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陽動作戦

 結局は丸二日かかったが魔獣に遭遇(そうぐう)することなく、俺たちは港湾都市国家ディオールに着いた。

 ソラにとっては二年ぶりの故郷で、複雑な思いがあるのだろう。崖の上から街並みを見下ろす時の顔は表情が抜け落ちたように透明で、何を考えているのかわからない。

 ただ横で(なが)めていた俺の手を、迷子の子どもみたいに(にぎ)りしめて、(かす)かに震えていたのが印象的だった。

 その肩にグレンが手を置く。

 ディランが背中を優しく叩く。

 カーライルが優しげな視線で見つめる。

 トンネルの防備や撤退支援に人数を回しているせいか、哨戒(しょうかい)の部隊は少なく隠密行動は思いの(ほか)順調だ。

 鼻をくすぐる潮風(しおかぜ)が冷たい中、俺たちは最後の作戦確認に移る。


「予定通りに俺とカーライルで陽動(ようどう)を。三人は騒ぎに(じょう)じて王城地下の入口に。中から脱出するっていう装置が使えない場合は考えたくないが、明日の朝になってもお前たちが戻らなければなんとか突破口を作るから無理はせず籠城(ろうじょう)しろよ」

「ツバキとカーライルこそ無理はしないでほしい。たった二人で敵の目を引くのだから」


 内部の構造はソラがしっかり覚えていたのが救いだな。パッと見では建物に手を加えた様子は少ないから王城内の移動には困らなそうだとの事。聖剣封印の間は王城の地下にあり、鍵は王族の血筋。籠城は可能だし海への通路を作る特殊な魔術装置もあるらしい。

 ここからは別行動だ。お互いに心配だろうが信じるしかない。


陽動(ようどう)を終えて首尾(しゅび)よく追っ手を()いたら例の洞窟に行ってるからな。寒そうだしなるべく早く来てくれよ?」


 俺が不安を払うように冗談めかして言うと、ディランも心得たものでニカリと笑って(こた)える。


「任せとけってアニキ。ソラがのたのたしてたらケツを蹴っ飛ばしてやるしグレンが遅れたら(かつ)いでやるよ」

「なんだか私とディランで(あつか)いが(ちが)いすぎないかい?」

「僕は蹴られたらシャレにならないからな」


 ソラも苦笑しながら答えて、グレンは素なのかボケなのか分からないコメントで皆を笑わせてくれる。

 少しだけゆるんだ空気を再度引き()めて、俺たちは(うなず)き合う。


「じゃあ、いこうか皆」

「おう、コソコソするのは(しょう)にあわねぇんだがな」

「了解。そっちの三人は回復できないんだから、特に気をつけろよ」

「大丈夫だ。陽動(ようどう)があるなら僕らの危険は少ない。むしろそちらの方が心配だ」

「……ツバキに無理はさせないから安心してくれ」


 俺は大丈夫だってのに。

 ともあれ作戦開始だ。

 ソラたちが通用門の方へ回り込む間に、俺とカーライルは正門付近の見張りをひとりずつ気絶させて路地裏に引っ張り込む。

 頑丈そうで簡素な装飾の門は、王家の紋章を外されている。内側にある詰所(つめしょ)の中は見えないが、外には二人の衛兵。


「俺が先に右を。見た目で油断してくれるだろうしな。カーライルは直後に左を頼む」

「わかった」


 俺は建物の影から走り込む。一瞬驚愕(きょうがく)に目を見開くが、すぐに笑みを浮かべて槍を構える若い魔族の男。左の中年男性は油断なく槍を構えて誰何(すいか)の声を上げようとするが、後ろに()け込んだカーライルが短剣の柄で後頭部を強打して昏倒(こんとう)させる。

 背後で相棒の崩れ落ちる音を聞いて若者が振り返ろうとするが、俺はその(すき)で鞭を素早く首に巻きつけてやる。声が出せなくなったところでカーライルが同じように頭部を強打して終わり。

 さすがに感謝の言葉も声に出せないのでウィンクして笑いかけると、(うなず)き返してきた。

 やっぱり筋肉量もだけど足の長さが違うよな、こういうのは素直に頼ろう。

 さて、衛兵二人の倒れる音で詰所(つめしょ)から増援が飛び出してくるかとも思ったが、ばれていないようだ。そっと門を乗り越えて窓から(のぞ)き込めば、何事か話し合う男たち。

 俺はカーライルを手で(うなが)して見つからぬように詰所(つめしょ)と本館入口まで近づき、二人で魔動地雷を一個ずつ置く。


『優秀な工作兵がいるんだな。威力こそしばらく動けなくなる程度だが少ない魔力で作られているし材料費も安そうだ。ぞっとしない話だが、これならかなりの数を用意できてるだろうさ』


 分解して仕組みを読み解いていたグレンがそう言っていたので、使えると思っていくつか持ってきたのだ。

 玄関にはこれでいい、俺たちは二階の窓まで壁をよじ登ってガラスを蹴破(けやぶ)り中に入る。

 けたたましい音が響き渡る。どうやらここは談話室らしい。

 今は誰もいないが、音を聞いてこちらに走ってくる足音が五つ。玄関で扉を開けた衛兵が地雷で感電して悲鳴を上げる。


「さて、ここからは派手に行くぞ」

「ああ、とりあえず玉座の間へ向かって、囲まれる前に見切りをつけて撤退だな?」

「うん。無理は禁物だ。行くぞ!」


 タイミングを合わせて二人がかりで扉を蹴破れば、突入しようとしていた魔族が下敷きになり苦悶(くもん)の声を出す。それを踏み越えれば、左に三人。右に一人。

 左に向き直り、背後の足元へ手首のスナップを()かせ無造作にナイフを投げれば、足に刺さってうめき声が上がる。

 同時に鞭で手近(てぢか)な男の手を打ち、長剣を取り落とさせる。

 カーライルが突進してその男を蹴り飛ばせば、一人が巻き込まれてよろける。

 もう一人が剣を突き込むが、カーライルはそれを器用に左の短剣で受け流して右の短剣で両手首を()で切る。

 俺は転倒した男の頭を踏み抜いて気絶させながら、よろけた男の太腿部(だいたいぶ)を抜き放った細剣の刺突で貫く。背後では足にナイフの刺さった男をカーライルが殴りつけて気絶させている。

 たった数秒でほぼ無力化できたが、止まっている暇はない。(せま)い通路で幾重(いくえ)にも包囲されれば(のが)れられまい。


「敵襲! 暗殺者二名が二階談話室より侵入! 応援求むっ」


 男が苦しげに、だが職務に忠実な内容を叫べば遠くから()けてくる足音。

 俺とカーライルは増援が来るより早く廊下を走り抜けていった。

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