雪の村
雪のしんしんと降る中、彼女は進んでいた。
ーこの村に、あの子はいるのだろうか…
そんなことを思いながらブーツで雪を踏みしめて行く。
彼女の名はシスル。
長い間、親友を探して世界中を旅している。
ーここにももしいなかったら…
一瞬、もう休もうか、なんて思いが頭をよぎる。
シスルは小さく頭を降って、もう一度前を向く。
首元に切り揃えられた黒い髪が、濡れて頬にへばりつく。
ー彼女との約束を、最後の約束を、守ってあげたい。それが私に出来る唯一の…
…とりあえず宿を探そう。
それからゆっくり調べればいい。時間ならいくらでもあるのだから。
小さな宿に入る。
「すみません、しばらくここに泊まりたいのですが…」
「この時期に珍しいね。まぁ、人が来るのは有難いことだが。」
暖炉の前でくつろいでいた主が答える。
「部屋なら空いてるよ、好きなだけいるといい。」
荷物を下ろし、帳場へ戻る。
宿の主に尋ねる。
「少しお聞きしたいのだけど、この村に、例の病にかかってる人はいる?」
これから冬が深くなる。行商の者も少なくなり、暇なのだろう。主はすすっていたお茶を置いて答える。
「病…?あぁあれか。眠り姫の呪いだろ?」
眠り姫の呪い…いつの間にかそんな洒落た呼び方をされている。
学者の間では眠り病と呼ばれるその病気は、100年ほど前に発生し、瞬く間に広がった。
「かかっている人間ならもちろんいるが…なぜそんなことを?」
今では10人に一人はかかっていると言われる眠り病
。
主が不思議がるのも無理はない。
「あんたもしかして医者かい?」
シスルは首を横に降る。
あれに、治す術なんてない。
「街じゃ、相当流行っているみたいだがねぇ」
一昨日まではその街にいたのだ、もちろん知っている。
でも、その中に彼女はいなかったのだ。
街に一番近いこの村なら、もしかしたらと思いこうして訪れた。
「何でもいいさ。」
主はまたお茶をすする。
「何か聞きたきゃ村長のとこにでも行くといい。…あぁ、そういややつのとこの娘も、眠り病だったかな。」
そう言うと主は暖炉に向き直る。
シスルは礼を言うと、部屋に戻った。
明日早速、村長のもとへ行ってみよう。