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サム・グラウンド  作者: 虎徹
6/6

賭けと売春の街!ペルドラマ!其の三

店じまいの時刻になるや否や、客はゾロゾロと波が引くように帰り出す。

労働の休息を求める電球はチカチカと点滅し、床に残る酒とガラスが混ざった水溜りが眩しく反射。

薄暗く、それでいて寂しげな雰囲気の帳を降ろす。



「さあ、このデルシュタイン酒場に新たな

仲間のご加入だ!!」

店主の大きく明るい声が、寂しげな雰囲気を裂く。ソフィアは2人のことを意味ありげに見つめるばかりで、

店長の拍手の音だけが薄暗い店内に響きわたる。

虚しさにいたたまれず、紹介を受けた二人も拍手に参加するという間抜けな結果で終わった。


「ちょっと、いい? ルーク」


リリアはルークの首へ手をかけると一気に

引き寄せ、声が出ない範囲で思いっきり耳打ちをした。


「(なあにしてんのよ!!

いきなり酒場の店員なんかうまくいくわけないわ!!)」


「(仕方ないじゃねえか。財布の中身見たか?

18ペアーだぜ。18。

宿も取れないんじゃ話になんねえだろ。」


「(っつ・・部屋貸してくれるかなんてわかんないじゃない!!)」


「(もう話つけといた。

二人暮しのクセに意外と広いんだよ、

この酒場。)」


「(・・・あのね、ルーク。

さっきの店主の行動みたでしょ?

父さんを見つける前にきっと殺されちゃうわ!)」


「(いや、あれ麻酔銃らし・・)」


「さっきからなに話してんだ?」



店主が訝しげに聞くと二人は間髪入れずにビシッと向き直る。

訝しがりながらも店主はゴホゴホと咳払いをして続けた。


「酒場なら何かと情報も手に入りやすいしな。親父探しにも役立つはずだ。」


「でも、ご迷惑だわ!!

私たちはどこかで野宿でも・・!!」



リリアが切羽詰まって聞くと、店主は微笑んで、首をゆっくりと振る。


「二人で寂しい思いしてたんだ。

・・それに、モタモタしてるといろんなもん失っちまう。」



それを聞くと、リリアも口を噤んで押し黙った。



「質問、いい?」


どこからか聴こえてきた可愛らしい声に、ルークが辺りを見渡す。

上を見上げると、

ピンク色の可愛らしい木の棒が、フヨフヨと空中を浮遊していた。


「うわあ!!なんだコレ!?」


「これってなによ!!物みタイに!!」


ピンクの木の棒は声を荒げて、その細長い体をブルブルと震わせる。

そしてずいっとルーク達の前に体を寄せた。


「メルクっていいます。ソフィアの相棒。

あなたタチは?」


「あ、アルファードみたいなやつだな。

ルーク。こっちは相棒・・。

っていうか仲間のリリア。」


「ルークタチはしばらくこの家で暮らすんでしょ?」


「ま、まあ。

目的を果たすまでは。」


それを聞くとメルクは体を小刻みに震わせる。そしてはしゃぎながら、


「じゃあ、ソフィアと友達になってあげてよ!!」


「メルク、よせ・・・。

私の事はいい。」


「おう!!それはいいなあ!」


店長も便乗してルークとリリアの前に体を乗り出す。そして二人の手を掴りしめて


「二人を見たときに思ってたんだよ!!

頼む。友達になってあげてくれ!!

悪い子じゃないんだ。ちょっと目つき悪くて言い方きつい奴だけど、優しくって器量がある自慢の娘なんだ。10年前だってな・」


ガラスが割れる音が部屋にけたたましく響いた。全員が驚いて目向ける。ソフィアの足元にコップの破片がバラバラと散らばっていた。


「うるせえな!!」


ソフィアがコップを叩きつけながらさけぶ。

耳に刺さる、空気が割れるような音が響き渡り、冷えつくような静寂。

ソフィアの荒い息遣いのみが短く、低く残っていた。


「・・・なんなの?

なんなんだよお前・・・!」


ソフィアが店長を鋭い視線で睨みつける。

店長は慌てて、気をとりなすように語りかけた。


「ああ、ごめん・・・その・・

ソフィアと友達になってくれる・・かなって

・・年も同じみたいだし・・。」


「大迷惑。余計なこと。

いらないお世話。

そういうとこがムカつくんだよ。」


「そう、だよな・・ごめん。

パパが悪かった・・。

もう、余計なことはしない・・。

・・・だけど。」


「・・・家族に関わる。

大事なことなんだ。」


「・・・家族・・・?」


ソフィアの顔が更に険しく変わる。

店長は目を伏せながら、


「・・・この子の家族に関わることだから、

この子達が泊まる事は許してほしい。

とても大切なことだから。」


次の瞬間、ソフィアの顔が真っ赤に変わり、

耳に刺さる割れんばかりの声で吠える。


「お前が!!

そんなセリフ吐くなッ!!!」


店主は俯き、目を伏せる。

そして声を絞り出しながら


「・・・ごめんな。悪かった。」


「・・・こい、メルク。」


ソフィアが呼ぶとメルクはオロオロとした様子で相棒の元へ戻ってゆく。

ソフィアはドアまでズカズカ歩くと、ルーク達の方へくるりと向き直り


「お前らにまで怒鳴っちまったな。

・・・悪い。」


そうしてドアを開けて、階段を軋ませた。

柱に備え付けてある時計が、音を立てて深夜2時を伝える。

その音も消えると、店主はガラスの散乱した床を掃除し始めた。


「はは・・怒らせちまったな。」


「すみません。俺たちがここに来たばかりに・・・。」


ルークがそういうと店主はゆっくりと首をふり、

答えた。


「いつも、オレ達はこんな感じなんだ。

何か、キッカケが欲しかったんだけどな・・」


「ルーク。さっき教えた部屋に入って、

もうねとけ。明日は早くでるんだろ?」



「・・・リリア、先に行ってろ。」



さっきまでの騒ぎが嘘のように静かになった部屋をリリアは店長の寂しげな背中を見送りながら出ていった。







ルークは階段をギシギシ軋ませながら、2階へと上がり、教えられた部屋の前に立つ。

ドアに手をかけようとした時、ふと、ドアの上側に備え付けてあるネームプレートに目をやった。

部屋の名前を指すものだろうか?

何気なく、書いてある文字を読もうとしたが、既にその文字は鋭利の刃物のようなものでガリガリに引っ掻いてあり、

判読は不可能だった。

ドアをぶち抜くように、何かを恨むように

傷は深く、広く抉り出されていた。


少し気になったが、仲間を一人にさせている事を思い出し、ルークは急いでドアを開けた。

部屋は電気が付いているにもかかわらず、夕暮れのように薄暗かった。上を向くとキレかけた電球がチカチカと会釈のように点滅し、その表紙に天井からパラパラ塵が落ちてくる。6畳ほどの部屋の中心には、少し大きめのダブルベットのみ。

不自然な物の配置だが、ルークはそれには目もくれなかった。


「・・・ひでえな。」

ルークはなんとか歩ける場所を作り出す。

床に散らばる木片のゴミを蹴り払いながら、

ベットに丸まっているリリアの横にすわりこんだ。


濃い茶色の床に転がっているのは、無残に破壊された物の残骸だった。

バキバキにへし折られた、最早原型なども分からない木の組物。

ばら撒かれたガラスがそのまま放置され、それを覆い隠すように無数の本が投げ捨てられている。


「ひっでえなあコレ」


ルークは布団に潜り込んでいたリリアの横にすとんと座ると、ため息とともに呟いた。


「・・・寝られたらいいわ。」


「お前この状況で寝られんのか!?

少し綺麗にするから起きろ。」


リリアは眠たそうな眼をシパシパさせて、うんと伸びをして、ベットを弾ませて跳ね起きる。



「このイスは・・なんかへんな形してんな。

リリア、ガラスの処理は済んだか?」



「う〜ん。

ルーク、ちょっと見て。」


リリアが何かを投げつけてきた。

ズタズタに引き裂かれていたが、

よく見ると白く弾力のあるゴム製のもの。

先っぽが女性の乳首のように丸みを帯びている。


「これは・・哺乳瓶の先っぽにあるやつ

人口乳首か。」


「うん、あそこにあったガラスの破片、

よく見るとメモリが振ってあるの。

間違い無いと思う。」



ルークは先ほどの妙な形をしていた椅子を観察した。

妙に棒の数が多いと思っていたが・・


「それ、よく見るとベビーベットね。

赤ちゃんを守るための柵が作ってある。」


ルークはベビーベットを床にゆっくりと置くと、ベットにポスんと座り込む。


「あまり俺らがいじるのもよくないかもな・・・こうなったら、壊れてると言ってもただのゴミじゃないわけだし」


「そうね・・・」


「・・・もう遅いし寝るか、電気消すぞ。」


ルークはスイッチを切ると、

部屋は一筋の光も指さない、一面の黒へと変貌した。

目を慣らすために少し待って、

今度は細心の注意を払って、ゆっくりとベットへと向かった。

リリアとは少し距離を空けて、

しなびた毛布の中へと潜り込む。


「明日は8時ごろに酒の仕入れに行く。

それまでは町で情報の聞き込み。いいな?」


「・・・うん。」


自信のなさげな彼女の様子に少し訝しんだが、旅で疲れた体を休めるため、目を閉じた。徐々に毛布が温まっていき、柔らかな眠気が徐々に体を覆っていく。そのまま身を任せようとした時、


「ねえ、ルーク?」


彼女の声がした、ルークは眠気眼を擦りながら、

「どうした?」


「・・・店主の様子、どうだった?」



「寂しそうだったよ、それは仕方ないけどな

少し俺も片づけを手伝った。」


「そう、なんだ。」


「・・・電気、つけるか?」


「ううん、このままでいい。」


もぞもぞとベットが揺れ、リリアがこちらを見つめる。子犬のような大きな瞳に、少し悲しげな影が映っていた。


「ソフィア。

あの子、少し前の私にそっくりなの。

不安で、繊細で、例えようのない悲しみに襲われてる。そんな感じ。」


「・・・この部屋といい、

さっきの態度といい、

何かあったのかもな。」



「だからね。さっき、考えてたの。

あの子に何かあった時は、少しでも私達が手を貸してあげられないかなって。

・・・だめ、かな?」


リリアが小さく弱々しい声で尋ねる。

ルークが彼女の小さな手をとり、握りしめた。


「それで似合わなくしょげてたのか。

俺に遠慮なんかすんな。」



「・・・

ありがとね、ルーク。

そういう優しい所、好きよ。」


リリアはそういうと微笑み、

安心したように寝入り始めた。

ルークも今度は一片の心残りも無しに夢の世界へと入っていく。



「相棒、本当にいいのか?」



「ん〜・・・

何が?アルファード。」


「・・・いいや、何でもない。」












ー—-

天井の時刻花は花を閉じて行き、目に薄っすらと残るばかりの、小さくか細い光のみが花弁の隙間から垂れる。

対照的に街は徐々に煌き出し、人工のネオン管の封入ガスが作り出す、淡く、滲むような光があちこちに光り出した。

道を通る人々も更にその数を増し、

溢れ出した熱気が体を舐め、心臓に活気を与える。

夜が来た。


「うわああああ!!」


リリアの甲高く、耳に刺さるような慟哭が辺りに響き渡る。

辺りから集まる訝しげな視線。

ルークは軽く会釈して受け流す。

しかしリリアが叫ぶのも無理もない。

店主から朝食をご馳走してもらった後、

朝8時から町中から走り回って今は夜の7時

何百回と質問を繰り返し、

何百回失望し、何百回会釈をし、

何十回ぬか喜びをしただろうか。

およそ11時間駆けずりまわって、一切収穫なし。

辺りに人がいなければ自分も叫びたいところだ。


「気持ちはわかるが少し落ち着け。

仕入れの店に行くまで1時間はある。

一度休んで、また探し始めるしかないさ。」


「落ち着いてるわよ!」


リリアはそこら中をウロチョロした後、

ため息を一つついて、ルークに不本意そうな眼差しを向けた。


「こうなったら、二手に別れましょ。

そっちの方が効率がいいわ。」


突然の提案に、ルークは目をシパシパさせて、


「大丈夫か?この街、あんま柄がよくねえし、俺がいた方がいいだろ。」


「へえ〜ッ・・・

よく言うわ、イノシシにも勝てないのに。」


「なっ・・・

お、男がいるだけでも意味あるだろ。」


「11時間もさがしてるのよ!

少しは行動を変えなきゃ!」


ルークは歯ぎしりをして、少し赤くなった顔をリリアにずいと寄せて


「危ないからダメ。

お前バカだし。

絶対トラブるし。

お前こそ弱いのに勝手なことすんな。」


つい自分も喧嘩腰になってしまったのを後悔したが、もう遅かった。

リリアは顔を茹でタコのように真っ赤にして、小さな体をプルプル震わせていた。


「ここで言いあったってラチがあかない!

目は2倍!耳は2倍!口は2倍!

労力は2分の1!

バカな私には、他のアイデアは思いつかないわ!」


リリアはぐるんと背をむけると、

ネオンが煌き出した街の中へと駆け出した。

晴れやかな外の世界の影のように、暗く寂しい路地裏でルーク一人がポツンと残される。

大きくため息を吐くと、びっしりとミミズは張ったように埋め尽くしたメモ帳を、呆けたようにめくり出した。


「生きてるか、相棒?」


アルファードが上着の中からこちらを覗き込む。ルークは子供がいじけたような情けない声で


「俺、疲れてんのかな・・・

あーーーーもう全然動き出せねえ。」



「人は1日8時間の歩行が限界らしいぜ。

リリアが異常なんだ。

よっぽど父親に会いたいんだろうな。」


「・・・父親。」


その言葉にルークは記憶にある父親を思い浮かべてみた。

・・・胸がチクリと痛み、腹の底から例えようもない疼きが迫り上がる。

ルークは苦笑して、

疼きを消すように、胸を強く握りしめた。


「・・・父親に、会いたいか。」

俺には縁がない言葉だな。」


ルークは大きく伸びをして、凝り固まった筋肉をほぐすと、アルファードの方へとむきなおった。


「俺はいいからリリアについてやってくれ。

あのバカどうせトラブルに巻き込まれるんだから。」


「相棒も似たようなもんだろ。

ま、行ってきてやるよ。」


アルファードを見送ると、もう一度、大きな伸び。伸ばした筋肉からコリを解放し、気合いとやる気を漲らせる。


「・・・よし、俺も行くか!」


本腰を入れ、路地裏から出ようと振り返る。

・・・目の前にいたのはガラの悪そうな若者の五人組だった。

「テメエが、ルークか?」


ほぐした筋肉が硬直し、焦った背中がジリジリと疼きだす。

リーダーの男は頭を振り、こちらを睨み付け、

ガムを噛みながらルークの襟を掴む。



「ソフィアちゃん家に泊まってるらしいな。

よそもんが勝手なことしやがって。」


「と、泊まってますけど、別に変な意味じゃなくて・・・

あの、まず弁明をさせていただきますとですね。」


うるさい口を塞ぐように、突きつけられる痛々しい形をした釘バット。

全身に凍えるような悪寒が走る。

嫌な汗が毛穴から垂れて,背中をじっとりと濡らす。


「んなことはどうでもいいんだよ。

ちょっとツラ貸せや。」


断る隙もなく、取り巻きたちに抱えられ、

ルークは路地裏から引き摺り出される。

ルークは神に祈り、空を仰いだ。


「(俺、憑かれてんのかな・・・。)」



見てくれた方、ありがとうございます!

次回話が大きく動きますので、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心理描写が多く、感情移入しやすかったのでよかった。 アルファードの立場が個性的であり、魅力的でもある。 [一言] 早く続きを読みたい。
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