最終話 ※
「……あーあ。また、家を立て直さないとね」
弟たちがすっかりいなくなった後、リスガがげんなりとした表情で声を上げる。即、隣にいるダデラが「お前は畑で盗み食いしかしてないだろ」と突っ込みを入れた。
むっ? そうなのか、リスガ。
俺が小言を言おうとすると、察知したリスガが山の方に逃げていった。ああっ、炭酸水が湧き出る場所に行くつもりだな!?
「待てっ、リスガ! お説教の時間だ!」
「やなこった! もうっ、追いかけてくるなよー!」
「ダメだ! 本当にお前って奴はー!」
追いかけっこを始める俺たち。なんだか懐かしい。出会った時も、確かこんな風に追い回してしまったような……?
いや、今は別におかしくないはずだ。俺が悪いんじゃない。
「平和ですね」
「ええ。とても」
レノスとカザロが微笑ましそうな笑顔で頷き合っている。他、右に同じだ。
イブキもまた、やれやれと言いたげに息をついていた。
「--は!? ヅラだった!?」
「はい」
それから数ヶ月後。すっかり秋めいてきたライリーレ王国に、サーシェ王国からとんでもない真実が知らされていた。曰く。
『あの船に置き忘れたままだったという小箱の中……教皇様のカツラだったそうです』
カザロは苦笑している。それはそうだ。
「教皇猊下のカツラって……なんだ、そのオチ」
新設した村長宅で、俺はがっくりとするほかなかった。たかが、カツラの件であんな大事になっていたのか。っていうか、カツラが国家機密情報ってなんだよ。バカどもなのか。
「まぁ、ラーシ様。よかったじゃないですか。これでカザロさんたちみんな、こちらに引き抜くことができるのですから」
宥めるように苦笑するのは、いつもながらレノスだ。
全くもってその通りで、カザロたちは無事にライリーレ王国に移住ということになりつつある。次の書状のやりとりで、改めてサーシェ王国に出向くことになりそうだ。
「それはそうだけど……はぁ。バカらしい。あの戦いはなんだったんだ」
「ああ、ケゼータ様からも伝言を書状にて預かっております。先日は申し訳なかったと」
「それだけか!?」
あいつ……あれだけ、俺たちに息巻いておいて。
いやまぁ、俺たち自身に被害はなかったけどさ。それもイブキ無双のおかげだ。
「はぁ。船もまだ鋭意製作中だし……本当に迷惑な奴だったよ。まったく」
レノスもカザロもひたすら苦笑いだ。グチグチと言っている俺のせいでもあるかもしれないけど、これは愚痴を言いたくもなるだろ。せっかくカレシア王国と取引しようという矢先のことだったし。
「ライリーレ号が出来上がるのですから、いいじゃないですか」
「もう秋になってしまったけどな」
「あ、畑に『じゃがいもの種』を植えたばかりですよ」
サッと懐から『じゃがいもの種』の小袋をチラ見せするレノスに、俺は吹き出した。もはや、持ちネタか何かか。
「はは。いい加減にしろよ」
つい笑顔を見せる俺に、カザロが声を立てて笑う。平穏だ。ほっこりとする。
そこへ、執務室の扉が開いた。
「ラーシヴァルト」
「あ、イブキ」
やってきたのは、真面目な顔をしたイブキだ。でも、俺を前にしてふっと優しい笑みをこぼした。
「待たせた。ライリーレ号の方、完成した」
「マジで!?」
おお! とうとう完成か! やった!
これでカレシア王国に炭酸水を運べるし、他の国にも外交や遊楽にも出かけられる。ずっと島に閉じこもりっぱなしで、ちょっといかがなものかと思っていたんだよ。鎖国しているわけでもないのに。
俺は笑顔で席を立った。
「お疲れ! よくやってくれた!」
「大したことはない。それにみんなの力も借りてのことだ」
「ああ」
早速、見に行こう。イブキの言う通り、他の作業員たちのことも労わないと。
俺は己の護衛騎士を振り返った。
「レノス。ちょっと行ってくる」
「俺も行きます」
「僕も」
ぞろぞろとレノスもカザロも俺の後ろをついてくる。が、開けっぱなしの窓から、ひんやりとした秋風が吹き込んだ執務室で、書類があちこちに飛び散ってしまった。
「ああっ!」
すっかり、窓を閉めるのを忘れていた。なにせ、ここは本当に平和だから。
俺たちは雑談しながら書類を拾い始めた。じゃがいもはいつ収穫できるのかとか、カレシア王国にはいつ発つのか、誰が行くのか、とか。
いや、なんでじゃがいもの収穫が先にくるんだよ。俺たち。
……ああ、そういえば。
「なぁ、イブキ。鍛錬の方も、そろそろ再開してもらえるか?」
イブキは顔を上げ、「ああ」と軽く頷く。翡翠色の瞳をきらりと輝かせた。
「戦力の増強を図ろう」
「あ、えっと……ほどほどでいいからな。今のところ。あはは……」
レノスは苦笑いだ。レノスもまた、イブキ鬼師範の扱きようを知っているからだ。
カザロだけは、ちょっと震え上がっていた。以前の鬼鍛錬がトラウマなのかもしれない。
「ねね! ライリーレ号、完成したって本当ー?」
今度、現れたのはリスガだ。情報通だな。他の作業員から聞いたのか?
「ああ。もう乗れるぞ」
イブキが柔らかく笑いながら応える。
リスガは「やった!」とぴょんぴょん飛び跳ねた。さすが猫少年だ。微笑ましい。
「早く乗りたい! 行こっ、ラーシヴァルト」
「はは。ちょっと待ってくれ。この書類を拾い終わってからだ」
わがままなような、甘えん坊のような猫少年をどうにか待たせ、俺たちは急いで書類を床から掻き集めた。
「みんな、ありがとう。--じゃ、行くか!」
今度はきちんと窓を閉めてから五人、部屋を出た。村長宅を出るとダデラも待っていて、総勢六人で港の方に向かう。
小一時間ほどかけ、簡易港に出ると……おお! 本当だ。小さめではあるけど、新築の木造の船がどーんっと待ち構えてくれていた。
これが、ライリーレ号か! カッコイイなぁ。
「リスガ、行ってみようぜ」
「うん!」
リスガとダデラのお子様ペアが全力疾走して、ライリーレ号に向かっていく。ほどなくして、ライリーレ号の中からぶんぶんと手を振る二人がひょっこりと現れた。
「みんなー! おいでよー!」
「ああ!」
俺も大きな声で応える。イブキたちを振り返って、「行こう、三人とも」と楽しく笑いながら声をかけた。
大人組かもしれない四人、のんびりと船まで歩く。
「いい国になりそうだな。ライリーレ王国は」
イブキが隣で呟く。
俺は笑顔で「ああ」と同意した。
追放王太子が仲間と始める建国記は、これからもまだまだ続く。
【完】
ご拝読いただき、ありがとうございました!




