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 それから本格的に村作りが始動した。

 俺たち四人と、サーシェ人たち十五人。力を合わせ、村作りに勤しんでいる。

「おおー! ここが『村長宅』か」

 今、俺の目の前にある木造の一軒家。外壁には、『ラーシヴァルト村長宅』という木の看板が立てかけられている。

 この真新しい家は、イブキが建築してくれたものだ。

「お気に召したか? ラーシヴァルト」

「うん、すごく。さすが、イブキだな」

 もちろん、他にも人手はあっただろうけども。

 イブキは難破船に関しても大部分を修理してくれたし、本当にありがたい。助かるよ。

 イブキは「大したことはない」と謙虚に笑った。

「今日からもう使うか?」

「ああ」

「レノス殿と一緒に?」

「多分」

「……そうか。俺はあそこに残ることにしよう」

 あそこ。リスガの実家のことだだろう。リスガも元いた実家がいいだろうし、となるとリスガのことを頼めるな。

 俺はにこっと笑った。

「リスガのこと、よろしく頼むよ。あいつ、いびきが最悪だけど」

「はぁ……。だからお前は『配慮なし王子』なんだ」

 これみよがしにため息を吐かれ、俺はむっとする。

「イブキだってたまに辛辣なことを言うじゃないか」

「それは配慮していないのとは違う」

「そうか?」

 何が違うのか分からないけど、まぁいい。俺はいそいそと村長宅の中へ入った。

 ちなみに村長宅は二階建てだ。一階には二つ部屋があって、他には台所や筒式風呂が設置されている。

「さすが、新築は綺麗だなー」

 俺はひとりごちながら、二階に上がると、こちらには寝室が二つ。そして、大きな宴会用のようなスペースが一つあった。

 寝室の片方は俺、もう一つはレノスが使えばよさそうだ。宴会用の方は……来客用かな。

「ラーシヴァルト。どうだ」

「いい感じだよ。本当にありがとうな」

「あんまりすぐには壊さないでくれよ。以前のように魔法で雷を仮に落としたら、家が真っ黒焦げになってしまう」

「こ、この家で魔法を使うわけないだろ……」

 そんなことが起こったら最後、村全体の大火災になりかねない。

 俺はがっくりとしつつ、角部屋の寝室の扉を開けた。窓が開けっぱなしになっており、ふわっと春風が吹き込んでくる。

 カーテン……らしき布もしっかりあった。気配りが細やかだな。見かけによらず。

 と口に出したら、また『配慮なし王子』だとお小言を食らいそうなので、そこのところは黙っておく。

「イブキにいちゃーん!」

 ん? ダデラの声だ。

 窓の外から階下を覗き込むと、そこにはやっぱりダデラがいた。細長い木の棒を持って。

「ダデラ、どうした?」

 俺が先に応えると、ダデラは「イブキにいちゃんは?」と再度繰り返す。

「ラーシヴァルト。ちょっとすまない」

 ようやくイブキが俺の後ろから顔を出した。ダデラに向かって声をかけると、ダデラがぱっと顔を明るくした。

 最近、ダデラはイブキとすごく仲がいい。理由は--。

「イブキにいちゃん! 鍛錬つけてくれよ!」

 そう。近頃、イブキはダデラに木の棒を使った武術鍛錬をつけているんだ。いや、ダデラじゃなくてサーシェ人みんなにも。

 この島はあまり周りから周知されていないと言っても、いつ侵略者がやってくるか分からないところだからと。イブキが自ら進んで引き受けてくれたんだ。

 リスガは……痛そうだから嫌だと逃げ回っている。困った子かもしれないけど、可愛いから許す。

「分かった。そこで待っていてほしい」

「うん!」

 きらっきらっと目を輝かせる少年の姿は眩しい。純粋に応援したくなる。

 強くなれよ。ダデラ。

「じゃあラーシヴァルト。俺は行くから」

「俺も見に行っていいか? 興味があって」

「別に構わないが……大したことは教えていない」

「嘘つけ」

 そうでなかったら、大の大人が悲鳴を上げて逃げ出そうとしないだろう。どのくらい鬼師範なのかを探るためにも、見に行かないと。

 イブキは肩を竦めるだけだった。自覚がないんだろう。鬼だけに。

 イブキと一緒に階段を下りて外に出る。さらにダデラを連れて、広場へ足を向けた。

 そこでイブキたちは鍛錬を始め、俺はそのイブキの俊敏さに驚かされた。ダデラにひたすら防御の型をとらせていたんだけど、イブキの矢のような打ち込みようは凄まじかった。

「はぁっ、はぁっ……」

「もう限界か?」

「まだまだっ!」

「二人ともストップ!」

 なおも続けようとしている二人の間に割って入る。

 いつもこんな激しい鍛錬をしているのか。アルヴェルス王国で俺に鍛錬をつけてくれた鬼教師の騎士ですら、ここまで厳しくなかったのに。

 これじゃあ、大抵の男は逃げ出すわけだ。

「イブキ。そんなに急いで人材育成しなくても大丈夫だから。もっと、気長に。な?」

「ゆったりとした指針をとっているつもりだが……」

 嘘だろ。鬼だろ、あの扱き方は。

 俺はもうはっきりと口にした。他の民のために。

「イブキが強いのはよく分かった。でも、その基準で稽古をつけても、他のみんながついていけないんだよ。精神的にも肉体的にも」

「……」

「でも、イブキがいてくれるから本当に助かってる。毎日ありがとう」

「……ふっ。人たらしだな」

 ようやくイブキは笑みをこぼす。

 俺はきょとんとするほかない。人たらしって、どこがだろう。

 イブキは刀を腰の鞘に収め、くるりと踵を返した。

「今日の鍛錬は終わりだ。俺はまた、船の修理班の方を見てくる。じゃあ」

「ありがとう! イブキのにいちゃん!」

 ダデラは息を弾ませたまま、精一杯の声量で叫ぶ。

 イブキの背中が見えなくなった後、ダデラがなぜか俺の足を軽く蹴った。いてっ。

「何するんだよ。ダデラ」

 俺が困惑して訊ねると、ダデラは不服そうだ。

「もっと鍛錬をつけてほしかったのに。余計なことを言いやがって」

「あのな、ダデラ」

 俺はそっと息をついた。諭すように、真剣な眼差しでダデラを見つめる。

「早く強くなりたい気持ちは分かるよ。でも、急ぎすぎても人は成長できない。日頃の地道な修行が必要な分野だからだ」

「どういうこと?」

「ダデラはまだ体が成長しきっていないだろ? 体の成長に合わせることも大事だってことだよ」

 ダデラはまだまだ筋力をつけていかないといけないからな。急いで小手先のテクニックをつけるよりも、まずは小さな積み重ねが大切だ。

 そう説明すると、ダデラもようやく納得してくれたようだった。

「はぁ。それにしても、腹が減ったなぁ~」

 その場にぺたんと座り込むダデラの言葉に、俺は思い出す。そういえば。

 この島には主食と呼べる物がない。これまでは魚のすり身や野生動物の肉だけでどうにかしのいできたけど、パン、つまり小麦がないせいであまりお腹が膨れない。

 どうにか、小麦を手に入れる手段はないものか。

「そうだな。どこかの国から小麦を輸入できたらいいんだけど」

 パンを焼ける釜なら村長宅に備え付けてもらった。あとは小麦を輸入して、粒、そして粉にして生地作りをし、パンを作るだけだ。

 ダデラがぱっと顔を輝かせた。

「パンが作れるようになるのか!?」

「そのつもりだ」

「よっしゃ!」

 小さく拳を握って嬉しそうに笑うダデラを、俺は温かい眼差しで見つめる。なんだかとても、弟王子のエリューハニスのことを思い出して懐かしい。

『ラーシ兄上! 巷で噂のメロンパン、お一つどうですか?』

『おお、ありがとう。じゃあ一つもらうよ』

 薄緑色のパン生地でふっくら焼けたメロンパンの味。今でも覚えている。エリューハニスと二人で笑いながら食べたというのもあって。

『ウーシュは? 食べないか?』

 後ろで本を読んでいるウシュベルーナに声をかけても、素っ気なかった。今思えば、あの頃からもう嫌われていたのかもしれない。

 もう遠くに感じる。アルヴェルス王国での生活が。



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