観客席から。
・観客席から。
<5> 第二試合 終了後 決勝戦 開始前
いやー、第二試合が終了しました。ここで決勝戦までの間、ハーフタイムとなります。いやはや、なかなか見所のある試合でした。誰も彼も観客も、皆さん異存の無い試合結果だと思います。解説者の苦無彩影先生はいかがでしたか?
「デル・ツヴァイリヒト・ボロックス選手に拍手」
やけにアッサリですね、解説をお願いします。
「ズバリ美少女は得ね」
ふーっむ。その通りですね。先生もボチボチですよ。あ、怖い顔した。そうだ、見逃した間抜けも居るようですので、もっと詳しくお願いします
「…… 。剣技は二階堂和十選手が格段に上です。ツヴァイリヒト選手に人狼のスピードが有っても、彼には適わなかった筈です」
つまり二階堂選手の方が強かったと?
「そう言ったでしょ」
つれない奴だな。では何故、二階堂選手は敗れたのでしょうか?
「だから、それはツヴァイリヒト選手の利点が活かされたのですよ」
もっと、分かりやすくお願いできますか?
「容姿に見とれさせ、惚れさせ、妄想させる。これが女子力です。これが二階堂選手には無かった」
彼、男子ですから当然かと思いますが。
「そう、だから負けたのです」
なるほど。結果は反則負けですが、なにか、こう、好感が持てる清々しい負けっぷりでしたね。
「同感ね」
残念ですが、おっしゃる通りだと思います。
「漢だからこそ、見逃せなかったのね」
私はめっちゃ興奮しましたが。
「アンタみたいな屑モンスター男ならば、仕方なし。期待していないわよ」
ありがとうございます。
「ラストの抜刀の場において、彼は躊躇なく抜いたわ。あの動きと速さならば、バフォメットも避けられないわ」
そう思います。全く、見事なまでの切られっぷりでした。
「女の敵よ。ざまあみろ」
しかし、決着にレフリーが絡む試合が続きますね。第一試合はレフリー共々ノックアウト。第二試合はレフリーに対する攻撃で反則負け。でも、ルール無用の舞台で反則負けって、ヘンな話ですね。
「バフォメットがレフリー権限で急遽、作ったの」
流石のキング・バフォメット。真に地獄の悪役裁判官ですね。舞台って本当に、ルール無用なのですね。
「主旨が大いにズレタわ」
さて、オチツイタたところでバニー・ピンクパンサーさんにお伺いしたいと思います。バニーさん、あれ、何処へ行っちゃったんだろう?
「白バカ君。あそこに藤村カンペが出てる『切り替え』だとさ」
ナニ! ああ、本当だ。しゃーない奴やナァ、了解。えー、さて、二試合が終わり、決勝戦を残すのみとなりました。ここで観客席の様子を伺いたいと思います。えー、レポーターの涙ゴブリン・Wさん。涙さん。観客席はどんな状況ですか?
「はい。こちらレポーターの涙ゴブリン・Wです。体当たりのレポートで、皆さんに美味しいフードをご紹介したいと思います。スタジオの白ゴブリン・Tさん。苦無先生、バニーさん。アビアス学園涙目グルメをお伝えしますので、お楽しみに」
チガーゥ、涙さん。間違っていまーすよ、今回は食レポでは有りません。もしもし? 聞こえていますか?
「はい。お聞きください、この大歓声! 『喰わせろ、喰わせろ! 』の叫びに埋め尽くされた観客席です。生きていればお腹がすきます。腹が減ったら、何かを食べる。どうせ食べるなら、美味い物を食べたい。そんな胃袋モンスターたちを唸らせるような逸品を紹介していきます。お楽しみに。白ゴブリン・Tさん、涙ながらに一旦、スタジオへ戻します」
届いていませんね…… 。さてと、えー、お二方はグルメ番組をお嫌いですか? って、バニー・ピンクパンサーは戻っていないぞぅ。
「別にいいじゃない」
あの『授業の一環として』は嘘か。二枚舌な教師だな。
「…… 藤村君。ゴブリンズにはこう云った文化的な仕事はハナから無理だったのよ。これじゃあ、奴等のNG集よ、これからは絶対――― ダメ」
「スミマセン! 入り割りマス! 手元の資料が間違っていました。申し訳ありません。だから僕は全然悪く無いのです。ミスしたのはADです。僕は無実です。それに、支給されたイヤホンの具合が最悪。ちゃんとしてよ、もう。それから、ライトが眩しすぎて、何にも見えない、考えられない。それから、それから、えーん、ゆるして。虚偽の涙」
話の腰を折るタイミングが最高です。涙さん!
「ありがとうございます。涙を抑え、中継を再開します。第一試合、第二試合を終え、アビアス学園武闘会“舞台”も最高潮の盛り上がりです。残すは決勝戦のみ。決勝戦はM・J・クラリス対デル・ツヴァイリヒト・ボロックスの感涙の好カードとなりました。共に半端な試合を勝ち進んだ運の強者です。そんな決勝戦に臨む二人の登場を観客は涙をながしながら待ち続けています」
ゴブリンズ最高、ひゃっほう! さて、非常に珍しい戦いを行った二人ですが、涙さん。お客さんたちはどちらの選手の方が、利率が良いとお考えでしょうか?
「利率? 」
えー、どちらが優勢なのか、聞いてもらえませんか? 涙ゴブリン・Wさん!
「なーんか、胡麻化したな」
なんのことですか?
「あいつもグルか? ほら、あそこで藤村が慌てているぞ! 」
さてさて、涙さん、涙ゴブリン・Wさん! ここでお客さんにインタビューをお願いします。
「了解しました。誤魔化す時間の許す限り様々な涙声をお届けしたいと思います。えーっと、ではこちらの方にお話をお伺いしたいと思います。全身が銀ピカ鱗に覆われた水中人さんです。ステンレス半魚人とも云われている方ですね。とっ捕まえて解剖すれば、進化の過程が解明できるかもしれませんね。スミマセェーン、チョット、イイデスカ? 」
「おう、なんでぃ」
「進化のミステリーを解明したいと思っています。申し訳ありませんが、解剖させてください」
「ああ? ナニ? ナンダって? 」
「ヒトの進化説に水棲進化説があります。科学の進歩の為、捨て駒になってください。 キミ! チョットイッテクレナイカ? 」
涙さん! インタビューの方向がずれていますよ。脱線はほどほどにして、食卓に上がる気は無いか聞いてください。煮た方が良いか、焼いた方が良いか、まさか、ナマは無理でしょう。
「脱線どころか全く別ルートじゃない。やっぱりゴブリンはダメね」
涙さん! その魚野郎は決勝戦をどのように考えているのか、訊ねてください。
「あ、はい。こちら涙です。了解しました。ツマラナイ仕事に戻ります、こんな事やってもツマラネエナァ、涙。えー改めてお聞きします。鱗まみれさん、今回の舞台では誰が優勝するとお考えですか? 」
「お? なんで俺の名前を知ってんだ? 」
「安直な名前ですね。御両親、手抜きです」
「なんだって? 鰓が耳の後ろにあるから、聞きにくくてな、ちゃんと喋れ」
「糞魚が! そいつは好都合でした。良く聞け、このダボハゼ野郎。えー、決勝戦をどのようにお考えですか? 優勝者の予想を聞いてやるよ」
「そうだね、俺はエンジュ・バルボッサが優勝すると踏んでいたが、外れたねえ。不戦勝にしておけばよかったのに、なぁ。あのヤン娘、カッコつけやがって」
「エンジュ・バルボッサは不戦勝での勝利を蹴ってまで試合に臨んだのでしたね。漢気のある女戦士にに感激の涙。そして、生臭いお前には嫌悪の涙」
「何が、漢気だ。阿保ぬかしやがれ! 俺が幾ら飛ばしたと思ってんだよ! 漢気で飯が食えるかよ! 」
「ご飯は口で食べるものですが、鱗まみれさんは違うのですか? 主食は蚯蚓ですか? 想像だけで食欲低下。ああ、涙のナポリタン。罰ゲームだ、こりゃ」
「だから、ごにょごににょ言うな。聞きにくいんだって」
「はい。蚯蚓さんに、申し訳ありません。エンジュ・バルボッサの敗退は残念でしたね。悔やむ涙は出ないがな」
「おう」
「決勝戦はどのようにお考えですか? 渇き切った、スッテンテンの毛無身体で、考える脳ミソも干からびたか? 」
「あー? ああ、実は狼女にもぶっこんであるから」
「懲りないめげない聞こえない救われない魚人に涙が出ます。すると、四無いまみれさんの本命はデル・ツヴァイリヒト・ボロックス選手ですね。貴方、額にハエが止まっていますよ、隣には鼻くそ付けちゃおう。ダメダ、こりゃ」
「分かった、分かった。叩くなよ。とにかく彼女には、頑張ってほしいねえ」
「その死んだ目の中にある非純粋さが下等の証。邪な考えはいつも涙に変われ」
「あ? 」
「鱗まみれさん、貴重なお時間を無駄にしていただきありがとうございました。決勝戦は好カードです。手に汗握って応援してください。汗は心の涙です。全てを出し尽くし、干物になれ、消えろ! 」
「おう、じゃあな」
「さて、以上、“涙の痛手へカウントダウン”の時間でした。一旦、スタジオへ戻します。白ゴブリン・Tさん、よろしくお願いします」
はい。綺麗にまとめてくれましたね。涙ゴブリン・Wさん、ありがとうございました。
「いまのさ、中継に気になるフレーズが幾つかあったんだけれど、さ? 」
あっとー。丁度、バニー・ピンクパンサーさんがお戻りです。糞ババアの話は此処で終わりだあ。さて、セクシー・バニーさん。何処行っていたの?
「ええ、まあ、ちょっと」
誤魔化すなんて、トイレだな。
「違います」
まあいいや。ところで、ナイスなレポートによる観客の声をお聞きになりましたか?
「あれが? まあ、いいわ。はい。エンジュが期待されていたことを知り、非常にうれしいです。ですが、結果、負けてしまったので、姉貴分としては申し訳ない気持ちでもあります」
そうですね。不戦勝を蹴っての対戦で負けてしまった訳ですから。お客さんの中にもやはり、惜しむ気持ちも大いにあるのでしょう。
「当然だと思います」
なるほど。次に決勝はデル・ツヴァイリヒト・ボロックスが優勢だとの見方が有りましたが、この件に関してのお考えは?
「M・J・クラリスのタフネスとパワー。デル・ツヴァイリヒト・ボロックスのスピードと剣舞。どちらも桁外れです。私にはちょっと予測がつきません」
第二試合はスピード感のある勝負でした。卓越した剣術を有する二人のラストは見応えがありましたねえ。あれ程の抜刀術はなかなか見る事が出来ません。惜しくもデル・ツヴァイリヒト・ボロックス選手に敗れた二階堂・和十選手について一言お願いします。
「彼は最高です! 」
言い切りますね。ジェラシー感じちゃう。バニーさんは二階堂選手の実力を見抜いていたのですか?
「はい。私、彼の事をとてもよく知っていて、これからも、もっと沢山彼の事、知りたいと思っています」
ハア、そうですか。
「もう、彼の事で頭が一杯です。肩を落とした姿を見て、心臓が破裂しそうでした。抑えきれなくて飛び出したほどです」
な、なんと! では、今まで姿が無かったのは、まさか?
「はい。彼の元へ行っていました」
えー、彼とどのような関係で、どのように発展し、どのくらい継続するか、将来の展望および、破綻の可能性など、かなり詳しくお聞きしたいのですが?
「彼は後輩ですよ。漢らしいし恰好が良いのでツバを付けておきました。サムライ系が良いカンジでとても好き。大好き。白の学生服も似合うかな、と思って用意しました」
数寄? なるほど、彼はとても風流だと思います。
「ちがう。私、彼が好きなの」
云わないで、それ以上は言わないでください。
「怪我をしたんじゃないかって、彼がとても心配になりました。『心、此処にあらず』状態です。あー、やっぱり、こんな事、している場合じゃ無い! 」
これ以上はダメ、言わないでください。規制音! 何してんの?
「じゃ、後はよろしくです」
ああーっつ。バニーさん!