再会
私が彼女を探すとき、私は人の夢に入る。
眠り病で寝ている人々の夢には、必ず彼女の一部が感じられるから。
眠りに落ちた病の人に触れて、夢の中を垣間見る。
それだけが彼女の探し方。
以前、アニモニが寝ているときに彼女の夢を覗き見たことがあるけれど、そこに彼女の姿はなかった。
姿はなかったけれど、どこかが他の人とは違う。
それが何なのか、もしかしたら彼女を見つける手掛かりになり得ると思い、私はアニモニ達の言葉に甘えて、ここに留まることにした。
「あっつぅいお茶、入ったけれど飲む?」
すでに注がれているカップを差し出しながら、アニモニが微笑む。
「ありがとう」
そう私はつぶやくと、一口すする。たしかに、淹れ立てのお茶は熱い、けれど、舌を少し火傷しながらももう一口。
ロトスは今、三日ほど前に仕掛けた罠を見て回っている。
アニモニは暖炉の前で、春に向けてロトスの傷んだ服を繕っている。
「はぁ、早く暖かくならないかしら。」
不意にアニモニが口にする。
私は彼女を手伝って繕っていた布地を膝におろして、また一口お茶に口を付ける。
「早く春になって、日差しの下でお弁当なんて広げたら…あぁ、素敵ね」
「そうね、きっとアニモニの作るお弁当は美味しいだろうね。ロトスは、こんな姉さんがいて羨ましい。」
「うふふ、私は、ちょっと体が弱いだけの最高のお姉さんを自負しているわよ。」
そういってアニモニは楽しそうに笑った。
そんな何気ないやりとりに、なんとなく懐かしさを覚える。
「シスルには、お姉さんとか、ご兄弟はいらっしゃらないの?」
少し、おそるおそるではあるものの、興味深げな顔で彼女が聞いてくる。
「私は…一人っ子だったから。でも。」
一つ息を吐く。
「姉妹というか…家族のように大切は人ならいたよ。」
かけがえのないその人が。
「そうなんだ。」
それ以上のことは彼女は聞いてこない。
わけあって一人、旅をしている私を気遣ってのことだろう。
「私はね、今もそうだけど、小さい頃はもっと体が弱くてね。いつもロトスに助けてもらってた。」
「本当はロトスには、もっと自分のために生きていって欲しいのだけれど。」
少し間が開いて、彼女は続けた。
「でも、私が私を疎かにすることを、彼は絶対に許さないから。とても悲しんでしまうだろうから。彼のためにも、私は何よりも自分を大切に生きたいの。」
ぎぃ、と音を立てて扉が開いた。
雪を肩に積もらせたロトスが、白い息を吐きながら入ってくる。
「いやぁ上等上等。ウサギが二羽もかかってた!」
そう言って笑う彼を、アニモニは優しく見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
外では雪が強くなってきている。
アニモニは熱を出して、寝込んでしまっていた。
「ごめんね」
彼女は、うまく動かないらしい体を必死で起こそうとしながら言った。
「いいから寝てろって。でも久々だな、ここまで寝込むのも。」
湿らせた布巾でアニモニの汗をふきとりながら、ロトスが答える。
「最近は持病も、眠り病の方も、少し落ち着いてきてたから…。」
「シスルが来てから、張り切りすぎちゃったのかも…。」
「ちょっと…眠くなってきたから…少し寝るね…。」
アニモニはそう言って寝息をたてはじめた。
ロトスも姉が寝て少し落ち着いたのか、欠伸をしている。
「シスルさん、すみません。俺も少し休んできます。」
そう言ってロトスは奥の
部屋へと入っていく。
無理もない、アニモニの看病で、ここ数日ろくに休んでいなかったのだから。
私はアニモニの顔を覗き込む。
寝息が顔にかかり、くすぐったい。
「何かが…何だろう…。」
いつもと違う。眠り病で寝ているときとも、何かが違う…。
すっ、と彼女の額に掌をかざす。
ゆっくりと目を閉じて、呼吸も深く深く。
アニモニの夢の中へ。
辺りは一面に草木の茂る丘だった。
一つ、より小高くある丘に、ねじれるように枝葉を伸ばした立派な木が立っていた。
そのふもとに誰かがいる。
少し歩くと、なんとなく形が見えてきた。
木陰に、ベッドが置いてある。そこに腰かけた「誰か」が、ベッドの中の「誰か」に何やら歌を歌っているようだ。
さらに歩を進める。
あぁ、やっぱり。
私は、止めて!と叫んでいるかのような足を、右よ左よと無理に動かして進む。
「久しぶり、ルー。」
薄い桃色の唇が動く。
木漏れ日に揺れる、金色の髪。
彼女が、そこにいた。




