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エピローグ 勝者のいない盤

数か月後。湊は祖母の家で、近所の男の子にチェスを教えていた。

男の子は盤を眺めながら尋ねた。


「ねえ、チェスって、最後に勝つ人がいるんだよね?」


湊は少し考えた。


「そうだね。でも、勝つことだけが大切なわけじゃないよ」

「じゃあ、何が大切なの?」


湊は白と黒のキングを並べた。


「相手のことを知ろうとすることかな。どうしてその手を指したのか、何を守ろうとしているのか」


男の子は、よくわからないといった表情を浮かべつつ、対局を始めた。

駒が一つずつ動いていく。そこには呪いも、恐怖もない。ただ、二人が同じ時間を過ごしていた。


湊は窓の外を見た。庭の花が、風に揺れている。そのとき、どこからか声が聞こえた気がした。


『ありがとう』


湊は微笑んだ。


「どういたしまして」


その夜、湊はチェス盤を木箱にしまう。箱の底には、かつて三本の傷が刻まれていた場所があった。


しかし、傷は消えていた。


代わりに、小さな文字が一つだけ残されていた。


『FIN』終わり。


湊は箱を閉じた。百年以上続いた対局は、ようやく終わったのだ。

勝者はいない。敗者もいない。


ただ一人の魂が自由になり、もう一人の人間がその魂を忘れずに生きていく。


それが、この物語の最後の一手だった。



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