バイト探し
お昼ご飯の時間、最早いつものメンバーと化した4人で喋っている。
「なあ大地、バイトを探そうと思うんだが、何処か良い所を知らないか?」
「いや、俺は今まで部活ばっかりでバイトしたこと無いんだ、そう言うのは、たねの方が詳しいハズだぜ」
「ん? あたし? バイトしてたって言っても一カ所だけだよ?」
「へー、どんな所だったんだ?」
「あたしが働いてたのは、ビルの2階にあるちっちゃなバーだったんだけど、そこのマスターも一緒に働いてたバイトのお姉さんも、みんな面白い人だったよ!」
「ほう、ちなみに給料や仕事内容はどんななんだ?」
「んーと、時間は未成年だったから午後8時~10時までで、コップやお皿洗ったり、テーブル拭いたり、お客さんと喋ったりしてたよ、そんで時給は1000円貰ってた!」
「ふむ、良さそうな所だな」
「じゃあ紹介してあげよっか? 採用されるか、わかんないケド」
「それは有り難いな、是非とも、よろしく頼む」
◆
放課後になり、件のバーへと着いた。
狭い階段を上り、まだ準備中と札が掛けられた扉を開けて、間接照明のみの薄暗い部屋へと入った。
「ハーイ、いらっしゃーい! ごめんなー、まだ準備中やねん」
テーブルを拭いていた手を止めて対応してくれたのは、身長174㎝頃、長い金髪を上の方で纏めてお団子にしている、服装は白いYシャツに、赤と黒でデザインされたベストと、黒のズボンを穿いて、まさに男装の麗人といった感じだが、表情はニコニコとして人懐っこいネコのような女性だった。
「こんにちは! スズミン先輩お久しぶりです!」
「お! なんやコトコンやないか、なんや、ウチに会いたなったんか?」
「アハハッ! 五久くん、このエセ関西弁を喋る人は猫三宅 鈴美さん、今日言ってた面白お姉さんだよ!」
「なんやエセって! 三年も関西住んどったら、立派な関西人や!」
「で、スズミン先輩、彼は遠山 五久くん、ココでバイトしたいって言うので連れて来ました!」
「わー! スルーしおったー! …まぁええわ、なんやカッコイイ男やないか、コトコンの彼氏か?」
「違いますよ! ただのクラスの友達です!」
「ふーん… まぁええわ、マスター! バイト希望の子やけどどうする?」
「…連れて来い」
それまで、カウンターの奥で準備をしていたマスターが現れる。
マスターは、白Yシャツに黒1色のベストと蝶ネクタイ、髪型はオールバック、さらにチョビ髭をたくわえ、30代前半位のダンディないかにもといった、おじさまだった。
カウンター前に招き入れられた俺は、マスターの前に立つ、無言で下から上までじっくりと観察されると、椅子へと促された。
「では面接を始める」
二人席の小さなテーブルに向かい合って座ると、おもむろにマスターが喋り出した。
「私には5才になる可愛い娘がいるんだが、最近私を避けるようになったんだ…」
「…何かあったんですか?」
「口がね…臭いんだって」
「ガムや市販の錠剤等ではダメだったんですか?」
(コクリ)
「じゃあネットで検索してみましょうか、口臭にも色々な理由があるみたいですし、きっと解決法もありますよ」
その後、携帯の使用許可を取り、マスターに質問しながら、解決方法を模索していった。
ある程度、解決に目処が立った所で「じゃあ奥で制服に着替えてもらおうか」と言われる。
どうやら面接には合格したらしい。
◆
「また明日、学校でね!」
たねちゃんと別れ奥へ入り、着替えて戻ってくると、笑顔の鈴美さんに呼ばれる。
「うちがあんたの教育係やから、これからはスズミン先輩と呼ぶように!」
「はい! スズミン先輩!」
「にゃはは! ええ子や、素直な子ーは嫌いやないで」
それから、スズミン先輩にテーブルの拭き方から、食器の洗い方、おつまみの位置など初歩的な事を教えてもらった。
今日は開店まで時間が無いので、開店作業や店内の掃除の仕方はまた明日だ。
そうこうする内にお客様がやって来た。




