彼女
今日は珍しく晴れている
シスルは市場の中を歩きながら考えた。
この村は、雪が降るか曇っているかのどちらかで、晴れ間を覗かせることなどシスルが訪れてからはほとんど無かった。
今日は冬の間一度だけ行われる市の日だそうだ。行商人も多く…はないが、やってきて、店を構える。
残りの冬を越えるための必需品を買うために、村人もほとんどが集まっている。
とんっ
シスルが毛布の売買をしている村人たちを眺めていると、背中に何かがぶつかった。
「す、すみません! 」
荷物を抱えた少女がそこにいた。
どうやら腕からはみ出た根菜の束が当たったようだ。地面にちらばってしまっている。
落ちた野菜を拾っていると、彼女が話しかけてきた。
「すみません、手伝って貰っちゃって…。あの、旅の方ですか?」
私は、旅の僧であることを説明した。
「そうなんですか、大変ですね…」
そう言って彼女は立ち上がろうとした…そして、崩れ落ちるように倒れこんだ。
「本当にすみません…」
彼女がまた謝った。
彼女――アニモニというそうだ――が倒れたとき、助ける者はおらず、皆遠巻きに眺めるだけだった。
そんな光景をいぶかしく思いつつもシスルが処置しようとしたときに、彼女の弟、ロトスが飛んできた。
「姉を…ありがとうございます。」
ロトスは深々と頭を下げた。
ようやく火の大きくなった暖炉から離れて小さくため息をつく彼の顔には、影がちらついている。
村から離れた、森の中にアニモニ達の家はあった。
どうやら、狩猟を中心に暮らしているのだろう。
室内を見渡せば、猟銃や鉈、毛皮に干した野草が目に入る。
どこか、懐かしさを感じさせるような部屋だ。
「私は昔から体も弱くて…でも今日は市場でしょう?どうしても買い出しに行っておきたくて…」
アニモニは頬に手を添えながらそう言った。
「だから俺が行くと言ったのに。シスルさんがいてくれたから良いものの、もし村の奴らとなにかあったらどうするんだよ!」
ロトスは険しい顔をして姉を叱る。
「あの…見たでしょう?」
私は小さく頷く。
「僕らは…その…厄介者、だそうです。」
「村の外れに、人目につかないように暮らして…。」
ただ、倒れた人に近づきもしないというのはどういうことなのだろう、そう考えていると、ロトスも察したのか話を続ける。
「僕らが…いや、正確には僕らの母が、この村に眠り病を持ち込んだ…そうなのです。」
「そのため、僕らに触れば病が移ると…。そんなことないのに。」
彼は歯をきつく食い縛る。
アニモニは諦めたように、寂しそうに微笑んだ。