個別面談 (1)
ちょっと短め。無口キャラに饒舌に語らせるわけにもいかないので悩みますね。
昨夜の酒宴は村人総出での歓待となり、かなり盛大だった。
まあこちらのメンツがいい男揃いなので村中の女性が代わる代わるお酌しに来てくれて、羨ましいったらないな。
それに引き替えこっちは男連中から向けられるねっとりした視線に聖女スマイルで応対しながら、深酒しないように適度にあしらってだ。
世の中不公平だな!
まあ女慣れしてないグレンやディランはお姉さん方のおもちゃで、ソラは酌を断れずに呑まされまくって青ざめてたから役得とまではいかんかもしらんが。
ひとり涼しい顔でペースを乱されることなくお酌されていたカーライルは、酒場に居座る闇ギルドの顔役みたいで絵になっていた。やや無口なくせにコミュ力高いよなコイツ。
「さて、朝にお話しした通り、予定では次に宿場へ辿り着くのが五日後です。何事もない平和な道のりかと思いますが、体力に自信のある皆さんには馬を休ませる間だけちょこっと稽古をつけてあげましょう」
晴天の街道。見渡す限りの平原にはところどころ花畑や林が並び、微かに爽やかな香りが春風に乗って鼻孔をくすぐっている。
ぽっからぽっからとリズミカルに鳴る蹄の音が、どこからか響く鳥の囀りに拍子をつける。
たまらなく牧歌的な景色の中、二日酔いに苦しむソラとグレンはうめき声しか返さない。
それを横目で見て軽く鼻を鳴らしてから、ディランが疑問の声を投げかけてくる。
「アニキ、稽古って何をするんだ?」
「ん~、まあディランにたまにやってる事と同じだな。俺が気になった悪い部分を指摘しながら反復練習させるだけ」
人目がないので素の口調で、今後の各自が気を付けて鍛えていくべき要素を説明しておく。
昼休憩のときからさっそく自主練させて、ひとりずつ見ていく。まずはカーライルからだな。
カーライルは小器用だし機転も利くが、おそらく武術的な鍛錬を積んだことがないのだろう。動作が素人の域を抜けていない。
「そうだ。力の流れを意識しろ。そう、手を引っ張って……どこに負荷が掛かっているか分かるな? こら顔を逸らすな集中しろ集中!」
ゆっくりと組み合ったり武器を取り廻すときの動作を反復させて、掛けた力が余計な方向に流れないように姿勢を矯正してやる。
男と体をくっつけての指導なんぞさっさと終わらせたいのだから集中してほしいものだ。
昨夜は平然としていたから女に耐性はあると思っていたのだが、意外と余裕なのは表情だけで触れられたりすると緊張してしまうのかもしれない。
「ああもう、胸があたってるくらいで背中を緊張させるんじゃない! 俺は男だぞこの野郎!」
「……っ、すまん」
「なんだかツバキさんは変なことを言ってないだろうか? 男に胸があるわけない……よね?」
「なんだソラ、二日酔いが収まったんならお前も言っておいた通りに自主練しとけよ! こちとら見せ物じゃないぞ!」
「うぅ、すみませんまだ頭痛いんで怒鳴らないで……」
まあそんなこんなで一日目は予定より進んだ距離が少し短いけど、日が暮れた頃に野営の準備をして腰を落ち着ける。
見晴らしのいい場所で焚き火を囲めば、普通の獣は寄ってこないし奇襲もされづらい。
「ふぅん、器用だなカーライル。仕事は何をしてたんだ?」
捕ってきた野兎を手際よく調理していくのを見て、思わず感心する。
俺も傭兵時代はやっていたが、ここまで上手ではない。長い指が滑らかに動くのはどこか芸術的な情緒がある。
「狩人……それから山賊だ」
少し困ったように答えるカーライル。
そこにグレンが付け加える。
「カーライルは僕とソラが領主に頼まれて討伐に行った山賊の頭領だったのさ。とはいっても、領主の圧政で飢え死にしそうになってた農民を率いて、食料を奪っては配る義賊だったんだけどな」
「あー、昨年の末だったか。勇者の評判と一緒に聞こえてきたなそれ」
隣国での話だからあまり詳細は聞かなかったんだが、胸糞悪い領主の噂。
なるほど、それで実態を知ったソラたちが逆に領主を締め上げてカーライルを仲間にしたわけだ。
「……結果として人を殺めてしまったが、家族を守れたから後悔だけはしていない」
「僕とソラで庇ったんだけど国王さまも無罪放免にはできないと仰って、魔王を討伐してくるまで故郷の地を踏むことは許してもらえないのさ」
まあ、領主に悪いところがあったとはいえ反政府的活動のリーダー努めた人間をタダで許したら権威が落ちるというものか。
しかしグレンは博識なところといい喋りたがりなところといい、解説役が板についてるな。
「偉かったなカーライル。じゃあ早く済ませて家族を安心させてやらないとな」
家族のためとはいえ、ひとりで頑張り続けるのは辛い。少しだけ過去の自分に重ねて同情してしまう。
だから労いながら頭を撫でてやる。ディランたちを疫病から守り切ったときにもし両親が生きていたら、俺が一番欲しかったものだ。
カーライルは少しだけ目を細めて、それからはっとしたように離れる。
「……母さんみたいだなツバキは」
「せめて父さんと言えよ。こう見えて二十二歳だからな、相談ぐらいならいつでも受け付けてるぞ」
「え、ツバキさん年上だったんだ。いやでもたしかに納得いくような色気が……」
「ソラは何を人の顔見て変なこと言ってやがる」
カーライルの全身に刻まれた細かい傷は仲間を守り続けた証なんだな。
こいつとは仲良くやっていけそうだ。
それに技術が洗練されてない割に離れしている雰囲気にも納得がいった。あとは体に正しい動き方を叩き込んでやるだけでいい。
あ、兎汁が美味しい。いい嫁になれるぞカーライル。
口に出したらまた変な話題になるから言わないけどな。
個別と言いつつ口数を補うためにカーライル以外が発言をフォロー。次回はグレンの話。