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六月二十六日 うそつき

「甘えるって…それじゃホントに女の子みたいじゃないですか」


「これは失礼しました。そうですね、では言い方を変えましょう。あなたをあなたとして受け入れてくれる人…そのような人がいるのでしたら…存分に利用しちゃってください」


「…はい…あぁ、そう考えると少し気が楽になりました」


「それはそうでしょう。あなたは一人でこんな奇病を抱えようとしていたのですから。そんな重すぎる肩の荷は誰かに少しぐらい預けてしまえばいいのですよ」










「あ、あのさ…」


「ん?」


「め、飯、一緒に食べていいか?」


「…ずいぶん図々しいものだね」


「あ…ご―――」


「ごめんはうざいから言わないで。…いいよ、どうせ今日も一人だし」


「…大岡、今日も来なかったのか」


「そうだよ…」


「…」


「よかったなんて思ってない?」


「そ、そんなわけないだろ!」


「…愛がいないから一緒に食べようとか本当に思ってなかった?お前友達いるのにさ。こんな俺との気まずい飯を食べるよりはさ、仲良しのお友達とさ…ほら、昨日はそうしてたじゃん」


「…ごめん」


「な、なんだよ!また謝るの?お前さ、謝るの良いけどその前後をだな…今のだったらわけが…」


「……」


「あれ?おい…どうしたよ…」


震えてる?


「なんでもない。ほら、食べるぞ」


「あ、愛のとこ座るんだ?」


「…」


「嘘々、そこまでは俺だって言わないよ。いいからさっさと飯だせよ」


「あぁ」


「…お、メロンパンじゃん。なに?俺の真似?」


「…まぁな。甘いものも悪くないかな…って」


「だろ?なんか好みが変わっちゃうんだよなぁ。まぁ俺の場合もともと嫌いじゃなかったけど」


「別に好みが変わったんじゃなくて菓子パンぐらいしか腹に入らないから…」


「あっそ…――はぁ、久しぶりにお前と飯食べるのか」


「…迷惑だよな」


「だからいいって。まぁ、調子に乗ったら叩きつぶすけど。今は俺の方が大きいんだからな!」


くすっ……とホントに小さな声だけど聞こえた。やけに上品にこいつは笑った。


…これは調子に乗ってるよな?笑顔になったし。これは…怒っていいんだな!















足音が聞こえる。一応振り向いてみる。


何と言うか、前まで感じた変な威圧感はどこへ言ったやら、あまりにも矮小な存在が後ろから走ってきた。


「…なんだよ、下校まで付いてくんなよ」


「…はあはあ……め、迷惑か?」


「それ言ったらなんでも許されるとか思ってないよね?」


結構早めに歩いてたつもりなのに…まさか走ってくるとはね。いや、別に避けるために早歩きしてたわけじゃないけどさ…


えっと、つまりこれは最初から一緒に帰るつもりだということだよね?


「い、一緒に帰っていいか?」


「…疲れるんだよね…お前といると」


「う…」


言葉が止まる。こんなに押しの弱いやつだったかなこいつ?


「…ついてくるだけだよ?」


「え…あ、ありがとう」


なんでお礼を言われなければならないのさ。意味わかんない。








って、帰り道ずっと無言とか耐えられるわけないし!!


「…あぁ…お前とさ、歩いてると」


結局話しかけちゃうんだよね。


「な、なんだ?」


「注目されるんだけど?そんな恰好してるから」


「…へ、変なのはわかってるって。で、でも仕方ないから…」


「その制服じゃなくてもいいじゃん。せめて私服にしようよ。誰も怒る人いないって。ちょっとぐらいさ…」


「俺は…こっちが着たいんだ」


「いや、サイズ合ってないの着てたら不便でしょ?あちこちまくりあげて…かなり奇妙な状態だよ?それにまだ足元ふらふらしてるし、こけたりしたら…」


「くっ……そんな簡単に割り切れるわけないだろうが」


「はぁ?」


なんか怒ってない?


「…は、あ、いや…なんでもない」


「……気持ちはわかるけどさ。周囲の目線とか少しは気にしてよ?」


「ははは……」


「笑い事じゃないよまったく…そりゃさ、俺だってお前の気持ちはわかるよ?おんなじ境遇だから。でもさ、俺は堪忍して潔く女子の制服を着たんだよ。スカートを穿いたんだよ!わかる?はっきり言ってさ、皆俺のことどう思ってんだろ…って、毎日が憂鬱で仕方ないんだよ。いくら今は見た目が女だからってさ、やっぱり元男がスカートなんか穿いてるとおかしいと思うはずでしょ?それだけは考えちゃいけないってわかっててもやっぱり苦しくてさ…って、何言ってんだろ…俺」


「…お前…俺が思ってるより頑張ってたんだな」


「頑張るって言い方はやめて欲しいけどね。少なくともお前も俺の悩みの種のひとつだったんだから」


「そうだったな…」


「……そういやいい機会だからちょっと聞いていい?いや、拒否権はないね」


「な、なんだ?」


「俺をさ…変態だと思う?」


あ、きょとんとしてる。この姿での表情は可愛いんだけどな…中身があいつだから残念。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味。男なのに女子の制服着て何食わぬ顔して登校している俺は…変態ですか?って聞いてんの。いままでさ、客観的意見を聞いたことなかったからちょっと気になった」


「…俺はそうは思わない。病気の所為だからな」


「ふーん、じゃあさ…」


「?」


「セーラー服、着てよ。俺のをさ」


「は?」


「病気なら…変態じゃないんだろ?それって自分にも同じこと言えるよね?言葉に責任を持ってよ」


「あ、いや…」


「セーラー服が無いから着ない?なら貸すよ。ちょっとサイズ合わないかもだけど…着れなくはないでしょ?お前の方が小さいんだから」


「ど、どうしてもか?」


「うん」


「いつ?」


「今すぐお前の家で。俺の家に今のお前は連れてけないからね」


「…」


「ほら、行こうよ?」












到着…さて、さっそく部屋に…


「ちょ、ちょっと、待ってろよ」


「は?なに?片付いてないとか?お前、前に来たとき部屋綺麗だったじゃん」


「いや、散らかった。だからちょっと待っててくれ」


「ふーん」


入ろうとしたら部屋の前に追い出された。よほど片付いてないのか。でも、あいつに散らかすほどの元気があったようには思えないけどな…


どうせならどのくらい散らかってるのか確認してみたい。


あいつ、俺を信用してるのか鍵はかけなかったみたいだし…そっと開ければ…





って、前と全然変わって無いじゃん。どこが散らかってるってんだよ。これ散らかってるんだったら俺の部屋なんかゴミ屋敷って言われても仕方ないじゃん。


…で、あいつは一体どこに…あ、いた。


…あれ?なにか隠してるっぽくない?


あぁ…なるほど。そういうことでしたか。そりゃ思春期の男児ですからね。ってか見せてもらったこともあったような気がするね。改めて隠す必要なんかないだろうに…


ま、俺は最近全く興味がわかなくなったんだけどね…はぁ、そう考えるとちょっとまずいか。まだ、ああいうのに興味が持てるなら…ちょっと羨ましいな。


そうだ、ちょっと脅かしてやろう。女の姿でエッチな本を見られる…ってのも結構きついだろうからね。


そおっと…


「…うわああ!!」


「…ひっ!?」


「はははっ!そんなに驚くとは…」


ん?びっくりして落としたみたいだ。…?


「あ、あ…あ…」


「なにこれ?」


拾い上げる。どことなく既視感のあるもの…


ってか、これは…


「…なんだよ、持ってんじゃんか、セーラー服」


「あ…あ…!!!」


「結局、自分だけは着ませんってね。…なんだよ、偏見なんて持ってないと思ってたのに」


「ち、ちがっ――!!」


わかるよ?気を遣ってたんだよね。それはいいやつのステータスだ。でも…こいつなら――同じ立場に立たされたこいつなら、少しはわかってると思ってたのに。ホントはちーっとも理解する気なんてなかったんだ。


――俺とお前は違うってか。




「この…うそつき――」
















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