大切な時間
かちゃり、と扉の開く音でコロンは目を覚ます。
ーあらルー、いらっしゃい。
ルーは少し暗い表情をしている。
ー秋桜の花、皆萎れてきちゃってたの。
そんな言葉に、コロンはつい笑ってしまう。
秋桜の花を見つけてからこちら、私を尋ねる度に摘んでくるルー。
沢山咲いている土手があるの!と身振りを交えて話すルー。
なるほど、今日落ち込んでいるのも納得できる。
ーまた来年、咲くのを楽しみにしようね。
そう言って頭を撫でる。
黒い髪が日の光にきらきらと輝いている。
ルーと私はそんなに歳も違わないはずなのに、妹のようでこんなにも愛おしい。
ーコロン、今日何か機嫌いい?
ルーが不思議がる。
ー ルーが来てくれる日を、私はいつだって楽しみにしてるの。
ルーは沢山話を聞かせてくれる。
私の代わりに、沢山のものを見てきてくれる。
あなたのためなら何だって出来る、そんな気持ちにもなれる。
…実際は出歩くことさえままならないのだけど。
ルーの話は聞き飽きることがない。
柿の実をめぐって、近所の男の子とケンカしたとか、最近寝付きが良くなってお母さんに誉められるとか。
私は私で、昨夜見た夢の話とか、本で読んだ物語を話す。
ここのところ、身体の調子が良いのもルーのおかげな気がする。
病は気から、だしね。
そうしているうちに日が落ち始めてしまう。
また、あなたが元気よく扉を開けてくれますように。
そう願いながら、コロンはルーを送り出す。