最後のメモ書き
短い時間の中で、健人にとって小さな猫の存在は大きかった。健人の中で特別な存在になっていた。
『猫、お前がいなくなったら。』泣きながら猫を強く抱きしめる。
一人になってしまった健人。何も考えられず辛かった事がまた蘇った。
『父親にも、母親にも捨てられたし由眼にもふられた。猫も自分のせいで亡くなった。もう居場所なんてないんだな。辛い、苦しい嫌だ嫌だ嫌だ。もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。』健人の心が崩れ精神が不安定になってしまった。慌てて健人は、トイレにこもる。精神的なダメージか吐き気が襲う。しばらくトイレから一歩も出られなかった。
『もう辛い。助けて。嫌だ辛い。辛いのは嫌だ。』抱え込んでいたことが体に影響してきたのだった。健人の体も心もボロボロだった。
生きている意味を考え始めてしまった。
『誰にも必要とされてない。誰にも助けてもらえない。一人だ。一人なんだ。だからいらないんだよ。じゃあ生きる意味もないさ。なんでいるんだよ。死にたいよ。こんな辛いなら居たくない。苦しいならもう嫌だ嫌だ。嫌だ。』トイレにこもっていた健人の目の色が変わっていた。どこを見ているのかわからない。健人は、トイレのドアを開け玄関へと向かう。
玄関には、亡くなった小さな猫を拾い上げて靴を履き外へ出て行った。
小さな猫を抱きしめ、健人が向かうのは学校であった。
綺麗な夕焼けも健人には見えていない。通り過ぎる通行人は、健人をみてみぬふりをしていた。
健人のふらふらな状態を見ても気にもしないようだった。
『やっぱり、必要ないんだよ。』ふらふらと歩きながら一歩ずつ前へ進む健人に生きる希望は消えていた。
足を止めない健人の前には学校が見えていた。学校が地獄の入り口かのように暗い。
それでも、健人は足を止めず学校に入り上へ上へと登って行った。
こんなとき、学校の先生がいたら健人は足を止めて逃げていただろう。
一番上へ上がり、屋上の扉を開けた。
扉を開けると、風が健人を襲う。体に冷たい風が当たる。歩いていた時は、まだ夕焼けが見えていたが今は暗く寒さがましていた。
『ここは、一人の自分にとっていい場所だ。もう自分は、辛い思いをしない。だって死ぬんだから。』抱っこしていた猫を屋上におろし、健人の上着を被せた。
健人は、前へ前へ進み段差を登って行く。
『猫。お前と一緒の所へいけるかな。一人は、やっぱり嫌だよ。』
健人は、景色を見ながら足を止めることはなかった。
健人は、屋上から飛び降り、小さな猫に会いに行ってしまった。
屋上に残された小さな猫は、健人の自殺を調べいた時に見つかった。
その猫を見た時、涙が出ていたようだったという。
上着の中から、メモ書きが発見された。
メモ書きには、猫への感謝が書かれていた。
【ありがとう小さな猫。特別な存在。健人】
矢東健人は、今猫と同じ場所でいるだろう。小さな猫を探してさまよっているのだと思う。孤独が嫌いな少年であった。




