眠り病
「以上で、祈りの儀を終えました。この家に神の祝福のあらんことを。」
シスルは、村長の家を含む何件かを、旅の僧として訪ね歩いた。…眠り病の患者に会うのに、これほど都合のいい言い訳はない。
僧は、旅をしながら家々を訪ね、祈りを捧げる。そしてその代わりに施しを受けてまた旅に出る。
シスルは祈りを捧げるふりをして患者に会い、他の眠り病の情報を得ていた。
…こんな田舎では僧も喜ばれはしない。が、シスルは施しを受けとっていなかったので、村人もただなら、と、簡単に相手をしてくれる。
治療法の無い病だ、少しでも何かにすがりたい気持ちはあるだろう。
シスル自身、彼女を探している間…探すためならば、施しなど必要ない。
眠り病…眠り姫の呪いとも呼ばれるらしいこの病気は、気付かないうちに感染し、ゆっくりと身体を蝕んでいく。
始めのうちこそ、少し眠りが長くなる、深くなる程度のことで、発症したことにも気付かれない。
徐々に眠る時間が長くなり、段々と起きている時間の方が短くなる。
症状は眠ってしまうだけ。熱もなく、痛みもなく。
そして最後は、眠るように死んでしまう。
ただ、治療法が見付からないことと、発症から死に至るまでが長い――およそ5年から長い場合60年まで。人によっては先に老衰によって死んでしまう――ため、患者の数に比べてあまり重大視されていない。
ある意味、諦めのつく病気なのだ。
患者を訪ねていけば、彼女に会えるかもしれない…そう考えて旅をするシスルだか、簡単にはいかない。
「今日はもう、宿に帰ろう…」
雪がしんしんと降っている。
どこか遠くで鹿の声が聞こえた。