞ」
ゆっくりと彼女が歩いてくる、とても余裕な面持ちだ。
武器が置かれてるところに近づき、左の武器を手にする。
「おい、待てって矢千葉が」
「あなた、他人の武器を使おうとしたんですか?」
「は?」
「よく見てください、名前が彫られているでしょ?」
よく見ると、名前が彫られていた。
”莉奈 風“と。
片方は相手の私物だっため矢千葉は待ったをかけたそうだ。
「じゃあ俺はこれか」
余った右の武器を手にする、よく見ても何も書かれていないようだ。
「これ何も書かれていないぞ?」
「そりゃそうだ、借り物なんだから、まあ、それでもあんま大差ないなら頑張れ、アホタクミ」
そう言って矢千葉はジャッジ席に入り、スタートの合図のタイミングを見計らう。
その間、彼女は素振りをしていた。
俺はもう一度剣を見る、ようよう考えると、剣なんて触ったことも振ったこともない、こんなんで戦えるのか、と。
その様子を興味深く見つめながら剣を振っている。
(やっぱり、私の言った通り、ここで思い知らせてあげないと、手遅れになると思ったのが正解だったわね)
二人の準備が確認でき次第、スタートの合図を送ると矢千葉から言われ、スタートの位置が書かれているところに立ち、合図を待つ。
(よし、行くしかないな)
矢千葉に分かるように合図を送り、彼女の準備を待つ。
彼女も準備ができたのか、ゆっくりとスタート地点の位置に着くと、剣先をこちらに向けて、また忠告をする。
「これが最後の確認だけど、本当にやるのね?」
俺は即答だった。
「ああ、もちろんだとも」
「ならよかった、では始めましょう」
彼女も矢千葉に合図を送り、あとはスタートの合図を待つ。
矢千葉のマイクが入り、そろそろスタートだ。
「ヒロ、本当にやらせてもいいの? 死んじゃうよ?」
「その心配はないよ、流石に寸止めだよ」
「だといいけどね」
「よし、始めるぞー、3」
カウントダウンが始まる。胸の鼓動が速くなる。俺緊張してんのか?
「あい、2」
負けたら俺どうなんの?
「1」
いや考えるな勝つことだけを考えろ!
「スタート!」
その瞬間ギャラリーはすごい盛り上がりを見せ、後押しされるように俺は、彼女に剣を向け、殺しに行く。
「寸止めすれば、ビビるはずだ! 先手必勝!」
向かってくるのにビクとも動かない、彼女は剣を素早く一振りする、もちろん何もないところでだ。
「何してんだよ! 当たらねえぞ! 貰った!」
すると彼女は呆れた様子で、背後を見せながら、別れの一言を言う。その時の彼女の表情は少し笑っていた気がする。
「一つ助言してあげる、攻撃が単調でづよ? まあ、私の言った通り、あなたは闇を抱えている、残念だけどね」
その瞬間、俺の前に突風が突き刺さる、最初は足で踏ん張ったが、下から突き上げられるような突風で吹き飛ばされてしまう。
一瞬の出来事で何が起きているのかわからない。わかることは、俺は切られてもいないのに宙に浮いていることだ。
「匠!」
「タクミくん!」
「アホタクミ! あのまま落ちたら死んじゃうよ?」
「だけど俺らには何もできない、無事を祈ることしかできないんだ」
「そ、そんな」
ギャラリーのボルテージは絶好調に達している、すごい盛り上がりだ。
俺はそのまま急降下していく。
あ、終わったな俺の人生終わったなと始めて思った。
(嘘だろ、魔術師を一人も殺せず、こんなしょうもない争いで死ぬなんて、いやだ、嫌だ!)
もう願うことしかできない、俺はその時とても惨めだった。
あんな威勢良く喧嘩を売りにいき、決闘したが秒殺、なんて様だ、自分が嫌になった、いっそ死んだ方がマシなんじゃないかとも考えた。
だけど、あの時の出来事が頭から消えない限り、俺は死ねないと思った、絶対に魔術師を殺し、恨みを果たす、死ぬのはそれからだ。
色々なことが脳裏で浮かび考えていると、急降下していたはずが、とてもゆっくりになっていた。
「え?」
すると彼女は分かったでしょ? と言った顔でこちらを見ていた。
そのままゆっくり地面につき、立ち上がると、彼女が近づいてくるや指を指しながら話し始める。
「これでわかったでしょ、あなたは弱いのよ、こんな騒ぎを起こし、決闘し結果は秒殺、ただの恥晒し」
俺は頷くことしかできなかった、だってそれが正論だったから。
「もちろんあなたの気持ちもわかる、私とあなたは“同じ境遇”なんだから」
その一言で俺は少し救われた気がした。
すると彼女は俺の前に手を差し出し、提案を話す。
「あなたは、私と共闘する。そして魔術師を殺す、分かった?」
俺は少し気が楽になった、落ち着いて聞くと、教室で言っていたことがよくわかる。
俺は迷わず、彼女の手を強く握り返した。
「ああ、だけどもう一つ、俺はお前を守る、絶対に死なせない」
彼女は一瞬寂しそうな顔をしたがすぐに切り替え笑顔になり、少し小馬鹿にした口調で返した。
「あなたにそれができると? ま、いいわ、あなたの決意たしかに受け取ったわ、これからよろしくね、タクミ君」
「ああ、こちらこそ頼んだ、太刀野」
その様子を上で見ていた三人は胸に手を置き大きく深呼吸する。周りの生徒も席を立ち大きな拍手を二人に送っていた。
「ふう、綺麗に収まってよかった」
「ね、心配しなくて良かったみたいね」
「ね!」
「まあ、彼女は一人で抱え込みがちな匠を少しでも楽にしたかったため、少し乱暴だが、こういうシチュエーションで行ったわけか、少しやられたな」
彼女は何か閃いたのか、手を叩き、嬉しそうに言う。
「でも、結果は私の勝ちね!」
「は? いやあれはねえわ! なんなんだよあの突風は?」
「さあね?」
「教えろよ!」
「また今度ね!」
その様子をジャッジ席から見ていた矢千葉、観客席にいた三人と合流し、もちろん矢千葉からの厳重注意を受け、教室に戻ることになった。