7月1日
「……おはよう」
「――! あ、そうか! マジで……あぁ……はぁ」
「悪かったな。バカ野郎」
「せっかく可愛かったのになぁ……面白くねぇの」
「俺は清々してるけどな。どこぞの変態の視線が薄くなるおかげで。――まぁ、しばらくはみんなにもの珍しく見られるだろうけど。本当、戻ってよかった」
「そんなに男がいいのか? 女の子ってのもそれはそれで楽しそうだけどな」
「俺は元々が男だから勝手が違う。純粋に女の子の生活を楽しめるわけがない。それにお前みたいに神経ずぶとくないし」
「そっか。ま、お前がいいならいいや」
「なんだ? 素直になったじゃないか」
「だって、来年も見られるんだろ? 女の子のお前」
「バカか。そのころにはもう学校が別だ」
「あ、そうだったな……じゃあ、同じとこにする」
「はぁ! キモい! マジ止めろ!」
「やめねえよ。どうせ行くとこ決まってなかったし。何人か知り合いがいるとこが気が楽だし」
「俺はその逆だ! 高校生活ぐらい、真新しくスタートしたいんだよ!」
「ふ、俺には関係ないな」
「くっ……だったらお前より、後で進路希望出してやる」
「うまくいくと思うなよ? 俺はやると言ったらやるからな」
「……せめて違うクラスでありますように」
「おいおい、そんなに嫌かよ」
「嫌だ」
「事情知ってるヤツが一人いるくらいが絶対いいぞ? いざとなったらお前が泣き付くに決まってる」
「建前うざい。それにどうせ、気味悪がるような奴だったら友達なんかにならないし。受け入れてくれる奴だけでいいし」
「ん」
「ん?」
「ほら、ここに」
「お前はいらない」
「ちっ、素直じゃないのはお前だな。本当はうれしいくせに」
「女の子に言われたらそうかもね。男に言われても……」
「お前、半分女だろ」
「黙れ!」
「怖っ……だが、まぁ確かに内のクラスのやつ、案外冷たいからな。わかるさ、ここの学校の知り合いといたくないのは」
「だったら無駄なことはするなよ」
「はいはい……」
「くそ……六月大嫌いだ。なんでこんな普通じゃない悩みを抱えなきゃならないんだ」
「俺はむしろ大好きだ、六月」
「変態が! 本当、七月を迎えてよかったよ」
「俺は七月のが嫌いだな」
「ん? まさか、俺が男に戻るからとか言うなよ?」
「それもあるけど、まぁ違うな」
「あるのかよ……」
「だって、七月は……夏休みになるじゃないか」
「夏休み? むしろうれしいだろ」
「いや……あぁ、ほら、寂しくなるだろ」
「ん?」
「お前に毎日会えなくなるから」
「キモい。それが本気だったら引くぞ」
「本気だって! 大事な友達なんだから!」
「そんな軽い口調で言われてもね。それに、お前に言われたってちっとも嬉しくないし」
「……お前、友達なくすぜ?」
「もうすでにいなくなったし。今さら誰になに言ったって……」
「おいおい! 俺がいるじゃないか!」
「はいはい、勝手に思ってればいいよ」
「言ったな? じゃあ俺はお前を親友とする。学校も同じにする! いいな!」
「はいはい。楽しみにしときますよ。どうせ、女じゃない俺なんかすぐ飽きるだろうから」
「はん、その言葉後悔させてやるぞ! だから――」
―――――――――
「どう?一年前と比べて。そもそも、自分が女の子になっちゃったんだから、俺を見て楽しむなんてことできなくなったんじゃない?」
「いや……やっぱりさ、思ったんだ」
「なにが?」
「楽しむとかじゃなくて、本当に、純粋に、一番居心地のいいやつといたかっただけだったんだって」
「それは、俺が男、女関係無しにか?」
「あぁ」
「でも、きっと俺はお前のそばにはいないよ。決めたんだ愛と付き合うって。それでもいいの?」
「別にいいさ。決めたことなんだから。ただ、一つだけわがままを聞いてくれるならさ」
「なに?」
「女の俺とは友達でいてくれないか? いや、なって欲しいんだ」
「……それは、男の俺として?」
「いや、お前としてだ」
「じゃあ駄目だ。お前は、今も前も、男とか女とか関係無しにお前だぞ。片方だけとか都合よすぎだから。それに仲直りして欲しい、ぐらい言わないと」
「じゃあ、仲直りして欲しい」
「――うん。それぐらいがいいや。そういえば、今日、何曜日か覚えてる?」
「――わかってるさ」
「持ってきたか? ちゃんと」
「いや、忘れてきたことにしまおうと――だから、無い」
「ふっ、実は俺、あっちの方も持ってきたんだなこれが」
「お前――男のときにそれを持ってるのは問題あるんじゃないのか?」
「黙れ。あの時受けた屈辱はお前にも味わってもらうんだからな。ほら、受け取れ」
「……はぁ」
「あ、あと愛に頼んでおいたから。着方教えるようにって」
「許してくれたのかよ」
「うん。まあね。じゃ、俺は男子の方に行くから、愛によろしく。楽しみにしとくよ、お前の水着姿」
「――あ、あぁ」
「あ、そうだ」
「ん?」
「明日からは、三人でもいいかな? 昼飯」
「……こっちからお願いする」
「オッケ。じゃ、明日も晴れるよう祈っとくね」
「……あのさ」
「ん?」
「あ、……ありがとう」
「やっとごめん、すまんっての止めてくれたね。そっちがいいよ」
「……わかった」
「じゃ」
たぶん、これで元通り。納得の行かないことはお互いにあるだろうけど。
いや、元通りじゃないか。いろいろ変わったからなあ。でも、前よりずっとましになった。いろいろと。
きっとしばらくは問題が起きることもないはず。また、六月がくるまでは。
でも、きっと、来年は……何も起こらないような気がする、なぜなら「俺」は――
六月だけの姫さま
終わり