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夢と秋桜  作者: ゆきわた
8/15

私達は、思い合う

ルーはゆっくりと目を開けた。

とても、穏やかな夢を見ていた。


半分開いたカーテンからは、日の光が燦々と差し込んでいる。

ーあぁ、今日は明るいうちに起きたんだ…。


ルーがそう呟くと、後でカタンっと音がした。


寝返りをうってそちらを向けば、コロンが本から顔を上げてこちらを見ている。


ー ルー…、あぁ、ルー、おはよう。

少し、安堵した表情なのは、見間違いではないだろう。


コロンを見たのはいつぶりだろうか。

いつもは、夜に起きることの方が多いから。

最後に彼女と会ったときよりも、髪も長くなっているようだ。


ー身体の調子はどう?

コロンはそう言いながら私の頬に触れる。

温かい。

いや、もしかしたら、私の身体が冷たいのだろうか。


ーまだちょっと、ぼんやりするかも…

はっきりしない頭で、そう答える。


ー起きられる?

コロンが上体を起こした私の腰に、枕をあてがってくれた。


ーちょっと待っててね?今、食べるもの持ってくるから。

彼女が出ていってから少しして、カチャカチャリと鍋や包丁の出す音が聞こえてくる。



私は、何かの病のよう。

でも、医者はこんな病は聞いたことも無いと言う。


身体をベッドから引きずり下ろして立ち上がり、鏡台の前に立つ。

また随分と痩せてしまった。

今度はどれくらい起きていられるのだろうか。

父が帰るまで?

日が落ちるまで?

今日はコロンを見送りたい。


今度はいつ目を覚ますのだろうか。



ーおまたせ。あら?立ち上がって大丈夫なの?

小さな鍋を落とさないように、ゆっくりコロンが部屋に入ってきた。

髪はもちろん、背も伸びたコロンは、女の私でも惚れてしまいそうに綺麗だった。


ー大丈夫だよ、ありがとう。せっかく起きたのに、ベッドにいたんじゃ勿体ないもの。

私は鏡台の前の腰掛けに落ち着く。


コロンは鍋を小さなテーブルに置いて、ベッドの際に腰掛けた。


私は腰掛けをテーブルに寄せて、鍋の蓋を取る。

香ばしいスープの中に、粉を練った団子と小さく切った香草が浮いている。

ーあらコロン?料理なんていつ覚えたの?

茶化すように笑いかける。


ーあなたがいつまでも寝惚けている間よ。私だって、もうお年頃なんだから。

綺麗に成長したコロンは、最近何人かの男性に言い寄られているようだ。



この病はいつからだろう。

思えば、何年も前から兆しはあったように思う。

徐々に徐々に、一度に眠る時間は長くなっていった。



ー今度私ね、お父さんに着いて、ちょっと遠くの街の方まで行くのよ。

コロンの父親は、コロンが育って病弱なのも良くなったために、商人としての仕事を再開しはじめている。


ー街なら、あなたの病も何か知っている先生がいらっしゃるはずよ。


ー街?そんなこと言って、素敵な出会い探しのついででしょ?


ーそのときは、素敵な絵葉書を送ることにするわ。

コロンそう言って笑った。


彼女は、例え素敵な男性とやらがいても、この村に戻って来てしまうだろう

何故だか、私には分かった。


ーところでコロン、あなた私が寝ている間、もしかしてずっとこの部屋にいたの?


ーずっと?確かに昼前くらいからはいるけど…?


ーううん、違うの。何だかあなたが隣で寝ているような、とても近くにいるような気がしていたから…。


ーうーん?あ、私のルーへの思いが、風に乗っていったのかな?

そんな風に、コロンはまた笑う。



私は病にかかったのだ。

私、シスル・ルーノ・イルルは後に眠り病と呼ばれる病気の、記録に残る最初の患者となった。



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