錯乱。
・錯乱。
「バニーも女子だったか。兎系美女の撹乱が見られてうれしいわ」
そうですね、ババアの錯乱は見苦しいですからね。
「白ゴブ。お前、殺すぞ! 」
……… うっさい。
「ああっ!
イタイ! クナイで刺さないで! 調子に乗ってごめんなさいでした。
「足りないわ。自身の存在を謝れ」
生まれてきて、スミマセン。生きていて、スミマセン。
「ったく、お前が人並みに恋愛なんて生意気だ。無駄なのよ」
はい。非常にすみませんでした。この辺りで仕事に戻ってもよろしいですか? はい、ありがとうございます……… 。えー、事情によりこれからは苦無彩影先生と私、白ゴブリン・Tの二人で実況をしていきます。
「ふん」
さてさて、ある精神医学者が言いました。『思春期には精神混迷が生じやすい』じゃあ、いったい思春期はいつまで続くのか、何歳までを思春期と云うのか、明確な答えはありません。
「ほどほどに良い話だと思うけれど、仕事をしたら? 」
だよねぇ。売れ残りのクール忍者、苦無彩影先生。決勝戦の見どころは何処だと、ナニだとお考えでしょうか?
「答えたく無い」
仕事、放棄ですか?
「アンタのその手にある割引シールはナニ? どういうつもり? 」
イエね、先生に貼ろうと思いまして。売れ残ると困るので。不憫だし。
「ほっとけ! そんな事よりもさっきのイタイ魚人が言った『ぶっこんだ』とか『ふっとんだ』とか、ナニ? 」
『飛ばした』です。先生
「そうかい。で、何の事だい? 白々ゴブリン・T君」
あっとー! この展開は何度目だ? 懲りないめげない飽きない胸無い、シナイ教師、苦無彩影。ワンパターンだぞ!
「ハイハイ、そうそう、アンタの云う通り。だから、ナニ? 言いなさい! 賭博の元締めは誰? 白状しろ! オイ、コラ。そのシールを手放せよ、捨てろ! 」
お! なにやら観客席で動きがあったようです。急遽、現場からの中継に変わります。レポーターの涙ゴブリン・Wさん。涙さん! 巧い事、よろしくお願いしますね。
「ハイ。こちら涙ゴブリン・Wです。悲願の涙、失恋の涙、残り物の涙。全て確かに受け取りました。白ゴブさんの御期待に添うレポートをお送りしたいと思います。
さて、引き続き観客席からの中継ですが、次は何方にしましょうかね。海千山千ばかりで如何にも胡散臭い奴らばかりです。こいつ等本当に学生なのか、今更になって疑問を持ちます。お、そんな中で、二本足歩行な方を見つけました。声を掛けてみたいと思います。スミマセーン、アーユーハングリー? 」
「あ? 湯? 半繰り? ナニ、コのヒト。キモー、チョベリバ」
随分強引な方とお見受けしました。この強引さと自信を棚上げする図々しさは流石、原人“ヒバゴン”です。サルに近い容姿、頭脳、感覚、神経に涙を流し同情します。地平アイこさんの爪の垢を飲む事をお勧めいたします。
「マジ、ウザいんですけどぉ。アタシ、ウリもしていないしィ」
直ちにこの場から、メンゴメンゴ、ナイデモナン、と去りたい気持ちを涙で抑え、インタビューを継続します。
スミマセーン、貴女は生肉ばかり食べていますか? 蒲鉾って知っています? アボガド食べれますか? ガスの使用法を知ってますか? アビアス学園に入学できたのはマグレ、偶然ですか? ものすごく体毛が濃い事を恥ずかしく思いませんか?
「ナンダ、かまちょか。バイブス読めよな、アタシの彼、激おこプンプン丸だから、おくちょしろよ。あ、でも、メアド分かんねーか、ケッサク。とりま、アイテルンば」
理解不能な言語です。困った時のシリ頼み。もしもし、シリ? このヒバゴン何言っているか、教えてちょうだい。…… マイシリに翻訳を求めましたが、不可能でした。
シリちゃんたら、謝ってばかりです。そんな涙の回答がとても不憫です。シリも知り得ない言語だとしたら、私には当然無理だ。あー、涙。
無理だ、無理だ、腕立て無理だ。以上、微力な涙ゴブリン・Wが観客席からお送りしました。再度、スタジオへお返しします。
私、此の度の無力の涙は忘れません。白ゴブリン・Tさん、応援しています。
「………。 ゴブリンズはオヨヨで、トホホな連中よね」
“ヒバゴン”は予想以上の強敵でした。いやネ、生放送ではこんなハプニングもあります。アビアス学園放送研究会は面白いナァ。ゴブリンズは最高!
「で、カケの元締めは誰? 」
おおっつ。追っ付、現場の涙ゴブリン・Wさんと中継が繋げます。今回はいい画が撮れる予感がします。涙さん、涙ゴブリン・Wさん。観客席の状況を教えてください
「ッ、レシーブ! トス! 只今、私は卓球のリレーをしています。一瞬の弛みすら許さない緊迫した現場にいます。わずかな隙が涙の致命傷だ! 意気込み新たに、命懸けの試合をお届けします。ハイッ、涙目スマッシュ! 」
涙さん。勘違いしてバレーボールをいますよ、初っ端からのミス。笑っちゃうな、涙さんらしいです。でも個性的なレポートでベリー、グッド。
「藤村君、実況とレポーターのミスキャストを認めなさい。今後、ゴブリンはダメ。絶対ダメ」
苦無先生。そう云ゃあ、ウチのカミさんが言っていたんですが、高圧的な態度をとる奴には、弱みがあるってね、アナタ、どう思います?
「知らねえよ! 」
ジツはネ。おっと、失敬。キューが出た。バババン、と涙さん、よろしくぅ。
「ホイホイホホホイ。キレの良いダンスで登場しました涙ゴブリン・Wです。ハーフタイムも残り少なくなってきました。あと、数分で決勝戦が開始されます。その為、観客席からのレポートはこれで最後になると思います。残念な涙。
えー、どなたが宜しいですかね。最後に相応しい方が良いのですが。おいや、素敵な姐さんがいらっしゃいます。鋭い視線、真っ赤な口紅、渦巻く羊角からほとばしるエナジーが只者で無い。甘ーいプアゾンとピリリとした静電気を身に纏った危険人物。死のの予感だ、恐怖の涙が流れます。それでは声を掛けてみましょう。
スミマセーン、今まで何人斬りました? 」
「まだ3桁、手前ですわね」
「素頓狂なクエスチョンにも、冷静な女性です。狼狽すべき18禁をいともたやすくクリア。空振りの涙。此方の女性はかなりの実力者だとお見受けいたします。テリャー! ところで、只今、アビアス学園最大のイベント“舞台”が行われているのをご存知ですか?」
「勿論」
「そうですよね、此処は観客席ですから。私、涙の失態です。第一試合、第二試合とご覧になって、いかがでしたか? 」
「普通。でも、あの程度の連中にしては上出来ですわ」
「涙の辛口! 美人には良くあるあるぅ。これは締めに相応しいインタビューとなりそうです。つまり、涙を見せる程に良い試合だったと? 」
「そこまでは思いませんわね」
「死闘とは程遠い二試合でしたから、まあ納得。でも、感動の涙もあった筈」
「貴方、馬鹿ですか? あんなの感動は皆無ですわ。“舞台”なんて茶番ですわね」
「おー。なんだかとっても、辛辣なコメントです。解説者変更の予感がキター! さらばおばはん。瞼に浮かぶ後姿に嬉し涙が一滴」
「なーんか、鼻に付く生徒ね。ちょっと、カメラ! その娘を映して、顔! それと名前を聞いて、名前! 」
「放送席から切迫したカナキリの叫びが届きました。が、無視します。永年保管用、感涙モノのインタビューを続けさせて戴きます」
「オイ! 涙ゴブ、お前も補講すんぞ! 教師の命令には従えよ! 」
「今度はヒステリックなお叱りが届きました。イヤホンが壊れそうです。狂師の職権乱用は怖いですよね、ゴブリンの目にうるうるの涙」
「あら? 職権乱用って、結構じゃない」
「『ケッコウジャナイ』とは? あいまいな表現なので、真意を分かりかねます。ズバリ、姐さん。それって、“OK”OR“NO”さあ、どっち? 涙の選択です」
「OKですわよ、OK」
「衝撃の涙。与えられた権限を悪用し、私利私欲をみたす悪徳教師を肯定する、と判断してよろしいのですか」
「よろしいですわ」
涙ゴブリンさん! スクープの予感がします。画を送ってください!
「了解しました。喋りん、この恐怖神を捉えてください。どうですか? 白ゴブさん」
もっと寄せたほうが良いなあ。 もっと、ぐぐっと涙腺が映るぐらいに寄せてください。カメラは喋らんゴブリン・K君か? 喋りん、アップにして! もっとドアップで! よし、OKです。あれ? この女性徒は確か? 涙ゴブリンさん、名前を聞いてもらえますか?
「了解しました。それでは爆弾魔さん、貴女は誰ですか? グスン 」
「サタナキア・ウエストランドですわ」
サタナキア・ウエストランド? えー、とー、思い出しました。あの方です。第一試合にピリオドを打った落雷の女性です。
「にっこりも悪魔級です。涙も凍る冷たい微笑に涙は震えます。でも―― 」
「サタナキア! アンタ、そこで何やっているのよ? 」
うわー! やってもうたぁ。苦無先生、インタビュー中に割り込まないでください。中継の中断はご法度ですよ。倫理委員会に問うまでもなく、有罪だ、こりゃ。
「嘘つけ! 勝手に決めんな! 」
えー、只今、放送席の筒抜け放送をお聞きいただいております。こちら、貴方の青春パートナー、ゴブリンズです。
「完全にキレた。ゴブリンズを墓石のパートナーにしてやる! まずはお前だ! 」
痛い! 尖った方で刺さないで! 痛い! 反対側も嫌だぁ。止めてケレ~ 。
「放送席は修羅場です。身体を張っている白ゴブリン・Tさんのド根性に皆様のご支援を涙ながらにお願いします。
ところでサタナミダさん。解説の苦無先生とはどのようなご関係ですか? 」
「女教師と女生徒。ただ、それだけの関係ですわね」
女教師と女生徒。吐露出来ぬ、ソレだけの関係。興奮のテリャー! 痛い!
「巧い事言いますわね。その通りですわ」
テリャー! 爆弾魔。テリャー! R18破壊神。万々歳!
「サタナキア! いい加減な事を言うな! 百合バラご法度、ヤオイもご免。アタシは完全ノーマルだ」
だからさ、苦無先生。高圧的な態度の背景には、何かしらの弱みがあるって、うちのカミさんがね、言っていたんだよなぁ。
「黙っていろ! へっぽこゴブリン・T」
「涙と類。只今放送中。こちらダイヤル41739(ヨイナミダ)アビアス学園放送です」
「レポーターの方も面白いですわ」
「全然、つまらん! 」
「苦無先生。全て聞こえていますわよ。筒抜けですわ」
「サタナキア! アンタ、そこで何しているの! 」
「試合を見ていますわ」
「信じるかよ、そんな言葉! 何か、企んでいるのでしょう? 白状しろ! 」
『生徒を信じないと公言した教師の存在は有罪か? 』藤Pさん、次の企画はこれでどうだい?
「させるか! 」
「苦無先生。偏見は罪ですわよ。偏見のある教育者は社会不幸の元凶ですわ。そう思いません?」
「要らぬお節介の方が、よっぽど社会的な悪だぞ」
「お節介? ああ、第一試合の件ですね。ですが、あの件を悪と言われるのは心外ですわ」
「無関係な第三者が選手の本気を踏みにじったのよ」
本気なのか? 苦無彩影! キミに熱血教師の仮面は火傷するぞ。それに、舞台には第三者の介入を禁止する規則は無いぞ!
「それではあのまま桃色行為を継続させた方が良かったと? 」
「んー」
私はそうして欲しかった。ああ、不完全燃焼。
「白ゴブさん。その気持ち、とても分かります。涙を流すほどに分かります」
「聞きまして? 観客の本音を」
「こんな奴らを代表にするな」
「でも、一つの真実ですわ。バフォメットに対しての批判はイーサーちゃんからしかありませんでしたのよ。他は全て桃色行為を望んでいた」
「むむっつ」
「規則が無い、自由精神の尊重などは只の責任逃れの方便ですわ。指導力、管理能力の欠落した先生方がお望みの“無秩序の中の秩序”を私が創って差し上げますわ」
「それはどうも。でもね、」
「トークバトルが続きそうなので、一旦、放送席に戻します。高揚感に涙する涙ゴブリン・Wからの中継でした。白ゴブさん、後はよろしくお願いします」
涙ゴブリンさん。了解しました。さて、いよいよ、決勝戦の時間となりました。今回の“舞台”優勝者は誰だ? お楽しみの口喧嘩はその後で。