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サム・グラウンド  作者: 虎徹
4/6

賭けと売春の街!ペルドラマ!其の一

最初の街


彼は目覚めた。

上体を起こすと6枚の羽を器用にはためかせ、地面へと降り立つ。起きたばかりだというのに彼の顔には眠そうな表情はない。

美しい冷ややかな瞳が、威圧するように刺すような冷たさを放っている。

彼は周りの世界を見渡す。

全てが岩石で覆われた魔界。

ここは魔界の中でもさらに深い洞穴の中であった。

ゴツゴツと角立つ岩石の天井からは地下水が際限なく染み出し、まるで雨が降っているように暗い洞穴の中を濡らしている。

彼はため息を一つつくと、右手に魔力を集中させて輝く光球を作り出し、上へと放り上げた。

凄まじい魔力によって作り出された光球は周りに獣が唸るような重低音を響かせながら上で弾け、広い洞穴を一瞬で照らし出す。

彼は鼻歌交じりで昼空のように澄み渡った洞穴を歩き、鏡へと向かう。

彼は自分の姿を見るなり膝から崩れ落ちると腕を交差させ頬を淫猥な仕草でなぞりあげた。

「ああ、なんと美しい!

この黒曜石のように濡れた光りを放つ黒髪!

インドラの矢のような美しい流線を型作る瞳!白魚のような白くキメ細い肌!

美しい唇!!

ルシフェル様には及ばないまでも、ミカエルとかいうクソガキには勝っている!絶対!

ん、待てよ・・・!」

彼は洞穴の上から染み出す水を両手で一雫ずつ汲み取っていく。

しばらく経つと両手に溜まった水で自慢の黒髪の前髪を少し整えた。

「こ、これはっ・・・!あ!あ!ああっ・・・ア〜!ああああああああ!!!!

なんたることっ!!これでは私の美貌が!!ルシフェル様を超えてしまうのでは!?

申し訳ありませんルシフェル様!!!!

不細工になりたい!!不細工なりたい!!

不細工になりたい!!不細工になりたい!!

不細工になりたいいいいいいいい!!」

土下座をするように屈み込み顔面をゴツゴツした固い岩肌へと何度も打ち付けてゆく。前歯は折れ、皮はすりむけ、顔に痛々しく血がこびりついていく。

「ああ、どうしよう・・血まみれでも私は美しい・・・。」

彼はそう言って突然愛用の鏡を拳で叩き割ると、仰々しい仕草で天に向かい仰いだ

「ああっ・・ルシフェル様!!

明けの明星!偉大なる最強の熾天使よ!

私は誓う永遠の帰依を!

ああ、僭越ながら私めの願いをお聴き頂けないでしょうか?

私はいつかかの日のように貴方様に御拝謁したいのでございます!

そのために私めは何物も惜しみません!!

命さえも!!

あの怠け者のベルゼブブとアゼザルはまだ目覚めてはおりませんが・・・。

いつか我らで、貴方様を!!」

彼の感情が高ぶってゆくのと呼応するように

空気が揺れ始める。その揺れはだんだんと強さを増し洞穴全体すらも揺らしてゆく。

彼を恐れて震えているようだった。

四方の岩壁が裂け、砕けた岩が幾度も大きな音を立てて降り注ぐ。

彼は祈りをとき、顔を狂気に歪めて笑った。

「ルシフェル様・・・。

ベリアル、ここに。」



二人の旅は一週間を過ぎようとしていた。

ここはあの山から最寄りの街、ペルドラマの近くにある森の中。

「必ず仕留めるぞ!」

ルークはアルファードを右手に掴み、獲物の背中を追う。日は3時間前に落ちきって夜の闇が辺りを染めている。

闇は森の木立に囲まれてますますその黒を濃くしていた。

やがてルークの必死の追撃により獲物はいつのまにか森を抜け、そびえ立つ岩壁へと追い詰められてしまった。

時刻花の蕾から漏れる僅かな光が始めてその姿を映し出す。

丸々と太った腹には薄汚れた藁を引っ付けたような汚い毛にびっしりと覆われており、

ルークが間合いを詰めると口から生臭い息を吐いて巨大な牙を振りかざした。

全長1、5メートルはあろうその巨体。

立派なイノシシである。

ルークは間合いを取りながらアルファードを握り直し、呪文の詠唱を試みる。

「え、またやるの相棒?やめとけって」

「うるせえ!構えてろ!

・・・天に召します我らが主よ・・・

その太陽の力をお貸しください!」

ルークは呪文を詠唱し終わるとアルファードを握りしめている右手へと精神を集中させる。

次の瞬間、アルファードの白い球体が弾けたように別れ、中に詰められている複雑な回路が次々と入り組み、やがて美しい光剣へと姿を変えてゆく。

その時脳裏にあの時の自分の勇姿が浮かんだ。

繰り出されたとてつもない魔法。

逃げ出す強盗。

リリアの自分を見るうっとりとした瞳・・・。

精神を集中させながら、光剣を両手で構え円を描くように回してゆく。

目の前のイノシシに恐怖の色が浮かんだ。

「くらえええええええええ!!

エターナルバーンブレイド!!」

精神集中を完成させたルークが光剣を真一文字で振り抜く!

・・・決まった。

奴は後ろの岩壁ごと真っ二つに・・・。

しばしの静寂が流れる。

イノシシも岩壁も無事だった。

草一つ、切れてはいない。

ルークとイノシシは見つめ合う。

・・・夜風が冷たかった。

ギャグが滑った後のような嫌な静寂だった。

「ぶもおおおおおおおおおおおお!!」

「ちょっまっ!グハッ!!」

拍子抜けを食らったイノシシが怒ったようにルークの股間に突進してきた。

ルークは悶絶、獲物はそのまま深い森の闇に消えていく。

「いってええええええ!!

やべえ潰れたかも!!吐きそう・・・

オエエエエエエ!!」

「あ〜あ、またリリアにどやされるぜ相棒・・・」

アルファードは変身をとき、羽ばたきながら心配そうにルークの周りを旋回する。

ルークにアルファードに気を向ける余裕はなく、しばし股間に手を突っ込んでうずくまった。



上流から静かな水音を立ててながれている小川の周りに二人はテントを張っていた。

涙目でぴょんぴょん跳ねながら帰ってきたルークにリリアは甲斐性なしだの

不甲斐ないだの罵声を浴びせたが、やがてかわいそうになったのかため息一つついて乾パンを投げてよこした。

晩飯の乾パンは一週間連続のことだった。

お互い他の味覚が欲しくなってくるこの頃、

女性のお腹を満たせないのは男として情けない。

「なんででねえんだよ!」

ルークは強打した股間を小川の水で冷やしながら八つ当たりをする。

アルファードは魔道具のうちの一種。

魔道具は主に使い手が魔法の使用時にその効果を高めるために使われ、意思を持ったり、言葉を話したりと様々な特性をもつ。

しかしそれ自身に魔法の発生効果はない。

目的はあくまで補助なのである。

そのためアルファードは冷淡に言った。

「なんでって・・・。まず魔法使えないじゃん、お前。」

繰り出された正論にルークは思わず肩を落とした。

「それはわかってるけどよお・・・

でも、前はでたじゃん。しかもどでかい威力の魔法が。」

「魔法学の勉強をしてても使えない奴が危険が迫った時に咄嗟に出せることもある。

たまにな。魔法は使い手の精神に強い影響を受ける。でも、それはあくまで限定的な状況の場合さ。あんなのは身についたと言わん」

「なるほどな・・・」

小川から手を離して、ルークは少し不満げに草の地面へと寝転んだ。

「まあ、ルーク。お前の家族たちは才気ある使い手たちなんだろ?才能がない奴が魔法を出しても前のようにはならんさ。お前の馬鹿でかい魔力の片鱗だったのかもしれんぜ?

家族だって見返せる。」

アルファードが態度をころっと変えて擁護するとルークは乾いた声で笑った。

「可能性じゃダメなんだよ。

出せたって一瞥して終わりさ。

出来て当たり前なんだ、あの家は。

それに家族のためじゃねえよ。」

ルークはそう言って乾パンにかぶりついた。

小麦粉のほのかな甘みと引き換えに口の中の水分が奪われていく。

「なあ、アルファード。」

「なんだよ」

「・・・なんで俺を選んだんだ?

あの家族たちの中で。」

ルークは横を向いてアルファードを見る。

アルファードの無機質な顔が少し薄暗い何かに陰った気がした。

「・・・勘さ。前に話した通り、

あの朝、気がついたら屋敷にいたんだ。自分は誰で、なんのためにここにいるのかもわからなかった。ただ、俺の中にあったのは本能みたいなあがらいようのない衝動だった。誰かを下界に運べってな。それでふと目についたドアを開けたらお前の部屋だった。」

「そうか」

ルークの返答にアルファードは言葉を選んで聞いた

「・・・嫌だったか?魔界に来て。」

「いや、感謝してるよ。」

「・・・でも、いろいろわかんねえことだらけでよ。それはお前の前の使い手の意思なのかな。誰かがある重大な目的の為にお前に転移魔法をかけたのかな。」

今度はアルファードが乾いた声で笑った。

「さあな。わからない事だらけですまないが。」

会話はそこで途切れ、ルークは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

まず、転移魔法を使えるほどの高位魔法学者。

しかも地下3000kmに物体を転移させることができるほどの使い手は誰なのか。その目的はなんなのか。考えても考えても答えは出ず思考に黒いモヤがかかり始める。

「もう遅いし寝ちまおうぜ。」

アルファードはそういうと強引にポケットの中に入ってくる。ルークは立ち上がり、肩をポキポキならしながらすぐ近くに張った小さなテントへと向かった。

なかなか開かないチャック式の入り口を無理にこじ開けてテントの中に入ると

リリアが小さなランプを使って父の日記帳を読んでいた。

「何か書いてあったか?」

「うん、ちょっと気になることがあって。」

ルークが近くに座ると、リリアは橙色に照らされた顔をこちらに向ける。

「ちょっとここ見てくれない?」

顔を近くに寄せ日記帳を覗く。

「ペルドラマの次の目的地。図書館に行く為にはある山を越えないといけないみたいなの。」

「なんだ山越えくらい。徒歩で十分いけるんじゃねえのか?」

ルークが言うとリリアは呆れたように笑った。「そりゃあまあ・・・イノシシくらい余裕で狩れる王子様が一緒なら心強いんだけどお」

「申し訳ございません」

「アハハハハッ。まあ、ここ見てよ」

目を凝らすとペルドラマから山へと続く一本道の前に小さな赤い文字で何かが書いてあった。

:魔物注意:

ルークは訳も分からずぽりぽりと頭を掻く。

「なんだこりゃ。魔物がわんさかいるっとことか?恐ろしいこったな。」

「うん・・・どうしたらいいんだろう私達」

リリアはそのまま俯いてしまう。

ルークはどうしていいかわからず、とりあえずリリアの頭をポンポンと撫でた

少年と少女。誰にも頼れない二人旅。きっと彼女なりの不安もあるのだろう。

「大丈夫だって、なんとかなる。明日の夜にはペルドラマに着くんだから行けばわかるよ。」

ー~ー

頭上を見た。朝にあんなに咲き誇っていた時刻花はまたその花弁を閉じていた。

ルークは流れる汗を拭い、未だ山越えで荒れている呼吸を落ち着かせた。

そして隣のリリアを見る。彼女もまた色々な思いを抱きながら目の前に広がる光景に目を奪われていた.。

目の前に広がる街の入り口には木造りの大きなゲートが作られており、そのゲートの一番上には豆電球をちりばめて作られた光文字がホタルのような美しさで街の名前を刻んでいた。

「ペルドラマ・・・」

うわ言のようにその名前を呼ぶ。

「ここが父さんの旅の第一歩・・。

私達の一歩!」

「ああ・・・着いた。」

リリアは目を爛々と輝かせ、感激に身を震わせてゆく。

「・・・ッッんやったああああああ!!

早く入ろうよルーク!!」

「おいバカ走んな!」

走っていくリリアを追ってルークはゲートをくぐっいく。

街の中に入るとゲートの外まで聞こえて来た人々の喧騒はいっそう大きくなった。

あちらこちらで人々は頬を茜色に染め、酒臭い息を吐きながらまた別の酒屋へと足を運んでゆく。酒屋の数もそうだが、もう一つ目を引くのは女性の風貌であった。大抵の女は皆ターバンのような布を体に巻きつけただけであったり、生足を豪快に出した丈の短いスカートであったりと男の興味を引かせるような刺激的な服を着ていた。

ある若い女性が3、4人で歩いていた男性陣を呼び止める。そして自ら服を脱いで上半身を露出してゆく。女が動くたびにふくよかな乳房も揺れる。そしてついに隠すものを失った美しい桜色の突起が露わになった。男性陣からも大きな歓声が上がる。

「いくら!?」

女性が甲高い声で叫んだ。

男性陣はポッケの中から財布を取り出し、お互いの金を合わせて数え始める。

「よし、6万ペアーでどうだ!」

「しけた金額出してんじゃないわよ!

あんたら栄養失調で腰が立たないんじゃないの!?」

「んだとこのアマ!いいだろう一人頭10万出してやるよ!てめえこそ腰立たなくしてやるから覚悟しろ!」

それを聴くと女性は満面の笑顔を浮かべながら男性陣とともに、路地の裏へと消えていった。おそらく向かい側にも歓楽街があるのだろう。彼らが消えていった路地の隙間からは紫色の妖艶な光が漏れ出ている。

街全体が、まだ子供の二人には味ったことの無いような妖しい魅力を漂わせていた。

先程の様子をドキドキしながら見つめていた二人だったが、やがてやるべき事を思い出す。

「まあ、次の目的地のことが知りたいなら人に聞いてみようぜ人の多そうなところならいいんだが。」

ルークとリリアは酒屋だらけの辺りを見渡す。

「あそこなんてどう?」

リリアが指差したのは他の店よりも一回り大きめの酒屋だった。周りの店と比べて比較的看板も新しく、繁盛しているようで人も多そうだった。

「でも、俺たち未成年だぜ?」

「今更なによ、私達は麻薬の密売をしてたのよ。ポリもギャングも怖くないわ。」

リリアがそう言うと二人は悪い顔でケラケラと笑った。

「いっちょやってやっか!」

二人は勇ましい足取りで店のドアへと近づいてゆく。

・・・突如目の前ドアは鈍い音を立てて蹴り破られた。飛び出した男はルークとリリアを突き飛ばして逃げてゆく。

「ウギャアああああああ助けてええええ!!!」

「待てっつてんだろお!!金払えええ!!」

次いで怒号。今度は頭を綺麗に丸めた浅黒の屈強な男性が飛び出した。

「あのやろおおおお!!」

男性は巨大な猟銃を取り出し、なんの躊躇もなく撃鉄を引いてゆく。

辺りにつんざくような破裂音が何度も響く。

「うああああああああああああ!!」

男性は恐怖で叫びながら気休め程度の蛇行走法でかわしていたが、ついに八発目で凶弾に倒れた。

・・・けたたましく響いた銃声は止み、辺りに硝煙の臭いが立ち込め始めてゆく。

二人は店の前でただただ口をパクパクさせながら立ち尽くしていた。

「ふう、やっと止まりやがったか」

「(止めるどころか殺してんじゃん!!)」

店主は倒れ込んだ男に中指を立てると、満足そうな顔でルークとリリアの方へと近づいてきた。

「いらっしゃい!!さあさあ入れよ俺の店に!!悪かったな騒がせて!」

「え、いや僕たちは!?えっと〜・・あ、あの!?ねえリリア!」

ルークは冷や汗をだらだら流しながらリリアに目配せした。リリアも言わんとしたことがわかった様子でしどろもどろで口裏を合わせ始める。

「そう、そうよね〜!私たちは・・・!え、遠慮しときます!」

「そっかあ・・・ふふふふふ」

店長はそういうって笑うとがっしりとした腕でルークと肩を組む。そしてビビるルークに向かってそっと耳打ちをした。

「ひ、や、か、し、か。あんちゃん・・・」

「お前何言ってんだよリリア!

入るに決まってんだろこんな素晴らしい店なんだよ!?すみませんね店主!!このバカが変なこと言うもんでもう・・・。」

ルークはそういうと即座に店主と肩を組んで、さすがとか 、しびれました !とか媚を売りながら店へと入っていく。

「・・・ああいう男、どう思う?」

「サイテー」

アルファードが聞くとリリアは淡々と答えた。


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