頑張れ! 女の子。
・頑張れ! 女の子。
「待っていたぜ! 糞野郎。ひょろガリ勉眼鏡鼻ピアス遅刻馬鹿『ピー』娘」
耳を引き付けるチャーミングボイス! エンジュ・バルボッサは声も可愛い! 一転、内容は悲惨だ! 解説不可能。『ピー』音で誤魔化すのは残念だ、残念だぞ、バルボッサ。だが、観客の視線は舞台に注目する。おや? おやおやおやおや! なんてこったーい! 黒髪を翻し、エンジュ・バルボッサに対戦者が背を向ける。やっとの到着、待ちわびたんだぞ、M・J・クラリス! 早くコロシアムに上がれよ。テメェ、何処を見てやがる? 一体何をしたいのだ?
「待ちくたびれたじゃねーか! 早く舞台に上がれよ」
遅い! 本当に遅すぎる登場だ! 何やかんやで開始時間までギリギリだ。これ以上は待てないぞ、早く、上がれ。早く、上がってしまえ! あと、3、2、1……。
「はい、タイムリミットです。こりゃあ、エンジュの不戦勝かな。まあ仕方ないか」
おっとー! ここで大クラリスコールだ! コロシアムを揺るがす大声援。これではなにっも聞こえない、何も聞こえないぞ、苦無彩影。え? なんか言った? 全然聞こえなーいよぉ。聞こえるのは若者達の魂の叫びだけだァ! 心待ちにしていた試合が開始されようとしています。解説のバニーさん。どうです? この大声援は!
「心待ちなんて、甘いです。渇望していた証拠です。この世界に美少女バトルを見たくないヒトなんていますか? 」
居ない、いる筈が無いでしょう! 世界は美少女バトルで回っているのですから! 山手線を一とする痛電車もぐるぐると回っています。私はそれにしか乗りません。来るまでずっと待ちます。
「美少女のチカラね」
はい。あの魔力には抗えません。おっとー! エンジュ・バルボッサがレフリーを足蹴にする! 何たる凶行だ! 血迷ったのか? バルボッサ!
「バフォメットを起こしているのよね、恐らく」
なんと! そうだったのか! ナイスな解説だぁ、やるときはヤル女教師、苦無彩影。スルーしてご免なさい。それにしても、エンジュ・バルボッサは荒々しい。そして、猛々しすぎるぞ、何かしら勘違いをしていないか? バルボッサ! 君が足蹴にしているのはレフリーだぞ! ああ、やりすぎ、やりすぎだぞ! エンジュ・バルボッサ! 君の美少女パワーに打たれ、それでは永遠に眠ってしまう! それともまさか、キング・バフォメットは既に死んでしまったのではないか? それではあまりに不憫だ。だが、なによりも、無責任だぞ! レフリー、キング・バフォメット。とっとと目覚めて働けィ! 舞台を、試合を見届けてくれい!
「心配ないわよ、大丈夫。ほら、起き上がった」
「流石、M男」
起き上がったぁ! 責任の重圧を一身に背負い、レフリー、キング・バフォメットが両足をマットに突き刺した。膝を起こし、ゆっくりと、だが力強く立ち上がる。これで大丈夫だ、これで平気だ。伝統の舞台、下剋上の試合、それら全てを託せる男がいま蘇ったぁ!
「あー。テステステステス、テステステステス。只今マイクのテスト中」
なのにコイツは痛すぎる! マイクテストはもう十分だぁ! やっぱり馬鹿なのか? 馬鹿は死ななきゃ治らないのか? とにかく馬鹿メット。早く進めてくれい。観客全員もう、我慢の限界だぁ! 苦無彩影がオトナシイうちに始めてしまえ! ああ、やば。興奮しすぎて鼻血が出ちゃった。
「えー。皆様、大変お待たせいたしました。只今より、エンジュ・バルボッサ対M・J・クラリスの試合を開始したいと思います。御存じの通り、アビアス学園武闘大会、通称“舞台”には規則は一つだけです」
キターーーーーー!! やっと来たぁ! だが、いきなりの困惑、寝耳に水のおどろきだぁ! 苦無先生、舞台はルール無用だった筈では?
「ええ。規則の変更は無い筈です。ですがそれ以前に、この試合は無効試合の……。 」
何を言う気だ? バフォメット。 学園側からの刺客、苦無彩影も知らない情報を握っているのかぁ!
「舞台、それはルール無用のデスマッチです。だが、それでは良くない。無いより有る方が断然よろしい。ミナサン、そう思いませんかぁ」
思わねーよ。何を言いだすんだ、この馬鹿メット!
「そうでしょう、そうでしょう。そして、唯一の規則はナンデモアリです」
そう来たかァ! ソレは誰でも知っているぞ。知ってるが故、当然の故、誰もが予想できなかっただろう! そうさ、予想できた者が誰もいない。こんなところで逆説の定義を言い出すなんて! そんな事はクダラナイ現国の時間にでもやってくれ! ツマラナイ、ツマラナすぎるぞ、バフォメット・正蔵!
「滅茶滅茶、ムカつく。マジ、舞台が終わったら、覚悟しろよ。この赤ゴブリン」
私は白ゴブリンです。
「けーっ、ぺ」
げ、下品な女教師だぁ! 学園側に報告せねば! リジチョー、リジチョー! ガクエンチョー!
「音声さん。規制音は無理ですか?」
タイムリーに機転を利かすミス・バニー。電波の宝刀、規制音を求める。だがしかし、これはもろ刃の剣! 痛み分けの放送事故の回避策だぁ! そんなモノで教師の脅迫と本性を隠してはならない! イケないんだよぉそんな握り方じゃぁ。ミス、ピンクパンサァー!
「OK? 良かった。じゃあ、今後はお願いします。アナタ、良いヒトね」
美女の誘惑、仲間の裏切りは身近な出来事。世知辛いなぁ。だが、今はメゲナイぞ。そんな事に構っていられない。何故って? それは舞台開始のゴングが只今鳴らされたからだァ!
「ファイト! 」
さあ、いつの間にかM・J・クラリスがコロシアム内に居る。三つ編みの黒髪を垂らし、正規な制服姿だ。真に純粋、清楚と云った形容が相応しいスレンダーな容姿にはエンジュ・バルボッサとは異なる魅力があるぞ。マニア好みの田舎風純朴眼鏡娘と云った感じだ。だがその瞳の奥からは鋭い光を放っている。見つめられたら思わず身を縮めてしまう程、威圧感が半端ではない。おうっと! 紅く血を思わせるチャームが鼻先で光った! 苦無先生。中々の好カードになりそうですね。
「はい。真面目と不真面目。武闘と召喚。のっぽとチビ。全く対照的な二人の対戦です。生徒達には非常に参考になる試合だと思いますよ」
成程。舞台も授業の一環という訳ですね。
「その通り。初めて意見が一致したわ」
そうですね、残念です。
「ん? 」
さて、両者、にらみ合ったまま動かない。エンジュ・バルボッサは舞台中央、M・J・クラリスは舞台端に位置している。まずは様子見と云った処。ところで、苦無先生。優勝候補とまで云われるクラリス嬢はどのような学生なのでしょうか? ご機嫌気分でコメントをお願いします。
「え? ええ。前述の通り、彼女は素晴らしい才能を持っています。肉体的、精神的に。しかも、勤勉でもあり、ますます伸び盛りです。現時点でも学園の中ではトップ10に入るでしょうね」
こ、これはすさまじい逸材だつったァ! あんな眼鏡娘がそれ程の実力者だったとは! しかし、渦中の少女はそんな事を露とも知らず、垂らした三つ編みを払い除けるだけだ。ああ、絵になるなァ。最強眼鏡少女の戦いぶりを我々は今、これから目撃するのだァ!
「だからそれは少し待てと言っているだろ………。 」
おうっと! 動きがあったぞ! 先に動いたのはクラリスだ。純標準的な制服を纏い、鼻先のピアスを赤く光らせ、クラリス嬢はゆっくりと対戦者に近づいていく! 待ち構える対戦者は準備万端! さあこい、かかってこい! 俺様を楽しませてくれと、赤い彗星を待ち構える白い戦士がそこに居る。白い肌、黄金の髪、可愛い顔を歪ませ、M・J・クラリスを睨み付ける目は鋭い! 気合十分、身構える、最凶少女! するり、と右手が動いた、先制攻撃はバルボッサか! いや違う。なんだ、どうした? 何が気に入らない? エンジュ・バルボッサ! うん? 違うぞ、何かがヘンだ! おうっと、ここでレフリーが二人を止める!
「えー、只今、学園側から指摘がありました。M・J・クラリスに授業への遅れの釈明を求めるとの事です。御存じの通り、舞台は授業の一環であり………。 」
ナンダナンダナンダ! 真剣勝負に水を差す、茶化す、横槍を突き刺す、とはこの事だァ! こんな事は許されないぞ! ゴングは既に鳴らされたのだァ!
「失礼、割り込みます。たった今、学園側からのコメントが届きました。読みます『遅刻の理由を明確にする事。不可抗力と判断された場合、試合の継続を認可する』とあります」
丁寧な発音、歯切れのよい口調、ナンテ好感の持てるしゃべりだ! 巧いぞ、ミス・パーフェクトボディ、バニー・ピンクパンサー。身体のココから聞きほれて、固まってしまう。そう思ったでしょう? 解説の苦無彩影先生はイ、カ、ガ?
「ハイハイ、そう思います。で、学園代表としてもう一言付け加えると、今のままではクラリスさんの負けは決定ですよ。私としてもとても残念な事ですが」
あーっと! それはひどい! 酷い! ナンテこったぃ、ナンテ日だァ! 救いを! 私を救ってほしい、聖女、現れてください!
「無効試合の件は先程から言っています。馬鹿話ばかりでなくて、ヒトの話を聞けヨ、この実況! あ、コノヤロ、バニーを口説くのは後にしなさい! ちょっと、聞いてる? あー、もー。藤村君、コイツを降板させてもらえない? 降板させろ! 」
あーっと! それはひどい! 酷い! ナンテこったい、ナンテ日だァ! と、藤村が震えている、お腹も激しく震えているぞ! おっと、カンペが描かれた! なになに、続行します、スミマセン。よっしゃー! 権力に100%は屈しないのがマスコミだァ! アビアス学園放送研究部の魂、シカと受け取ったぁ! さあ、皆様。此処でクラリス嬢のコメントをお聞きください。
「おはようございます。M・J・クラリスです。本日は遅くなって申し訳ありません」
皆が見守るコロシアムの上に二人の闘士が佇んでいる。何とか、この二人を戦わせてあげたい。燃え尽きるまで、灰になるまでの完全燃焼を見守りたい。観客全員の想いはただ一つだ。だが、その前に、その前に釈明が必要だという。ああ、クラリス嬢。あなたは過ちを犯してしまった。しかし、それは罪では無い。生きる事は過ちの連続だ。そして、釈明は新たな一歩だ。新境地への一歩を踏み出せるか、そこに貴女だけの勇気が試される。我々はこの釈明会見を見つめる事しか出来ない。手を合わせ、固唾を呑み見つめる事しか出来ないのだぁ!
「でも、コレって、会見、じゃないですよね」
「言葉はどうでも良いんじゃない。あ。エンジュがまた煙草を吸っている。イメージ、悪いわね。これでは放送できないじゃない」
「いや、むしろスポンサーが付くと思いますよ。煙草メーカーの。まあ、でも放送は深夜枠かネット限定でしょうけれどね」
「むしろ丁度、良いわ」
この解説者二人は何を言っている? 舞台は学園の崇高な授業だぞ! 生徒を見世物にする学園などロクな学園では無い! アビアスの闇をまたまた見つけてしまった。内部告発は悪か、正義か? その判断は君達がする事だぁ! マスコミ、報道に携わる私達は隠された真実を白日の下に曝す、そのことだけに熱い一念を捧げているのだ! と、私の熱弁など誰も聴いてはいない。なぜって、その間にもクラリス嬢の釈明が続いているから!
「今朝、私はいつもより2時間早く起きました。シャワーの後、軽い朝食を済ませ、部屋を出たのがその30分後です。学園までの道程は徒歩で10分ほどでしたが、余裕を持たせて部屋を出ました。
初めは順調でした。が、予期せぬ事態は起こります。私はその後、道端にしゃがみこんだ少女に出会いました。
少女は泣いています。
私は周囲を伺いました。場所は丁度、ダウンタウン。様々な都市伝説が生まれた場所です。
ふと、視線を感じて目を向けると、大きなひとつ目がこちらを覗いていました。その黄色い、イヤラシイ眼の正体はトロールでした。廃屋の中から見つめています。隠れているつもりなのでしょうが、ぬめりとした光沢を放つ大きな身体は廃屋に収まりきらずにはみだしています。
私は少女に訊ねました。
『あの物陰に居るのはお父さんですか? 』
少女は首を振ります。
『じゃあ、お母さん?』
同様に首を振りました。
私は次いで『兄さん? 姉さん? 爺? 婆? 』と、その他の親族であるかを訊ねました。いずれも返事は“NO”でした」
ダウンタウン? トロール? 何を言っている? M・J・クラリス! これは嘘か誠か創作かぁ! 苦無先生、クラリス嬢の真意は何ですかね?
「言葉通りよ。あのコ、今朝はダウンタウンまで行って来たのね」
ダウンタウンまで行ってきたァ? それじゃあ、遅刻も当然だぁ! いったい何を考えているんだ! クラリス嬢は!
「方向音痴なだけ。一生懸命、学園を目指した筈よね」
成程ォ! ところで嬢は何処にお住まいでしょう?
「学生寮よね、確か」
「はい。女子寮に住んでいますヨ」
なんとぉ! 学生寮からの10分足らずの距離をこれ程の時間をかけて進撃した例は未だ無いぞ! 驚きだぁ! そしてこの間もクラリス嬢の釈明が続いている!
「しゃがみこんだ少女が顔を上げました。涙が溢れ、顔はぐっしょりと濡れています。『私、一人なの』震えた声でした。私は言いました。『お家まで送っていきます。道は分かりますか? 』『分からないの』どうやら少女は迷子の様です。しかも、自分が何故此処に居るのか、どうして此処に居るのか分からない様子です。
そのとき、激しい物音がしました。隠れていたトロールが廃屋を破った音でした。
『怖い』
少女は叫びました。
『大丈夫、後ろに居てください』
私は少女を背後に立たせ、トロールと向かいました。野良トロールは獲物を狩ろうと決めたようです。勿論、獲物というのは私と少女の事です。トロールは棍棒を振り回し、私たちに迫ってきます。
私は一歩も動かず、トロールの動きを見つめました。
『怖い』
少女が叫び、私の背中にしがみつきます。
『大丈夫です』
私が少女に言葉を掛けた瞬間、咆哮と唸る風切り音を響かせトロールの棍棒が私たちに迫りました。
『フンガァ!』
私は一声と共にその棍棒を粉砕しました。へし折ったと言った方が正解かもしれません。これは破片が少女に当たらないように危惧しての選択です。ぶらん、と中程から折れた棍棒をトロールは不思議そうに見つめていました。私の左拳に壊された事が理解できない様でした。
トロールはへし折られた棍棒を投げ捨て、私たちを捕まえようとしました。薄汚れた手と汚い爪が迫ります。私達とトロールは既に臭い息がかかるほどの近距離でした。少女の小刻みな震えを背中で感じ、私は右拳で左手を、左拳で右手を払い除け、トロールを正面に見据えました。
大きな黄色の目には血管が浮き上がり、興奮して口泡を吐いています。
あまりの汚らしさと悍ましさに素手で触るのは抵抗がありましたが、已む得ません。ただ、一度だけと決めて私は右の拳を眉間に叩き込みました。『おとがい』と悩んだのですが、そちらは汚れが酷かったので止めました。喰いカスと思われる変色した物資がオゾマシイ程にこびり付いていたのです。
眉間に打ち込んだ拳に手応えを感じた瞬間、トロールの後頭部が弾けました。頑丈な骨に受けた衝撃が発散されず、勢い余って頭蓋骨そのものが飛び出てしまったようです。その為、残った頭部の皮だけになりチラガーみたいにぺらぺらになってしまいました。
『これで、オシマイよ』
私は少女に言いました。それでも、少女の震えは止みません。掴んだ手を放すことは無く、背中から離れることもありませんでした。私は少女に訊ねました。
『私と来ますか? 放課後、改めて貴女のお家を探してあげます』
背後に少女の頷く感触を感じました。初めての“YES”です。
『決定。では、道を探しましょう。じつは私も迷子なのですよ』
私たちは顔を見合わせ笑いました。涙は乾いていませんでしたが、少女は笑顔を見せてくれました。そのあどけない笑顔に、私は尋ねます。
『あなたの名前は? 私はクラリスと云います』
少女は答えてくれました。
『わたしはイーサーです』
『イーサー? それはファーストネームですか? それとも、ミドルネーム? 』
今考えれば変な事を訊ねたと思います。
『わかんない』
と答えたイーサーは当然でしょう。それから、私たちはアビアス学園目指して歩き始めたのです」
終わったのか? これで終わりなのか? やっと終わったのか! レフリー、キング・バフォメットに確認を要請したいところです。あーっと、そして今まさに、レフリーがM・J・クラリスに近づきつつあります。両肩を上げ下げし、両腕を広げつつ流れるようなウオーキングを披露している。オイオイ、お前は“ザ・ビッグプロレスリング”のSUNNYかTERRYか。1980年代、小学生の人気を独占したタッグチーム! APPで復活してくれぃ!
「レフリー! その少女はどうしたのか、聞いてください」
おっとぉー。ここで解説者の叫びが実況の訴えを遮ったぁ。だが、それは当然至極な展開だぞ。クラリス嬢の釈明がフィクションか、ノンフィクションか、その少女の存在で決まるのだから。こんな嫌疑も已む得ない、潔白を証明してくれ、クラリス嬢! と、ここでキング・バフォメットも動き出す! チェキナウ!
「あー、テステステステス。只今マイクのテスト中」
その前振りはもう十分だ! 与作さんでも飽き飽きだぜよ。
「えー。M・J・クラリス。その少女の存在を証明できますか? 」
レフリーの言葉が終わる前に、一人の少女が舞台上のクラリス嬢に駆け寄っていく。水色の髪が揺れているぞ。薄手のワンピースを身に纏った少女がクラリスに抱き着いたぁ。このカワイ子ちゃんがその、イーサーちゃんなのか? イーサーちゃんだと言ってくれぇ!
「皆さん。この子がお話ししたイーサーです」
やっぱりそうかァ! こっちを向いてくれぇ。 水色の髪にあどけない顔、緑色のぱっちりお目目が可愛いすぎるぞ。誰だってこんな少女を置き去りに出来る筈が無い! 絶対に無い!
「じゃあ、イーサー。少しだけ待っていて下さい。すぐに終わらせて家まで送りますから」
プリティ少女イーサーは素直に従う。純粋無垢な少女の出現に和やかムードに変わった舞台会場。さあ、どうする苦無彩影。
「イーサー? ダウンタウンで保護? 」
どうした? 何を考えている苦無彩影!
「うっせーな。一寸、そこの君! このメモを学園長に渡してきて! 早く、ホラ、走れヨ! 」
おっとー! パシリにされたのは特等席の観客だ。エドワード・ルイス・Jrだ。ザマミロヘタレ野郎。
「教師として弱いモノ苛めは感心しません。以後、注意ね」
全く、同感です。本日、二度目の同意見となってしまいました。が、パシリにしたのはお前じゃんかよ。
「………。 とにかく、良いでしょう。今回の遅れは正当な理由有りと判断し、M・J・クラリスの舞台参加を許可します」
キタ――― ! 割れんばかりの歓声だァ! さあ、舞台の新たな歴史が始まるぞ。闘士たる美少女戦士はここからどのような修羅場を見せてくれるのか! 満面のキメ顔でレフリー、キング・バフォメットがコロシアム中央へ進む。両手を高らかに上げ、まるでモーゼかクリストだぁ! 無秩序のコロシアムに審判を下すのは貴方しかいない! さあ、頼んだぞ! プリンス・オブ・デビル、マッド・アンド・クレイジー、キング・バフォメット!
「カモン! グラディエーター 」
試合再開だぁ! 再び華々しくゴングも鳴ったぁ。もう誰も、何も君達を止める事は出来ない。止める事は許されない! さあ、思う存分その力を見せつけてくれい! 戦え! 戦うんだ、美少女戦士たち!