賭けと売春の街 ペルドラマ! 其の二
また頑張って書き始めます
店長に連れ去られたルークを追い中に入ると、リリアは思わず顔をしかめた。
店の小綺麗な外観に比べて目の前に広がった
店内は・・・あまりに小汚かった。
天井に無造作に配置された電灯は上でコードがめちゃくちゃに絡まり、古ぼけた洋館に張り付いた汚い蔓を想起させる。
檜作りの床や壁、酒瓶が大雑把に陳列してある巨大な棚にも、長年使い古されたのか酒を零したようなシミがいくつも点在しており、きちんと処理されずに放置されたウイスキーが木材を腐食させ、ポッカリと空いた穴が見受けられた。
そして何より、リリアを不快にさせるのは、ガラの悪い人々が織りなす店の雰囲気だった。
そこら中から上がる男性の下卑た笑い声や、女達の力のない酒焼け声。
円形のテーブルに足を置いて悪態をつく柄の悪そうな中年の男、腕に趣味の悪い毒々しい色の刺青を入れている若者達。
いかにも酒場に似合いそうな人たちが賭け事に講じていた。男達は皆、禁煙という言葉など聞いたこともないように釈然とタバコをふかし、大酒を飲み散らかしている。
いつでも上品に過ごしていた父や母、それと対照的な人々のあまりに欲望に率直な姿にリリアは自然と嫌悪感を抱いた。
「(・・でも、逃げちゃダメよ!ここで父さんの情報と図書館への行き先を探らなきゃ。)」
リリアはぷっくりとした可愛らしい頬をパンパンと叩き、出来るだけそうっと、因縁をつけられないように、人々の間を注意深く進みだした。
不審な美少女の姿に数人の物珍しそうな視線がリリアへと当てられる。その中の1人が意地悪そうに口を歪ませる。
「(ヒヒッ・・キョロキョロしててムカつくなあ、あのガキ・・・)」
「きゃあ!」
リリアは足をかけられ、大きくつんのめって客にビールの配膳をしていた女店員に強くぶつかった。 その拍子にテーブルのジョッキは大きな破砕音を立て、床にぶちまけられる。
「あ、あの!ご、ごめんなさい!!」
リリアが恐怖で泣きベソをかきながら深く頭を下げる。その女店員は振り向き、怒ったように威圧的に肩を鳴らし始めた。
「ごめんって?」
「え、いや、その・・ぶ、ぶつかっちゃって・・・ジョッキも割れて・・」
「なんであんたが謝るのって聞いてんのよ」
女店員はそういうと腐りかけた床をギシギシ踏みしめてリリアに足をかけた男の元へ歩き出す。リリアは顔を上げ、改めてその姿を確認した。
その髪は畑一面の稲穂のような輝く黄金色、
ボサボサと振り乱して野性味を帯びさせるアニマルロック系のスタイル。
ただ、顔の肌のハリ、瞳の鋭さに隠された柔和な雰囲気を感じ取り、リリアは彼女は自分と幾分も変わらない少女であると悟った。
形のいい鼻筋の通った高い鼻に、
色艶のいい桜色の唇。
目は鋭く肉食獣のような獰猛さを匂わせる切れ長で、その目が一層彼女の持つ野性味を強めている。
襟元が伸びきったダボダボの白いタンクトップが、彼女の大きな胸に押し上げられてビシッと貼り直され、扇情的な危険な魅力さえ感じさせている。それが彼女が歩くたびににユサユサとハジけるように揺れた。
彼女は男の元へよると、その鋭い目つきで男を睨みつけた。
「なかなかみみっちい真似するようね。
お客さん。」
男も彼女に応戦するように立ち上がる。
彼の身長は彼女の胸あたりまでしかなく、その細い目と出っ歯も相まってネズミのような風体を思わせた。
「証拠は?」
「さっき足かけたのこの目で見たのよ。
第一、この街の奴は柄は悪いけど、
お前みたいにみみっちい真似するような奴は1人もいねえよ。」
男はそれを聞くとバカにしたように大げさに笑った。
「みみっちい真似か!!
この街の奴らがそれを言うのかい!?
まあいい。だったらなんだ?金か。欲しいのは金か?
だったらくれてやるよ。」
男は仰々しく肩を震わせて笑うと、財布を開けて紙幣や硬貨を床へとぶちまけ始めた.。
「はは、ジョキ一つとビール代にしちゃあ
多すぎたか。このドブくせえ店の修繕費にでもあてなよ。」
「・・・どうも。」
彼女が屈みこんで紙幣を拾い始める。
すると彼女の従順な態度に味を占めた男が、これ見よがしに履いた高そうなブーツで床に落ちた紙幣をグシャグシャに捻り潰してゆく。
「随分と金に困ってるらしいなあ。
ま、俺は中心街ママルガムの貴族の生まれだ
貧乏人に恵んでやれるものなら恵んでやるよ。」
「・・・・」
彼女は侮辱も気にせず、黙々と金貨を拾い続ける。
男は細い目をさらに細くしてニンマリと歯が浮いて出た口元を吊り上げると、床の金を蹴りつけてあらぬ方向へぶちまけた。
「オラ、お前の大好きな金があっちまで飛んでったぞぉ。這って進め。
ゴキブリみてえに這ってとってこい。」
その発言に口火を切ったように、周りからも遂に怒気を含んだざわめきが起こり始める。
そして柄の悪い若い男たち数人が椅子を蹴り上げると、男を取り囲み服の首元を掴みあげた。
「随分調子に乗ってんな、ネズミ野郎。
ソフィアちゃんにイキるんなら、俺たちも同じように相手してくれよ。」
その剣幕に男は顔を青ざめさせたが、やがて引きつりながら、平静を装いながら笑って
「お、お前ら。これが見えるかい。」
一つ白いボタンを胸元のポケットから取り出した。
「こ、これはなあ。俺のパパから渡された緊急SOS用のボタンだ・・・。
小型の発信機になっていて、一度俺が強く押せば20人のSPがここにすっ飛んでくる・・・。
ヒヒッ・・俺を殴っていいのかいチンピラ?」
「・・・テメエ。腐ってんな。それで脅すつもりかよ。」
首元をつかんだ若い男が悔しそうに顔を歪ませると、男は心底嬉しそうに顔を醜く歪ませた。
「ご名答。ヒヒッ、テメエらみてえなチンピラに敵う相手じゃねえよ!!
・・・それに、みろよ。」
男は顔から愉悦を滲ませて、軽蔑の瞳を向けながらソフィアを指差した。
「まだ拾ってやがる。お前らは怒っちゃいるが・・
あの女は俺の金に夢中らしいぜ。
貪欲、豚みたいな女だ。
お前らの正義心も浮かばれねえな!!」
その瞬間、覇気を折られていた若い男は男に顔を思い切りよせ、強い語気で怒鳴りつけた。
「テメエに何がわかる!!
あの子が、どんな気持ちで・・!!」
「あれえ〜そんな口を聞くと・・・
やべえ!!手が滑っちまう!!
ボタンを押しちまう!!」
男は若い男の剣幕を嘲笑うかのように、ヘラヘラと挑発的にボタンをちらつかせ、数度わざとらしく押すような素振りを見せつける。
そして床に跪いて金を拾っているソフィアの方に目を向けると、懐から紙幣を数枚取り出しピラピラと震わせた。
「おい女。金なら恵んでやるからこのチンピラに手を離すように自分から頼み込め。
もっと金が欲しいからその手を離して下さ〜いってよ。
・・・ああ、それと、俺が足をかけてそこのガキ転ばせたの見たって言ってたな。
あれ、やっぱお前の勘違いだろ!!
それに関する訂正と謝罪も込みで頼むわ。」
「テメエ!どこまでクズなんだよ!!
一度認めた事だろうが!!」
若い男が再度怒鳴りつけると、男は苛立ったように床を踏みつけ語気を強めた。
「おいブス!!聞いてんのか!?
程度の低いこの猿がいつ手を上げねえともわからねえだろうが!!
テメエ見たところあのカウンターの浅黒い親父との父子家庭だろ!!
母親はどうした!?ああ!!
どうせ外の風俗街で、性病でももらってくたばったんだろ!!
店という食い扶持を潰さねえ為にも金が欲しいんじゃねえのか!?」
「・・・なんだと?」
その言葉を聞いた瞬間、金を拾っていたソフィアの体がピクンと跳ねあがる。何も言われても動じなかった彼女。しかし今度は顔中を怒りに歪めて男の元へと歩み寄った。
「私の母親が、なんて言った?」
男はその剣幕に動揺しながらも、強がって平静を装いながら答えた。
「ん、んだよ。こ、このボタンが見えねえのか?
もし俺に手を出したら・・!」
「どりゃああああああああああ!!!」
男の御託を遮り、ソフィアの鉄拳は放たれた。拳は顔にめり込み、男のネズミのように出っ張った前歯をへし折りながら、鼻をも砕く。男の顔を歪ませながら放たれた拳は凄まじい衝撃を持って男の体を数メートル弾き飛ばした。
・・弾き飛ばされた男の体に押されたテーブルから、ジョッキやワインの瓶、サイコロやカードがバラバラと落ちるたび、ガシャンガシャンと音が上がる。
それが止むと店内がシンとした静寂に包まれた。
やがて激しく動いたせいでソフィアの巨乳が包まれたタンクトップがずれ、そこからピンクで可愛らしい小さな杖がずり落ちる。
そしてあろうことかその杖が、小さな女の子のような可愛らしい声で喋り始めた。
「あ〜あ、やっちゃタネ。ソフィア。
私を使えば、ここまで店の物壊すことなくぶちのめせタノに。」
「うるせえ、黙ってろメルク
魔法を使うと全然スッキリしねえ。
あんなクソ野郎、
素手でぶん殴らなきゃ気が済まねえよ。」
2人の会話が終わるとまたも静寂。
しかし今度は若い男達がソフィアの周りを取り囲み、満面の笑みで腕を高く上げた。
「・・・流石だぜソフィアちゃん!!
スッキリしたぜ!!
ウオオオオオオオオオオオ!!!」
若い男達が吠えると周りからも一斉に拍手と歓声が湧き上がった。
テーブルに積まれた札束は空高くばら撒かれ、ワインの瓶と木造りの酒の小樽、カードのトランプも同様に宙を舞う。
彼方此方で酒に焼けた女のはしゃぎ声と
野太い歓声が上がるのを、へたり込んでいたリリアは惚けた目で見つめていた。
「スゴイ、あのソフィアって子・・・
・・・・強いなあ。
私なんかより、ずっと。」
「 ゴホッ・・!!
おばえら、・・・!!これで全部、万々歳とでも、おぼってんのがよ・・!!」
不意に聞こえてきたダミ声に、騒いでいた皆の視線が注がれる。
見ると、弾き飛ばされた男が上体を起こし、鼻と口から血をダラダラと、目からは涙を流しながら喋っていた。
「痛え・・・はが、おれた。」
まず治療費と・・・それと俺がうげた精神的苦痛への賠償を・・・。」
「「何が精神的苦痛だ!
テメエは散々ソフィアちゃんを侮辱したくせによ!!」」
周りからあがった反論には目もくれず、男は懐から出したボタンを周りに見せつけ、楽しそうに顔を歪めた。
「・・・もう、押しちまったよ!!
ざまあみろ!!テメエらはもう終わりだよ!ほら見てみろよ!!もう引っ込んじまってるぜ!?」
男は嬉しそうに周りの人々にボタンを見せつけた。しかし、今度は周りの人々は何一つ臆することなく、侮蔑と冷えた目付きを男に送った。
「そ、それに!! パパにも言いつけてやる!!
俺のパパがどんな人物か知らねえな!?
聞いて驚け!!
あの地上の天使達にもコネがあるんだ。
ヒヒッ、この町の奴らみてえに酒と体の繋がりじゃなくな!!」
「もういいよ」
男が冷や汗を垂らしながらのたまうのを、ソフィアが首を絞め上げ阻止する。
そしてソフィアは顔を男に寄せ冷たい息を吐きながら告げた。
「あんたの一家がどれだけの権力を持っているか知らないけど・・・。
私の母親をバカにした時点であんたの敵はこの店だけじゃない、この街だ。
あんた・・・このペルドラマをたかだか一家庭の力で潰せるつもりかい?」
その言葉を口切りに周りの人々も呼応するように男ににじり寄っていく。人々の怒りは益々その激しさを増し、みるみる男を縮み上がらせてゆく。
「ヒヒ、ヒ・・なんだこいつら・・やめてくれ。
おれはあの、ママルガムの貴族・・・!!」
「今度は私からいいかい?」
リリアが心底楽しそうな笑顔で男に聞いた。
「私も精神的苦痛の治療費欲しいんだけど、
払ってくれる?」
男は完全に闘志を折られ鼻血を出しながら、ガチガチ震えていた。
「10、10万くらいで・・・」
「ううん、ダメダメ。」
「お、お金・・・
100万ペアーくらいで勘弁して・・・」
男が恐怖で泣きながら聞くとソフィアは淡々と答えた。
「ううん、体で。」
ソフィアの丸く綺麗な膝小僧が男のグシャグシャの顔に、もう一度勢いよくめり込む。
「ブグアアアアアアア!!」
男は膝蹴りを食らってまたもぶっ飛び、店のガラスを割り、外の寒々としたくらい世界に投げ出された。
「便所の床の下の木でもかじってやがれ!!
ネズミ野郎!!」
「ヒイイイイイイイ!!すびばせん〜!!」
ソフィアがビシッと指差しながら叫ぶと男はちょうど良く集合してきたSPと共に、夜のペルドラマの彼方へとすっ飛んで行った。
店内の観客は満足したようにそれぞれのテーブルに戻ると、ぶつくさ言いながらさっき撒き散らした札束やカードを丁寧に拾い上げ、
また罵声や酒焼け声を発しながら賭け事に夢中になっていった。
「すげえ肝っ玉の姉ちゃんだったな。
リリア、お礼言っとけよ。」
リリアの上着のポッケがモゾモゾと動き、ぴょっこりとアルファードが姿を現した。
「うん・・・。」
リリアはアルファードを見るとそう会釈した。
「ていうか・・・」
・・・やがてリリアは顔をみるみる曇らして、
「助けろおおおおおおおおお!!」
思いっきりその場に落ちていた酒瓶でアルファードを殴りつけた。
「痛え!!このガキ!!」
「何がすげえ肝っ玉の姉ちゃんだったなあよ!!
今更解説役みたいな感じで出てきやがってえええええ!!」
興奮したリリアを収めるために、アルファードは上下左右に揺さぶられながら答えた。
「で、でもお前回復魔法しか使えないじゃん!!相手回復させてどうすんだよ!?
お前が攻撃魔法を覚えない限り俺にああいう場面で出来ることは・・・!!」
「じゃあ、ルークよ!!ルークあの野郎!!
店内巻き込んだ大騒ぎの中で何を・・・」
「大丈夫か? リリら・・!!」
駆け寄ってきたルークの腹にリリアの鉄拳がめり込む。そのままルークは床に倒れこんだ。
「お前も助けろおおおおお!!!」
「で、でも・・・!!店主が・・・!!
俺、俺の娘が解決するから・・!手を出すなって・・・!!」
ルークは痛む腹を抱えながらそう言って、周りを見渡すとソフィアを見つけて徐に立ち上がった。
「ああ、いたいた。ほら、リリアも来い。」
ルークはリリアの腕を引っ張ってソフィアの前に立たせる。
「・・・何か用?」
ソフィアは、ワイルドだが整った可愛らしい顔を怪しんだ表情で訝しげに聞く。
リリアはカッチコッチに固まった後、ゆっくりと口を開いた。
「あ、あのさっきは助けてくれて・・!!」
「ああ、あんたね。とっとと出ていきな。
「え・・・。」
リリアは、不意に浴びせられた厳しい言葉に言葉を失う。
二の句が告げずにモジモジしているとソフィアがめんどくさそうに答えた。
「なっさけない。あの程度で泣きベソかいちゃって。私はウチのクソ親父みたいに甘ったれたやつが大っ嫌いなんだ。
だからとっとと出ていきなって言ってんの
おわかり?」
リリアは俯いたまま黙りこくっていた。
しかしやがて決心したようにキッパリ前を向き、自分より体の大きいソフィアをまっすぐな瞳で見上げた。
「嫌だ。」
「は?」
「私は、父さんを探すためにここまで来たんだ。
だから出ていかない。」
真っ直ぐこちらを見るリリアに、ソフィアもしっかりと目を合わせてリリアをを睨みつける。ルークはそんな2人をなだめるように優しい口調で口を開いた。
「まあまあそんなに火花を散らさないで、
今日から俺たちみんなここで働くんだから。」
「・・・・は?」
ルークがそういうと2人は揃って同じ言葉を口にした。