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俺には、これといって特徴的なものはないが勉強は誰にも負けない。
国語から科学。果ては、心理学までなんでもござれのスーパーエリートだ。
俺にはこれしかなかったし、他のことに特別興味も持てなかった。
だが、正直なところまだ学習できていなかったことがある。
それは、恋愛ということについてだ。
恋愛ということは、人に恋すること。
俺は、未だに人に恋したことはない。
他人から見たら、真面目に生きすぎた俺の人生には他人というものは受容するものではなく
競う相手でしかなかった。
だから、俺も恋がしたい。悪さはしたくないが、恋はしたい。
「俊、俺に恋愛を教えてくれ」
「どうした? 完全無欠の一ノ瀬輝也の名が泣くぜ?」
この男は、このクラスで唯一俺が認めた男であり悪友でありなんだか分からん。
髪が、茶色という高校生には不適切な髪色をしている社会を舐めているであろうこいつは
なぜか女からモテる。
「俊、知ってるだろ? 俺には学問しかないんだよ」
「まあ、そうだよな。生きてて正直楽しいか?」
「楽しいに決まっているだろ! この世界にはまだ、俺が知らないことがたくさんある。ありあまって、俺がこの人生を終えるまでにきっと学び尽くすことなんかできない! だが、それをどうやって学び尽くすかを。俺は楽しんでるんだよ」
少し引き気味の顔で、俊は俺から遠ざかる。
「お前に恋愛は無理だ、断言してもいい」
肩をポンポンとまるでドンマイというかのように叩かれる。
「くそっ、どうすれば……」
ガラガラ
「はいはい、お前ら席に着けー。ホームルーム始めるぞ」
まだ、話が終わっていないというのに担任の兼山先生が、入ってくる。
こういう時に、先生というのは本当にタイミングが悪い。
「ほら、お前ら。今日は、転校生を紹介する。女子だぞー、男子は喜べ。女子は泣いてろ」
転校生だと。そんなことはどうでもいい。早く、ホームルームなんて終わらせろ。
転校生がその時、入ってきた。
それは、まるで血が通っていないほど真っ白な肌、闇のように吸い込まれる黒髪。
「横山みゆといいます、よろしくお願いします」
声は、程良い高さ。姿勢も良く、おじぎの角度も最高。
「やっべー、カワイイ」
俺の口から漏れたのは、そんな言葉だった。ついつい、漏れてしまった言葉に蓋をするように手で口を押さえる。だが、俺の声は他の男子によってかき消されていたため。誰にも聞こえていない。
「じゃあ、横山さんは真面目くんの隣ね」
「はい」
俺の近くに横山はやってきて、まず最初に。
「これからお願いしますね」
にこりという微笑みとともに彼女、横山みゆという春が俺にやってきたと感じた。