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闘技者の心。

・闘技者の心。


<4> 第二試合


 扉が乱暴に開かれ、お呼びが掛かった。この控室で第一試合の中盤からスタンバイしていたが、それ程待たされた感覚は無い。思ったより、早く第一試合が終わったな、と、それが実感である。


― 緊張しているのか?


ここに来て確かに色々な事を考えた。だが、それらはどうでも良い過去の事ばかりだ。それらを少し、思い出しただけの事。あのツヴァイリヒトが相手なのだから、緊張と云うより神経質になっているのだろう。


「で、第一試合は誰が勝った? 」

 

気分をリセットしようと、呼びに来たゴブリンに聞いてみる。そいつは聞こえているんだか、いないんだかわからない態度でニタタ、と笑った。ヘンにニタついた奴で気に障ったが、この程度の奴は学園に大層いた。そんな奴らにムキになるだけ無駄な事であるし、それなりの効果はまあ、有った。


「なあ。アンタ、知らないのか? 」


 顔を上げ、再度俺は尋ねた。コイツ、笑ゴブリン・Hに限った事では無いが、ゴブリン連中の口はやたらとデカい。


「キヒヒヒ、M・J・クラリスが勝ったぜ。キャハハハハ」


「クラリスか。で、奴が勝って、そんなに嬉しいのか? 」


 コイツが感情を表現する為に笑っている訳で無い事は知っていたが、他に言葉が無い。


「まあ、どちらかと云えばな」


「何でだ?」


「キヒヒヒ、そんな事、お前にゃ、関係ないぜ。キャハハハハハ」


 腹立つ笑い声を響かせ、ゴブリンは去った。付いて来いって事だろうが、耳元で馬鹿笑いをされるのは御免だ。それに、付いていく必要は無いだろう。数分後の開始時間までにコロシアムに行けば問題は無い筈だ。


― M・J・クラリスの勝ちか。やはり、エンジュは負けたな。


 エンジュ・バルボッサとはバニー先輩を通じて知り合った。打ち解けた関係では無いが、俺と妙に共通する点があり、多少、互いに意識していたと思う。


― エンジュは凶暴でこそあるが、実力がイマイチ。呼べる精霊も弱小クラスで弱い。まあ当然の結果だろう。


 椅子に立て掛けておいた悪離馬を掴み、俺は立ち上がった。置かれている鏡に映った俺はいつもの燕尾服もどきの制服姿ではない。アビアス学園指定の制服には程遠い白学生服姿だった。

この白学ランはバニー先輩が用意してくれた。何故、白色なのだと訊ねた俺に、先輩の答えは『白い覚悟』の一言。その際は納得してしまったが、今、考えてみればこれ程不謹慎なコトは無い。決戦の場に白は縁起が悪い筈。ひょっとして、『死んで来い』って意味なのかもしれない。


― 洒落だろうな。


だが、裏表の激しい先輩の事だから真意の可能性も大いにある。なんにせよ、シニカルな冗談だと考える事にしたが、バニー・ピンクパンサー先輩の曖昧さを目の当たりにしている俺には、やはり笑える冗談ではなかった。


「キヒヒヒ。棄権か? もう時間が無いぜ。キャハハハハ」


 乱暴なドアの音に顔をしかめる。喧しい音の正体は馬鹿笑いゴブリンだった。何度見ても、ニタついた顔、デカい口には嫌悪の感が噴き出す。


「今行く。案内は要らん」


 ゴブリンを押しのけ、俺は控室を出た。そのまま歓声がする方角へ向かって歩き出す。蛍光灯で照らされた廊下を進む俺に、案の定、ゴブリンが無駄な口を利いた。


「キヒヒヒ。相手はオオカミ娘だぜ。ヒトのお前じゃ、手に余る相手じゃねーか。キャハハハ」


「ついて来るな」


「キヒヒヒ。気が立ってんな。無力な人間様じゃ仕方ねぇか、キャハハハハ」


 この手の輩はどいつもこいつも似たような事を言う。自分の範疇でしか相手を見る事が出来ない低レベルの頭にウンザリだった。


「キヒヒヒ。試合が始まっちまったら、死んだふりでもするんだな。狼ってヤツは死肉を喰わねえとよ。キャハハハハ」


「そうかい」


「キヒヒヒ。喰われたとしても、対戦相手は結構な別嬪さんだ。最後の相手だと思って、楽しみな。キャハハハハ」


 いい加減、俺は何も答えず、俺はコロシアムの中へと進んだ。角型20メートル四方ほどのコロシアムの中央に、レフリー、キング・バフォメットが仁王立ちしていた。四方八方からスポットライトを浴び、自らが中心と信じた満足そうな笑顔が俺を迎える。


「ウェールカム! 和十・二階堂。さあ、此処に来て、僕と握手! で、あちらが対戦相手のデル・ツヴァイリヒト・ボロックス選手だ。彼女に挨拶を」


「了解」


 俺は照明の明るさに目を眩ませながらもコロシアムの上へ上がった。周囲からの歓声がとても攻撃的で下品に思えた。キャハハハ煩かった笑ゴブリンと同じで、俺に好意的な声援では無い事に間違いは無い。

 コロシアムに上がり、身体の正面をレフリーに向ける。レフリーを挟んで反対側には対戦相手であるツヴァイリヒト佇んでいた。

俺は彼女に軽い会釈をした。

彼女は肩を竦めた。

それが返答なのだろう。俺はそんな対戦者から目を離した。中央部へ進み、レフリーの手を握った。


― レフリー、キング・バフォメット。随分、煤けているな。


キング・バフォメットの髪は爆発し、チリチリに縮れている。着ている制服は所々が焦げて、ボロボロだった。しかも、全身から燻された臭いが立ち込めていて、鼻を突く。


― 先程の試合の名残か。余程、激戦だったらしいな。


 想像するに第一試合の余波を直接受けたのだろう。学園最強の称号を有するキング・バフォメットの荒んだ姿を見ると、エンジュとクラリスの戦いが予想外に激戦だった事を認めない訳にはいかない。


― やはりこの“舞台”は甘くないとの事か。


 視界の端で、ニマ、とツヴァイリヒトが笑ったように思えた。俺は鞘を握る拳に力を込める。俺と悪離馬は幾度も修羅場を越えてきた。人間、獣人、特殊能力者。彼らを相手に辛勝を繰り返した。そして、それらはこの闘いの前哨戦だったと云っても良い。


― デル・ツヴァイリヒト・ボロックス、か。


 銀髪碧眼人の美少女。容姿、佇まい。全てが文句なく美しい。


― 止む無し。


 俺は思った。家柄、親、性別、容姿、能力、ヒトかケモノか、生まれて来る人種。俺達にそれらを選ぶことは不可能なのだから。


「さあ時間だ。始めようか」


 レフリー、キング・バフォメットが溌剌とした声をだす。


「ファイトゥオ! イッパァーツゥ! 」


俺は、すう、と息を吸った。そして、肺が空になるまで吐き続ける。完全にとはいかないが、モヤモヤは消えた。これで無心で、とはいかないが、少しはマシに試合に臨む事が出来るだろう。

キング・バフォメットがコビた動作でマイクを取り出し、片手を広げながら観客席を一巡しはじめる。くるり、くるり、と学園キングに相応しい優雅な動きで自身も回った。


「テステステス……。 レディース、アーンド、ジャントルメンズゥ」


 直にゴングが鳴るだろう。そして、俺とツヴァイリヒトの戦いが始まる。熱を放つ照明とそれ以上に熱くなった観客たちがコロシアムを取り囲み、餓えた視線で俺達を見つめている。だが、俺はうつむく事をしない。


― 存分に見ておけ。


いずれ血肉に魅了された連中への粛清を行う運命を背負った俺だ。このコロシアムに、粛清される輩は少なくは無い筈。敵はツヴァイリヒトだけではないのだ。


「二階堂君は随分、不人気ね」


 離れた場所からツヴァイリヒトが声をかけてきた。静かで落ち着いた声だった。


「何故、言い切れる? 」


「聞こえないもの。聞こえるのは『殺せ、喰っちまえ』など誹謗中傷ばっかりね。あなたへの声援は皆無よ」


「そうだろうぜ」


それが現実だ。奴らは俺がこの場で肉片になる事を望んでいるのだ。だが、下卑た奴らの期待に応える気は更々無い。二階堂家の面子が俺には掛かっているのだから。


「第二試合は和十・二階堂選手とデル・ツヴァイリヒト・ボロックス選手の対戦です。二階堂選手は凄腕の剣術使い。対するデル・ツヴァイリヒト選手は狼系獣人です。この試合も第一試合同様の何でもアリアリのデスマッチ。さあ、時間だ。ゴングを鳴らしてくれーぃ!」


 ゴングが鳴った。呆気ない開始だな、と、俺は悪離馬を抜いた。鞘から放たれた裸身の刃から冷たい空気が漂い始める。悪離馬は二階堂家に伝わる一振りだ。刃功であった二階堂家は一族の証として一振りの刀を継ぐ。鞘を投げ捨て、俺は正眼に構えながらツヴァイリヒトの瞳を見つめた。その瞳の青がゆっくりと俺に近づいて来る。


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