幼馴染
「もう、二年になるのか……」
俺は山道を登りながら思い出すかのようにそう呟いた。
二年前、俺の幼馴染である川崎 杏が死んだ。
死因は事故死、信号無視をして突っ込んできた車から俺を庇ってのものだった。
その日、俺と杏は喧嘩をしていた。
本当に些細な事だった筈だ。
筈と言ったのはその喧嘩の内容を俺が思い出せないのだ……というよりその日の事を思い出そうとすると頭に激痛が走る。
だから俺はその日の事を断片的にしか覚えてない。
一年前、俺の両親にその日何があったか聞いてみたがどうやらその日、杏子は俺にプレゼントを渡すつもりだったらしい。
多分、そのプレゼントが原因で喧嘩になったのだろう。
杏の両親にそのプレゼントの事を聞いたら分かるのだろうが俺に杏の両親に会う度胸なんてない。
杏は俺を庇って死んだ……俺が死んでれば杏は死なずに済んだんだ。
……あいつの両親に顔向け出来るわけないじゃないか。
今日は杏の祥月命日だ。
だから俺は杏の墓へ向かっている。
時刻は朝の五時、杏の両親に会わないようにする為にこの時間に来る事にした。
「掃除がしてある……」
最近誰か来たのだろうか?綺麗に掃除がされている。
陽の両親が来たのだろうか……だがそれにしては少し妙だ。
掃除はどう見ても最近されたものだった。
今日、何か用事でもあって来られなかったのだろうか。
「まあ、いいか」
蝋燭に火を灯し線香に火を移す。
杏の好きだった。勿忘草という花を持ってきた。
杏は花が好きで俺によく花言葉とかを教えてくれた。
俺はあまり興味がなく適当に聞き流してたりしていたが杏が花の事を話す時はとても楽しそうだったのは覚えている。
確か勿忘草の花言葉は真実の友情と誠の愛だったかな。
この花は私の気持ちって言われた時は誠の愛の方と勘違いをして恥をかいたのも今はいい思い出だ。
……なあ、杏 俺ってやっぱ杏が居ないと何も出来ないんだなって杏がいなくなってから初めて分かったんだ。
お前と登校したり勉強したりするなんてことない日常が俺は大好きだった。
出来ることならいつまでもお前と……杏と一緒に居たかった。
俺は異性として杏の事が好きだったんだこんな事ならもっと正直になるべきだった。
「いなくなってから本音を言うなんてずるいよな……」
何を問いかけようがもう言葉は帰ってこない。
そんな事は分かっている。
どんなに悔もうが泣き叫ぼうが杏は帰ってこないだからこそ俺は受け入れないといけない。
俺は杏が死んでから抜け殻ような毎日を送っていた。
杏が死んだことを受け止められないでいた。
だけど受け入れる決心をした。
なあ、杏 お前がいなくなって俺は大変だったんだぜ。
荒れに荒れてさ……そんな時、妹が俺に言ったんだ。
杏さんの気持ちも考えてあげて下さいってあいつが泣きながら俺にそう言ったんだ。
その時、初めて気が付いたんだ 俺はどうしようもない馬鹿だって事にな。
西野のやつにも殴られたよ 知ってるだろ俺の友人の西野。
俺が久しぶりに登校してその帰りにさ あいつに思いっきり殴られた。
どれだけ心配掛けたのか分かっているのかって。
俺は杏が好きだった誰よりも好きだった自身がある。
照れくさいけどさそれが本心だ。
でもいつまでも歩みを止めてちゃ駄目なんだ。
お前の為にも俺の為にもだから今日、お前に全部伝えた。
俺は前に進むよ。
だから杏……俺を見守っていてくれ。
どこかで杏が笑っている気がした。