夢の中の彼女は
「久しぶり、ルー」
彼女の唇が静かに開く。微笑みながらこちらを見つめる彼女に、私は答える。
「うん、久しぶり。コロン。」
日の光を纏うかのようにきらきら揺らめくその髪は、昔のまま、変わることなく私の目を引き付ける。その瞳に私の心は吸い込まれる。
次の言葉が探せない。言いたいことは山ほどあったはずなのに。
コロンは、ベッドの上の彼女に目を落とす。私も釣られて彼女の視線を追う。
ベッドに寝ていたのは、アニモニだった。
「この子は、あの人によく似ているわ。とても優しくて、温かい子。」
そう言うとコロンは、少し申し訳なさそうに彼女の頬を撫でる。
「なぜ……今までアニモニの夢にあなたはいなかったのに。」
私はようやく言葉にだす。
「今まで夢の中に、コロンのことは感じてはいても、会えたことはなかったのに。それが、なぜ?」
「いつもは私、できるだけ彼女の表層には出てこないようにしていたの。だけど今、アニモニはいつもより少し深く眠っているの。夢の中ですら眠ってしまうほどに。だからこうして出てこざるを得なくなってしまったの。」
そう言いながらコロンはこちらに向き直る。
「私はね、この子のことをとても大切に思っているわ。小さいころから見てきているこの子に、少しでも幸せな時を過ごしてほしいの。」
「コロン、あなたをずっと探してた。」
目を伏せながら私は言う。
「私もアニモニのことは大切よ。でも、それでも私はあなたを……。」
「それ以上言わなくていいわ、ルー。」
コロンが私の言葉を遮る。
コロンはベッドの縁から立ち上がり、私の方に歩みを進める。すぅっと伸ばされたその右手は、私の左耳を掠めて背中へと回された。
「この子もね、はっきりとではないかもしれないけれど、分かっているから。良くも悪くも、この子の命を握る私の存在を。」
目の前で揺れる彼女の髪は、甘すぎない、心地よい香りがする。
「アニモニにとっては私は勝手な女だけれど……もしもその時が来たなら絶対立ち止まらないで。そうでないと、私はあなたを嫌いになってしまうかもね?」
私の背中で、彼女の腕がぎゅっとしまる。
「私は……」
何か返さなくては、そう思いつつも、やはり言葉が出てこない。
「いいの、ルー。いいのよ。でも、次に会う時には……私を殺して。」
私は、すっ、とアニモニから手を離す。
夢の中での彼女の温もりを、私の心がまだ覚えている。彼女の香りも、柔らかさも。
自分の右肩にそっと手をあてると、少し、湿っているような気がした。彼女の思いを、すべて受け止めたような温かさだった。
アニモニの目が覚めたのは、それから数日後のことだった。




