個別面談 (2)
二回連続でちょっと短めですが、さすがに二キャラ分を一気に書いてまとめて投稿するには私が遅筆すぎて間に合いません。次はディランとソラどっちにしようかな……?
平和な街道行路の二日目。
今日はグレンの訓練に付いててやる。
朝、そう言ったらグレンは頬を赤らめた。
昨日の何を思い出してそういう反応に至ったのかは知らんが、カーライルとお前では練習メニューが違うからな?
「そら、これくらい避けれないと戦場では一分と待たずに死んでしまうぞ」
「いてて! 痛い、痛いって!」
グレンを拾った木の枝で叩きながら追いかけまわす。もちろん山賊以上、騎士団以下くらいまで手加減してるのだが、ところどころ避けそこなって情けない悲鳴を上げている。
グレンの魔術の腕前は一級品だ。少なくとも傭兵時代に敵味方含めてあれほど精密で素早く魔術を行使できる人間は見たことがない。
なので、こいつに必要なのは仲間に頼らない自衛手段だ。
本人もそこは自覚があるみたいで、以前から軽く練習はしていたらしい。
そこで、俺は魔術使用禁止の状態で回避する特訓をさせている。
「くぅ、せめて身体強化とか風壁くらい使わせてくれれば僕だって……!」
「だーかーら、この程度の攻撃にいちいち魔力使ってたんじゃ魔族じゃないんだからすぐに力尽きちまうだろ? だいたい、いくらヒョロくてもグレンと俺なら筋力も体力も大差ないんだから無理なレベルじゃないんだぞ」
「いてっ! 分かったけどもっと手加減を……」
「もうしてる! 痛い方が体が覚えるからな、いっぱい味わっとけ。ほらもっと最低限の動きで躱すんだよ、逃げ過ぎだ」
「うわぁぁ、なんで僕だけこんな厳しいんだぁぁ!」
朝っぱらから変な想像したからじゃないか?
まあしてなくても訓練内容は変わらんが。
夜、基本的に野営での睡眠は二人と三人に分かれて、交代で見張りを行う。
眠気覚ましに淹れた紅茶をカップに注いで、片方をグレンに差し出す。
「飲むだろう? 蜂蜜入れるか?」
「いや、僕は甘いのは苦手だ」
「そうか……」
俺はリゲル村でもらった蜂蜜を紅茶に少し垂らして、瓶の縁に付いたのを人差し指で拭って蓋を閉じる。
「なあ、僕らの勘違いでなければツバキの体は女性だと思うのだが、もしかして性同一性障害なのか?」
「ん? よくそんな病名まで知っていたな。医学は専門外だろうに。っと、そういえばちゃんと説明していなかったか。俺は正真正銘男だったんだがな、小柄で女顔だったせいで聖女として信仰されてしまったんだ。おかげで神力の影響で体が女になってしまったわけだ」
「そんなことが起きるのか。神力を纏う事例なんて少ないし、ツバキみたいなイレギュラーな事態は多分はじめてだから興味深いな」
知的好奇心を惹かれたのか、グレンが思案気につぶやく。
俺は軽くカップの中身をかき混ぜながら説明を続ける。
「さすがに精神にまで変調をきたしてはいないが、生理的な反応だとかは引っ張られてるな。俺も昔は甘味なんて別段好んでいなかったんだが、体が求める物も変わってしまったらしい」
そう、味覚とかもけっこう変わってきている。俺は人差し指に付いている蜂蜜を舐めて思わず目を細める。
「~~~っ!」
「ん? どうした、火傷でもしたか」
顔を上げるとグレンがびくりと体を跳ねさせて顔を赤くさせていた。
「わ、わざとじゃないんだよな……?」
「何を言ってる?」
思わず首を傾げる。
「いや、なんでもないんだ……うん」
「まあいいが。それより今度はお前のことを聞かせてくれよグレン。ソラとはどういう経緯で?」
「ああ、僕がソラと会ったのは魔法学院でね。僕は商家の三男坊だったんだが昔から体が弱いけど魔術の才能があったみたいで、ご存じの通り魔術師と言えば就職先は軍事関係だとかばっかりだから、両親は当然僕の才能をあまり歓迎はしていなかったし、兄さんたちも僕を見下していたのさ」
魔術は才能に完全に依存して、使えるかどうかが分かれる。だから魔術師であるというだけで一種のエリートみたいなものなのだが、生まれた家によっては歓迎されない場合もあるな。
兄弟からは嫉妬の感情もたぶんあったのだろう。
「まあそれで僕は家族を見返してやりたくて学院でひたすら魔術の修行と勉強に打ち込んでいたんだけど、成績は良くてもやっぱり周囲との関係を顧みなかったせいで孤立してたんだ。そんなとき、学院にソラが魔術を習いに来たんだ」
なんでも勇者候補で基礎は分かっているから入学するわけじゃなく、短期間でみっちり教えてくれる人間を確保しに来たらしい。
国のバックアップがあるとそんな融通まで効かせてくれるんだな。
「僕に白羽の矢が立ったのは、半分は厄介払いだったんだろうけど今では感謝してるよ。最初は嫌々だったけどソラと会って話して、自分が今までいかに小っちゃいことにムキになっていたか気付いたんだ」
ちょっと恥ずかしそうに、眩しそうに言うグレン。
うーん、まあたしかに周囲を見返す事よりも平和のためにっていう方が、スケールも大きいし立派な気がする。
でもなぁ。
「いいんじゃないか、別に小っちゃいなんて思わなくても。男として生まれたからにはやっぱナメられっぱなしじゃあ嫌だろう。ソラの目的を崇高だと思って付いてくのもいいけど、ついでに今まで見下された分を見返せるように頑張ればいいだろ。勇者ソラを支えた大賢者グレン! みたいに歴史書に名を残す感じで」
そう言ってやると、グレンは目を瞬かせて微笑う。
「そんな俗っぽい感じの言葉が聖女さまの口から出たなんて聞いたら信者たちはなんて思うかな」
「はっ! 俺が人死にを嫌うのは別に博愛主義とかそういうんじゃなく、ただのワガママだからな。勘違いしたい奴には勘違いさせてやってるが、もともと俺は俺の狭い了見で好き勝手してる。噂みたいな聖人じゃない」
「あー、噂と大違いなのはここ数日でよくわかったさ。噂通りなのは見た目と癒しの力だけだよな」
「その通り。神力は信仰で出来てるからな、そこは噂からブレないってわけだ」
二人で笑って紅茶を飲む。
こいつ取っ付きづらそうな見た目なのに話し易いな。
「よし、グレンの男としての尊厳を保つためにも、明日からさらに厳しくいくぞ」
「う、それはもう少しお手柔らかに頼む」
知らん。男なら泣き言なんぞ吐かずに食らいつけ!
俺の無くした男らしい見た目をお前はまだ持ってるんだからな。