PARADOX.6 じつはこういうはなしでした
PARADOX.6 じつはこういうはなしでした
何でも出来るように見えたって、何でも知ってるように見えたって、あたしは所詮ただの人間で。
求めてた、あたし自身を満たすことを。でもそれは決して与えられるものなんかじゃない事は分かってて。与えられたものじゃダメなんだとは分かってて。足掻いて、もがいて、やっと手にしたと思っても間違って。それを繰り返して来た結果、あたしの求めるものはあたしの生きる世界には無いものだと気付いた。
いや、違うな。事象としてあることは分かってた、けど今の世界じゃ絶対に作れないものだって事が分かったんだ。
だからこそ、願った。夢見た。望んだ。それが叶う世界を。子供のように、大人のように、物語のように、現実のように。
そう、私の望むものは、創り物の中でこそ見付かるものだったのだ。
誰かが創って、暁未来が組み上げて、世界が書き換えを受け入れたこの世界。有り得ない事を有り得させた、あたしの願いを満たすのにおあつらえ向きに与えられてしまったこの世界。
あたしは、与えられてはいけないものを、与えられてしまった。
……でも、もうそれでもよかった。ううん、そうするしかないと分かった。
意地も、見栄も、恥も、プライドも、この感情に比べたら守る価値も無いものだ。捨てたっていいものだ。
いや、あたしの求めるものを手にするためには、その全てを捨てなきゃいけないくらいだったんだ。あたしは所詮、その程度の器の持ち主だったから。
だから私は演じた、万能で他者に無関心な自分を。
だから私は励んだ、耐え抜くための自分を作る作業を。
だから私は創った、創られた世界を下敷きにした舞台を。
そうやって自分を装って、要らない物を切り捨てて、欲しくなるものを遠ざけて、傍にいたいものにも憎ませて。
そうしてようやく、手が届く。そのためなら神にも魔王にも嫌われ者にもなってやる。自分も、世界も、何もかもを犠牲にしてやっと叶うあたしのちっぽけな願い。
……でも、それが何かは決して口にしない。
だって、間違えられてしまうから。本当に望んだ形では伝わらないものだから。そうして、夢は決して叶わなくなってしまうから。
故にあたしは胸に秘めよう。痛みも、苦しみも、渇望も、願いさえも。これはあたしの、あたしだけのわがままだから。そのための犠牲は全てあたしが引き受けよう。これまでだってそうして自己中に生きて来たように……。
……あー、何だろう。これちゃんと伝わってるのかなぁ?
管理人って事でそれっぽい文書残そうと思って雰囲気重視で作ってみたんだけど、自分で言った通りあたしの思ってる事がちゃんと伝わってる気がしないぜ。
そもそも不特定多数の人間が読むものだからな。無駄に叙情的な事書いて肝心な事伝わらなかったら意味無いんだから、もうストレートにぶっちゃけよう。これも難しい事だけどな、現代人にとって。
平たく言えば、まずこれは実験なんだよね。前に聞いた暁未来の人類育成計画?にあたしも共感しない所は無かったもんで、それをあたしが加速させて勝手に引き継いでみたってとこ。地球上に魔物を闊歩させてみたのもその一環ってわけさね。勿論ただ引き継ぐ訳も無く、ご当人にも色々動いてもらってるんだけど。これでまず暁未来の未来側の希望に沿わせてみました。
んで、異界を分割して地球側に持ってきたのは、まあ想像つくでしょ。異界は世界中の誰もが行けるから日本の上空だけにあっても意味が無いんだよね、……本当はその方が楽だったんだけど。だからそれぞれの地域の特徴に合わせた主要大陸にそれぞれ飛ばしてみたってこと。リアリティもあるしね。勿論これまで通り異界の間では行き来出来るように大陸間はトランスポーターで繋いで。こうすることでひとまず風見留今の現在側の希望に沿わせてみました。……そういや、あいつとシャンネプちゃんどこ行ったんだろ?
ただ、あたしが異界渡航の仕組みを割と自由化しちゃったもんだから、その管理・運営が必要になっちゃったんだよね。そりゃあ大体の事はジャッジ・システムがしてくれるんだけど、チュートリアル的な事はしてくれないからそこら辺をね。で、それを担当させたのが、12年前の改定で被害を被った方々。半強制的ではあるけどその仕事を担当してもらったのです。これをどう言いくるめるかに多少気を揉んだんだけどね、腐ったり落ちぶれてた人が大半だったから割と乗り気みたいだったよ?報酬もそれなりにしてあるしさ。
もう分かると思うけど、これが蒼衣昨夜の過去側に対する措置。さすがに文明を戻すことは世間的に出来ないしあたしもしたくは無いから、別の物を宛がうことで解決を試みたって寸法ね。やっぱり過去にこだわり続けるのはあたしとしては無駄にしか思えないし、過去に戻る事だけが救いとも思えなかったしさ。勿論昨夜自身にもこの仕事を割り振ったよ、家族と一緒に励んでもらいたいもんさ。
……ああ、あたし?
あたしはこれで結構楽しんでんだ。世界の仕組みを書き換えるなんてレアな体験も出来たし、仕組みを作る作業も楽しかった。まあ自分が世界にとっての敵になるっていうのもこれから味わうわけで、けどそれはそれでハードな体験になりそうでワクワクじゃないか。
何と言うか、あたしが管理人でいる間は本当に単純にやりたいことをするつもりだし、せっかくだからみんなも生きたいように生きて欲しいって、ただそれだけなんだよな。そのための受け皿もこうして作ったわけで。
あたしは、世界中の人間が自由に生きたらどうなるか、誰がどう生きたがっているのかを知りたい。その結果を見届けたい。見せつけて知らせてやりたいんだ。その結果世界がどうなってしまうかというところまで。
あたしは引き続き異界でのサバイバルライフをエンジョイさせてもらい、この実験の結果待ち。これが楽しそうでなくて何だって話よ。どんだけ時間がかかろうが、少なくとも異界でなら退屈しそうにないし。
それに、時間がかかろうがかかるまいが、そこは実はそんなに問題じゃない。
何故ならこの世界は、造り物だから。
変な意味は無いよ、文字通り。これはあたしが創った、あたしの世界。世界観。だからこそ何でも出来る。さすがに仕組みの説明は省くし、する意味も必要も無いよな。人間にとっては、目の前にあるものこそが全てなんだから。
さて。ここから先の展開がどうなるのか、あたしは知らない事にしておく。その方が楽しそうだし、全部を話しちゃったら想像する楽しみも無くなっちゃうだろ?
まあ、目下の懸念事項はあたしの愛すべき妹、実影の事かな。他人に興味の無いあたしだけど、さすがに妹の事はちょっと考えなくもない。
……もしかしたら、これは全部実影のためにしている事なのかもしれないな(笑)。
あたしが、わざわざ昨夜の姿を借りてまで最後に送ったあのメール。あれであの子がどうするか。自分で考えて、どんな道を選択するのか。最初に見える結果はそこだろう。
けどそれはまた別の話。あたしが語る物語じゃないわけだがね。
これにてあたしの、あたし達の物語は閉幕だ。
あたしは独り、この身でこの世界観を楽しむとしよう。
あたしの、あたしによる、あたしのための。対等な友達を作りたいというささやかなあたしの願いを叶えるための。でもついでにどこかの誰かを幸せにするという。
そんな自己中な世界観を。