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夢と秋桜  作者: ゆきわた
11/15

再会

私が彼女を探すとき、私は人の夢に入る。

眠り病で寝ている人々の夢には、必ず彼女の一部が感じられるから。

眠りに落ちた病の人に触れて、夢の中を垣間見る。

それだけが彼女の探し方。


 以前、アニモニが寝ているときに彼女の夢を覗き見たことがあるけれど、そこに彼女の姿はなかった。

姿はなかったけれど、どこかが他の人とは違う。

それが何なのか、もしかしたら彼女を見つける手掛かりになり得ると思い、私はアニモニ達の言葉に甘えて、ここに留まることにした。




「あっつぅいお茶、入ったけれど飲む?」

すでに注がれているカップを差し出しながら、アニモニが微笑む。

「ありがとう」

そう私はつぶやくと、一口すする。たしかに、淹れ立てのお茶は熱い、けれど、舌を少し火傷しながらももう一口。


ロトスは今、三日ほど前に仕掛けた罠を見て回っている。

アニモニは暖炉の前で、春に向けてロトスの傷んだ服を繕っている。



「はぁ、早く暖かくならないかしら。」

不意にアニモニが口にする。

私は彼女を手伝って繕っていた布地を膝におろして、また一口お茶に口を付ける。

「早く春になって、日差しの下でお弁当なんて広げたら…あぁ、素敵ね」

「そうね、きっとアニモニの作るお弁当は美味しいだろうね。ロトスは、こんな姉さんがいて羨ましい。」

「うふふ、私は、ちょっと体が弱いだけの最高のお姉さんを自負しているわよ。」

そういってアニモニは楽しそうに笑った。

そんな何気ないやりとりに、なんとなく懐かしさを覚える。


「シスルには、お姉さんとか、ご兄弟はいらっしゃらないの?」

少し、おそるおそるではあるものの、興味深げな顔で彼女が聞いてくる。

「私は…一人っ子だったから。でも。」

一つ息を吐く。

「姉妹というか…家族のように大切は人ならいたよ。」

かけがえのないその人が。


「そうなんだ。」

それ以上のことは彼女は聞いてこない。

わけあって一人、旅をしている私を気遣ってのことだろう。


「私はね、今もそうだけど、小さい頃はもっと体が弱くてね。いつもロトスに助けてもらってた。」

「本当はロトスには、もっと自分のために生きていって欲しいのだけれど。」

少し間が開いて、彼女は続けた。

「でも、私が私を疎かにすることを、彼は絶対に許さないから。とても悲しんでしまうだろうから。彼のためにも、私は何よりも自分を大切に生きたいの。」


 ぎぃ、と音を立てて扉が開いた。

雪を肩に積もらせたロトスが、白い息を吐きながら入ってくる。

「いやぁ上等上等。ウサギが二羽もかかってた!」

そう言って笑う彼を、アニモニは優しく見つめていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 外では雪が強くなってきている。

アニモニは熱を出して、寝込んでしまっていた。

「ごめんね」

彼女は、うまく動かないらしい体を必死で起こそうとしながら言った。

「いいから寝てろって。でも久々だな、ここまで寝込むのも。」

湿らせた布巾でアニモニの汗をふきとりながら、ロトスが答える。

「最近は持病も、眠り病の方も、少し落ち着いてきてたから…。」

「シスルが来てから、張り切りすぎちゃったのかも…。」

「ちょっと…眠くなってきたから…少し寝るね…。」

アニモニはそう言って寝息をたてはじめた。

ロトスも姉が寝て少し落ち着いたのか、欠伸をしている。

「シスルさん、すみません。俺も少し休んできます。」

そう言ってロトスは奥の

部屋へと入っていく。

無理もない、アニモニの看病で、ここ数日ろくに休んでいなかったのだから。


 私はアニモニの顔を覗き込む。

寝息が顔にかかり、くすぐったい。

「何かが…何だろう…。」

いつもと違う。眠り病で寝ているときとも、何かが違う…。


 すっ、と彼女の額に掌をかざす。

ゆっくりと目を閉じて、呼吸も深く深く。

アニモニの夢の中へ。




 辺りは一面に草木の茂る丘だった。

一つ、より小高くある丘に、ねじれるように枝葉を伸ばした立派な木が立っていた。

そのふもとに誰かがいる。


 少し歩くと、なんとなく形が見えてきた。

木陰に、ベッドが置いてある。そこに腰かけた「誰か」が、ベッドの中の「誰か」に何やら歌を歌っているようだ。


 さらに歩を進める。

あぁ、やっぱり。

私は、止めて!と叫んでいるかのような足を、右よ左よと無理に動かして進む。


「久しぶり、ルー。」

薄い桃色の唇が動く。

木漏れ日に揺れる、金色の髪。


彼女が、そこにいた。

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