六月八日 ガールフレンド
「…え?」
「…最悪のケース、そういうことなんですが…ショックなのも無理ありません」
「だって六月終わったら戻るって…」
「そのまま自分の意志を保つことが出来れば、間違いなく戻ることは出来ます。ただ、この病気は繁殖のために起こるって言いましたよね?」
「は、はい」
「発情するんですよ、あなた自身が。そして男の人を誘惑したくなる」
「そ、そんなことになるはずがありません!俺は女の子が好きですよ!?」
「そうやってずっと思っていられれば大丈夫です…ですが、心までもが女の子になってしまえば…もう戻ることは出来ないのです。つまり…自分が男を好きになった時は危険だと思っていてください」
「おっはよー!」
「あ、おはよう、高杉くんどうしたの?機嫌がいいみたいだけど」
あれ?そんな風に見えたのだろうか?別にいつも通りにあいさつを交わしたつもりだったけど。
「とくに、なんにもないよ?」
「本当?でもすっごく楽しそうに見えたよ?」
「気のせいだって」
「じゃあ…そのカバンについてるストラップはなんなのかな?」
「あ、これ?」
ん?なんでそれが関係あると思ったんだろ?別に普通のストラップじゃん。まぁ、先週は付けてなかったから変に思うのは仕方ないのかもな。
「これはな、昨日ゲーセンで取ったやつだよ。気に入ったから付けてんの」
「へえ…」
ストラップを執拗に触ってる。一体どうしたんだろ?
「ねえ」
「ん?」
「これ、高杉くんが取ったんじゃないでしょ」
「えっ?」
な、なんでわかったんだろ?うん、確かにこれは昨日ゲーセンに言ったときにあいつが取ったやつだけど…
「…たぶんだけど、これ、いつも一緒にいる彼が取ってくれたやつなんじゃない?」
「別にいつも一緒なわけじゃないよ!」
「取ってくれたのは否定しないんだ」
「うっ…」
取ってくれたって言うか…取れなかったのを見られて勝手に取り出したって言うか…うん、勝手に恩を売られた感じなんだよ!別に頼んでないし!
「と、取ってなんて言わなかったよ?」
「でも嬉しそうじゃない。朝からニヤニヤしちゃってさ」
「に、ニヤニヤなんかして無いってば!」
「はははは、ゴメンゴメン。ちょっとからかっただけだから。もう、狼狽えちゃって可愛いんだから」
「もう…」
なにが可愛いだよ。褒められてると思えないって。俺は…男だぞ?なにを考えてるんだか愛は。
「それにしても…最近は学校で一緒にいないよね?」
「え?あいつ?」
「うん、そう」
「そんなの…仕方ないって言うか当たり前だよ。だってただ同じ中学校だったってだけの関係だったから。俺にはもう愛って友達が出来たんだし」
「そう?えへへ、ありがとっ」
かわいいなぁ…
「でもね、じゃあなんで日曜日に遊んだりしたのかな?」
「どういうこと?」
「だからっ!友達でもなんでもないなら遊んだりするわけないじゃん。ていうか誰から誘ったの?」
「えっと…あいつからだよ?ただ、遊ばない?ってメールが来て…」
「ふーん…なるほどねぇ」
一人納得されても…っていうかなにに納得してるんだろ?
「ちょっと妬いちゃうなぁ」
「今日は曇りだけど?」
「日焼けの話じゃないよ!誘われたんなら仕方ないけど…私も高杉くんと遊びたかったなぁ」
「あれ?忙しかったんじゃなかったっけ?」
「それは土曜日の話でしょ?日曜日もなんて言ってないよ」
そうだったのか…でもまた明後日、って言ってたくせにわがままだよな。そんな言われ方なら日曜日に遊ぶなんて発想は浮かばないよ。
「えっと…ごめんな?愛も誘えばよかったんだよね?」
「違うよ、そうじゃなくって…はぁ、やっぱり彼にはかなわないのかな…」
「?」
愛はたまによくわからないことを言うなあ。遊びたかったのなら三人で行けばよかったってことじゃないの?
「…ねえ、結構ストレートに聞くけど…高杉くんって、彼のこと…」
「ん?」
「彼のことどう思ってる?」
そりゃ…
「遊び友達とか、数少ない同じ中学出身とか…」
「そうじゃなくて!人間的に!」
そんなこと言われてもなあ…そんなに親しいとも思えないからコメントしずらいんだよ。だいたいあいつのことあんまり知らないし。知ってることはメアドくらい?あと俺より身長が高いとか。
「そういえばアレも…」
「アレってなに!?」
「あっ、いや、女の子には関係ない話だから」
「…もしかして下ネタ?」
「あ、うん、ごめんね?まったく関係ないから、うん、思い出してただけ」
「…関係あるよ、彼の見たことあるの?」
「えっと…中学の時の修学旅行かな?大浴場で…」
「ふーん…どうだった?」
「女の子の前でさすがにそれは言えないよ!」
なんかテンションおかしいよ?でも目は座ってるような…
「高杉くんだって、今は女の子でしょ?女の子の間で隠しごとはなし、だよ?」
女の子だなんて…あんまり言って欲しくないなぁ。やっぱり愛は俺が女の子としか見えないのかな?
「ねえ?どうだったの?」
「あ、うぅ…その…意外と大きかったなって…」
「…」
「あ、でも二年前のことだから!」
「もっと、てことかな?」
しまった…墓穴掘った!
「あ…そう…なのかな?あは、あははははは…」
あれ?なんか身体が熱くなってきた。恥ずかしいから?やっぱり女の子とするような話題じゃないよな?いや、でも女の子って意外とこういう話題好きだったりするから…
「おはよっす!」
「うわぁっ!」
いきなり肩叩かれた!なんだよ!噂をすれば来てんじゃないか!
「あれ?お邪魔したか?…ん?お前顔赤くね?」
「赤くないよ!」
えっ?嘘?赤くなってんの?気のせいだよね?嫌だ嫌だ!下ネタぐらいで赤くなるなんてどこの純情ボーイだよ!そんなんじゃ彼女できるわけないって!
落ち着け俺!いや、最初から落ち着いてる!
「…変な奴」
「ねえ」
「ん?」
あっ、愛が話しかけてる。
「なんだよ?」
「…大きいの?」
「はぁ!?」
め、愛!何言ってんだよ!恥ずかしいからやめて!
「なんのことだよ?つうかこいつ悶えてるけど大丈夫なのか?」
「多分大丈夫なんじゃないかなぁ?」
だ、大丈夫じゃないよ!それに別に悶えてるんじゃなくてあたふたってニュアンスにしてよ、せめてでもさ!それじゃあまるで発情した猫みたいな言い方じゃないか!
「高杉くん、冗談だから。顔あげて?ほら、あなたももういいよ?」
「なんだ?一体?まぁ、いいや。んじゃな…」
冗談?なにが冗談だよ。まったく、ハラハラしてんだよこっちは。
もしかしてそんな俺を見て楽しんでた?
「…?どうしたの?」
「あ、いや…なんでもありません…はは」
「変な高杉くんだね」
変なのは愛のほうだよ。って言いたいけどこんなキラキラした笑顔の前じゃ…なにも言えないです。
あーもう!これからは変に下ネタとか考えるの止めよう!
あと、愛には気をつけよう。油断したらネタにされるから。