保健室へ行こう!
「あわわわわ! わりぃ! 怪我は無いか!?」
「大丈夫だ、問題ない…欲を言えば、上半身の方に被さってくれれば良かったんだが」
「そうだよな、あんなトコに顔を埋めちまって…///」
「それより早馬は大丈夫か?」
「はんっ、これくらい、どうって事ないよ」
最初は目の前が真っ暗んなって、ちょっとしたパニックになっちまってたけど、今やっと落ち着いて考えてみりゃあ、あたしは遠山に何て事しちまったんだろう。
しかも遠山はそんなあたしを、怒りもせずに心配してくれるし…
くそっ…なんだってこんなに動悸が激しいんだ? そんなに運動した訳でもねぇってのに。
「ほらっ、立てるかい?」
「ああ、ありが…とぅぐっ!」
座ったままだった遠山を、引っ張り上げようとしたら、左足を床に付けた瞬間に、崩れ落ちそうになった。
慌てて抱き止めると、後ろから抱きしめる形になってしまった。
遠山から香ってくる汗の匂い、これが男の子の匂いか…やっぱ良い匂いだな…スンスン
「あっ、ありがとう早馬、スマンな」
「いや! あたしが悪るかった! まさか一般生徒に怪我させちまうなんて…」
ああ! 匂いなんて嗅いでる場合じゃなかった! 遠山に怪我させちまうなんて! 痛いだろうなぁ、骨折とかだったらどうしよう…
「とにかく保健室行くよ! さぁ! あたしにおぶさりな!」
「いや、女の子にそれをして貰うのは、ちょっと…」
お! 女の子だって! あたしの事を!?
「じゃあ俺が連れて行くぜ!」
アンタはお呼びじゃ無いんだよ!
「いーや、遠山はあたしが責任を持って連れて行く!」
「じゃ、じゃあ早馬、肩を貸してくれよ、それで保健室まで行こう」
「遠山がそれで良いなら分かったよ、じゃあシッカリ掴まりな!」
遠山と肩を組むと、汗の匂いを嗅ぎながら、男らしいカラダの感触も味わえる。
首に廻された腕から、抱きしめられているような錯覚を。
あたしが、遠山の脇の下から差し込んでいる右手から、柔らかくもカタイ胸のさわり心地を。
(ああああ! あたしの手が 遠山のオオオオ! オッパイに!)
「あれっ? 早馬、行き過ぎたぞ」
「へ? おっ、おう! わりぃ、わりぃ」
そんな事ばかりに意識を集中させていたせいで、保健室を行き過ぎちまった。
まぁ、本音じゃもっとこの時間を、長く楽しんでいたかったんだけどさ…
「センセー! あれっ? いねぇのかよ…
しょうがねぇな、取り敢えずベッドに…ん?」
この保健室にはベッドが二つあるが、その奥の一つが膨らんでいた、どうやら先客みたいだが、もう一つは空いてるんで問題ない。
遠山を座らせると、怪我の度合いが気になるから、確認させてもらう、あたしはこう見えてレスリング元主将だ、捻挫か、骨折かくらい見分ける自信がある。
「遠山、ちょっと見せてもらって良いか?」
「ああ、良いけど…優しくしてくれよ?」
「あんま、痛くないようにはする」
◆
私は、漫画研究部に所属する、2年生女子、矢追 妃巫女16才。
身長154㎝、体重45㎏、髪型は、おへそ辺りまで伸びた、黒髪ストレート。
メガネを掛けた、そばかすの残る地味系女子、それが私だ。
そんな普通の私は、よく倒れるので、今日も何時ものように保健室のお世話になっていた。
すると私以外の来客が2名、今はまだ授業中のハズ…もしや!?
ワクワクしながら聞き耳を立てていると、聞こえてくるアヤシイ会話。
(ゴクリ…ま、まさか本当に? これはネタになるよ!
片方はちょっとキー高めだけど、問題ない、私の脳内変換は完璧よ!)
――矢追 妃巫女による改変が加えられております――
「ここはどうだ?」
「ん、大丈夫、痛くない」
「じゃあ、ココは?」
「あぅっ! ソコはダメだ……ぐっ!
……ふぅ、それで、どんな感じ?」
「おう、これなら大丈夫そうだ…
それで、良かったらマッサージしてやろうか?」
「うっ、痛いんじゃないか?」
「痛いのを我慢しなくっちゃ、良くはならないぞ?」
「なるべく優しく、ゆっくりでたのむ」
「分かってるって…」
(ウッヒョー! さ、最後までいっちゃうのかな!? 私が横に居るのに、大胆過ぎるよ~!)
私の脳内は今大変な事になっている、二人の設定を創るのに大忙しだ。
(でもやっぱ、不良っぽい方が攻めるより、大人しそうな子が攻めた方が萌えるよねぇ…途中から逆襲してくれないかなぁ…ワクワク)
その放課後、矢追 妃巫女は、二つの意味で、おおいに捗ったのは間違い無い。
矢追の設定
二人は小学校時代、仲が良かったが、中学が別々になる。
高校で再会するも、一人は不良になってしまっていた。
「久しぶりだね! また仲良くしたいな…」
「俺なんかに関わってると、ろくな事にならねぇぞ、もう俺に近寄るんじゃねぇ!」
「嫌だ! せっかく再会出来たのに、僕は絶対に離れないよ!」
「なら、証明してくれよ、何があっても離れないってな!」
ドサッ
「い、一体何を? アッ――!」
みたいな。




