私達は、思い合う
ルーはゆっくりと目を開けた。
とても、穏やかな夢を見ていた。
半分開いたカーテンからは、日の光が燦々と差し込んでいる。
ーあぁ、今日は明るいうちに起きたんだ…。
ルーがそう呟くと、後でカタンっと音がした。
寝返りをうってそちらを向けば、コロンが本から顔を上げてこちらを見ている。
ー ルー…、あぁ、ルー、おはよう。
少し、安堵した表情なのは、見間違いではないだろう。
コロンを見たのはいつぶりだろうか。
いつもは、夜に起きることの方が多いから。
最後に彼女と会ったときよりも、髪も長くなっているようだ。
ー身体の調子はどう?
コロンはそう言いながら私の頬に触れる。
温かい。
いや、もしかしたら、私の身体が冷たいのだろうか。
ーまだちょっと、ぼんやりするかも…
はっきりしない頭で、そう答える。
ー起きられる?
コロンが上体を起こした私の腰に、枕をあてがってくれた。
ーちょっと待っててね?今、食べるもの持ってくるから。
彼女が出ていってから少しして、カチャカチャリと鍋や包丁の出す音が聞こえてくる。
私は、何かの病のよう。
でも、医者はこんな病は聞いたことも無いと言う。
身体をベッドから引きずり下ろして立ち上がり、鏡台の前に立つ。
また随分と痩せてしまった。
今度はどれくらい起きていられるのだろうか。
父が帰るまで?
日が落ちるまで?
今日はコロンを見送りたい。
今度はいつ目を覚ますのだろうか。
ーおまたせ。あら?立ち上がって大丈夫なの?
小さな鍋を落とさないように、ゆっくりコロンが部屋に入ってきた。
髪はもちろん、背も伸びたコロンは、女の私でも惚れてしまいそうに綺麗だった。
ー大丈夫だよ、ありがとう。せっかく起きたのに、ベッドにいたんじゃ勿体ないもの。
私は鏡台の前の腰掛けに落ち着く。
コロンは鍋を小さなテーブルに置いて、ベッドの際に腰掛けた。
私は腰掛けをテーブルに寄せて、鍋の蓋を取る。
香ばしいスープの中に、粉を練った団子と小さく切った香草が浮いている。
ーあらコロン?料理なんていつ覚えたの?
茶化すように笑いかける。
ーあなたがいつまでも寝惚けている間よ。私だって、もうお年頃なんだから。
綺麗に成長したコロンは、最近何人かの男性に言い寄られているようだ。
この病はいつからだろう。
思えば、何年も前から兆しはあったように思う。
徐々に徐々に、一度に眠る時間は長くなっていった。
ー今度私ね、お父さんに着いて、ちょっと遠くの街の方まで行くのよ。
コロンの父親は、コロンが育って病弱なのも良くなったために、商人としての仕事を再開しはじめている。
ー街なら、あなたの病も何か知っている先生がいらっしゃるはずよ。
ー街?そんなこと言って、素敵な出会い探しのついででしょ?
ーそのときは、素敵な絵葉書を送ることにするわ。
コロンそう言って笑った。
彼女は、例え素敵な男性とやらがいても、この村に戻って来てしまうだろう
何故だか、私には分かった。
ーところでコロン、あなた私が寝ている間、もしかしてずっとこの部屋にいたの?
ーずっと?確かに昼前くらいからはいるけど…?
ーううん、違うの。何だかあなたが隣で寝ているような、とても近くにいるような気がしていたから…。
ーうーん?あ、私のルーへの思いが、風に乗っていったのかな?
そんな風に、コロンはまた笑う。
私は病にかかったのだ。
私、シスル・ルーノ・イルルは後に眠り病と呼ばれる病気の、記録に残る最初の患者となった。