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六月七日午後 遊び友達

「幻…ですか」


「元の姿とはまったく変わってるでしょう?だからそう言われるんです」


「…もし七月に男に戻ったとしても、これからずっと六月はこの姿になっちゃうんですか?」


「…わからないですね」


「なんでですか?だってさっきは六月だけはって…」


「前例がないんですよ、そういうのを何年間も繰り返した人物の。いや、繰り返すことができた人物の、ですかね」


「…どういうことですか?」


「…落ち着いて聞いてください。今までこの病気にかかった人たちは全員…最終的には本当の女になってしまってるんです」










「腹減ったな」


「あぁ、そうだな。近くで何か食うか」


「うん」


俺たちは街中を二人で歩いていた。ただ、何をするわけでもなくぶらぶらと店から店へと渡り歩き約二時間、いつの間にかお昼だ。


しかし、久しぶりなもんでなかなか要領が掴めないんだよな。男二人ってどんな感じに遊べばよかったんだっけ?まぁ、そんなことはご飯を食べてからでいっか。


「どこにする?」


「俺はファーストフードとかでもいいよ。あんまりお腹空いてないし」


「お前、朝飯抜いたんじゃねえのかよ?本当か?」


「うん。どのみちあんまり食べられないからさ」


「じゃあ…あのハンバーガーショップでいいか?」


「うん、いいよ」


手近にあるところで済ませることにした。うん、遊ぶのが目的だから食事なんてのは二の次でいいんだよ。







「ご注文は何になさいますか?」


「ええ…俺はビッグハンバーガーのセット。コーラで」


「えっと、俺はテリヤキハンバーガーのセット。ドリンクをウーロン茶でお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」





「おい」


メニューを受け取った後でヤツが話し掛けてきた。怪訝な表情の真意がちょっとわからない。


「なんだよ、変な顔して?」


「変なって言うな!変なのはむしろお前だろうが。今のお前は女の子の姿なんだぞ?なのに『俺』なんて使ってたら変人かと思われるだろが!」

「あっ」


ヤベーしまったな。女の姿になったら面識のない人との接触は避けてきたから…女言葉に慣れてないからどうもいつもの調子で喋ってしまったみたいだ。そうだよな、女が『俺』は少し変か。でも私なんて言うのも気が引けるんだよな…


「店員さんはスマイルだったけど…だめかなぁ」


「店員は客に失礼はできないだろ?少なくともあの人も少しは変なやつと思ったんじゃないのか?」


そう考えるとちょっと恥ずかしいな。人から見れば変人か…いや、間違ってなくはないけどね。


「…俺っ娘ってどうかな?」


「お前…バカだな」


「ば、バカ言うな!妥協案としてそういう見方も出来るだろって言いたいんだよ!」


「まぁ、俺は嫌いじゃないけどな、俺っ娘。つうか一人称で人は判別しちゃだめだと思うけどな。でも人の価値観なんて人それぞれだからな、やっぱり他人に合わせていく方が無難なんだよ」


「…つまりは?」


「俺っ娘は俺の前だけにしとけ」


「はぁ…そうですよね」


まあ、仕方ないか。それだとやっぱり私って言うのが自然かな。


「練習する!」


「いきなりなんだよ。そんなん臨機応変でいいだろ」


「いいじゃん、いいから聞け!」


「まぁ、いいけど…」


はぁ…緊張するなぁ…ん?何に緊張してんだろ?わけわかんね…


「ごほんごほん。わ、私は高しゅぎでふっ!」


「…」


か、噛んでしまった…


「…ぷっ、ぷくくく…」


「わ、笑えよ…笑うなら我慢するなよ!笑いたきゃ笑えよ!」


「ぷ、だってよ…くくく…普通マジでミスると思うか?練習した意味がわかったよ。いや、むしろ練習でよかったな」


くそ…バカにしやがって!大体誰の所為で緊張したと思ってるんだよ!ふざけやがって!


「もういいよ!ほら、さっさと食べて遊びに行こ!」


「はは…ん?お前はもういらないのか?」


「食べる気すっかりなくしたよ」


「じゃ、それもらうわ」


「お好きにどうぞ」


そのまま太ってしまえ!









「映画?」


「あぁ、定番だろ?」


「うん、そうだけど…映画なんてカップルで見るもんじゃない?」


「今の俺たちはどこからどう見たってカップルだろ!」


「それが嫌なんだよ!友達にでも見られたら…」


「あれ?お前友達なんていないだろ?」


「うっ、そうでした…って違う!出来たつっただろ!」


あ、思い出しちゃった。今日は遊ぶことに集中したかったから忘れておこうと思ってたのに。なんでだろ…疾しいことなんかないのに、心苦しく感じる。


「ん、どうした?胸なんか押さえて?痛いのか?それとも女になった自分の胸に欲情したのか?」


「ば、馬鹿いうな!デリカシーが無い奴!」


「ま、お前みたいなぺったんなら欲情するわけないよな」


「失礼な!」


「ん?胸が大きい方がよかったのか?」


「ばっ!?」


そんなわけはない!胸なんてあったら絶対邪魔になるし、これ以上自己嫌悪に陥りたくない!でも、ぺったんとか言われたら腹がたつ、なんでかわかんないけど!


「怒んなって」


「うるさいっ!…お前、胸が大きい方がいいと思うのかよ?」


…なんで俺、こんな質問したんだろ?興味本意?この場の乗りかな。


「ん?別にそういうわけじゃねえよ。胸はあることにこしたことはないけど、どちらかって言うと無い方がありかな?AからBくらい?」


「そ、そっか…」


あれ?なんで安心してんだろ。俺には関係ないことなのに。気にすることなんかじゃないのに。

「…どうした?また痛くなったのか?」


「うわっ、びっくりさせんな!」


「ちょっと覗いただけだろ?つうか、顔赤くないか?本当に調子が悪いんだったら無理は言わねえけど…」


「だ、大丈夫!なんでもないから!ほら、さっさと行こうよ!」


顔が赤かったって本当かな?嘘言ってるだけだよな?


「あ、あぁ。そうだ、チケット買うとき気をつけろよ。私だぞ?私!」


「わかってるよ!」









意外と面白かった、恋愛モノだったのがアレだけど。俺、あんまり映画とか見ないから楽しめないと思ってた分十分過ぎるくらいだった。もしかしたら感性とかも女の子よりに変わっちゃったんだろうか?


それは…嫌だけど。


「いやぁ…さすが評判がいいだけになかなかの作品だったな!」


「うん。最後がちょっと切なかったね。主人公とヒロインが別れちゃうところ」


遠距離恋愛になってしまい、泣く泣く別れることにした二人。そこにはちょっぴりうるっときた。


「お?お前に切ないとかわかるのかよ」


「ううん。でも心がきゅーってなった」


「そっか…」


こいつってよくこんなのを見るのかな?とてもそんな風には見えないけど、いつもへらへらしてる分、どんな気持ちで見てるか気になるな…


「恋愛モノって初めてみたよ、私。でも意外とおもしろかった…というか共感するとこがあったって言うか…うまく言えないけど」


「…!?お前…!?」


「ん?どうかした?」


「だって今…」


「俺がなんか変なこと言ったかな?失礼極まりないぞ!たまには感傷に浸ってもいいだろ」


「いや、ちが…いやいい」


なんだよ、いつも見せないような表情してさ。なんか悲しそうな…


「…そうそう!まだ時間あるよな!今からゲーセン行こうぜ!今日はあんまり楽しんだって感じじゃなかっただろ!」


「えっ?映画は結構おもしろかったけどなぁ…」


「ハッスルはしてないだろうが!ちょっとぐらい汗を流してから帰った方が遊んだ気分になれるだろ?」


は、ハッスルって…なんて表現だよ。もっといい言葉あるだろうに。えっと…あれ?思いつかないな。まぁ、いいか、ハッスルでも。


「うーん。お前がどうしてもって言うんなら付き合うよ」


「よし、決まりだな!んじゃいくぞ!」


「へいへい…」


ま、ゲーセンは好きだから全然オッケーなんだけどね。むしろ遊び倒してやる!






「悪かった…」






行く途中あいつがなんか言った気がするけどよく聞こえなかった。

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